【ダイヤモンドに囚われる】
「指輪あげんの〜?重くね?」
いつものように僕の話を聞いてるのか分からない顔をしながら立花はアイスコーヒーを飲んだ。
カフェオレが大好きな癖して甘いから嫌だと言う辺り訳がわからない。
今日もまた甘っなんて言いながらアイスコーヒーをあおっている。
ミルクも砂糖も入っていない、ただのアイスコーヒー。
牛乳だって砂糖だって事前にあることを確認したのに。
また入れなかったのかなんて叱ってみればだって要らないもんなんて返ってきた。
「二人の純愛模様が甘すぎてカフェオレだと吐きそうになるんだよね〜」
「は、いや別に桜華とはそういう関係じゃ…」
「私桜華となんて一言も言ってないんだけど〜?」
はぁ、これだから甘々なんだよなんて言いながら空になったグラスを仕舞いに行く立花。
話を聞く気はないとばかりにそのままリビングでゲームし始める辺り参考にならない。
「…指輪じゃなかったら何をあげればいいんだよ」
「それくらい自分で考えなよ。何を思って選んだのか、何を求めてるのか、ちゃんと伝える機会になると思うし」
僕の方を見ずにただ立花はそう告げた。
面倒くさいからとかそういう理由じゃない、こいつなりに僕達のことを考えて言ったんだなと十分伝わってきた。
「これ今年の誕生日プレゼントです」
立花からはワンピース、兄さんからはヒールの靴、むぎとりりちゃんからは髪飾り。
「…ネックレス?」
真ん中にキラリと光るダイヤ、こんなの絶対高いんだろうなぁとわかるネックレス。
刀也くんは涼しい顔をしているけどこんなの誕生日プレゼントで渡すものじゃないよ。
「プレゼントなんだから返品不可」
戸惑う私に刀也くんははっきりとそう言った。
いくらなのとか今度お返しするからとか言っても全く反応はない。
だからって素直には受け取れないよ。
「予約、」
「へ?」
「だから、僕以外のやつにこんな贈り物されるなってことだよ」
手の中に輝くネックレスが首輪のように思えた。
「…されないよ、刀也くんにだけ」
「はぁ、そんなんじゃ勘違いされるぞ」
呆れるように刀也くんは笑った。
心配しなくてもちゃんと私は帰ってくるよ。
「今度…どっか行かない?」
「じゃあ遊園地にでも行くか」
ノリノリで私の提案に乗ってくれる刀也くん。
これは実質デートかもなんて勝手に期待してみても…いいのかな。
でも予約なんて言ってくれるんだから多分そういうことだと思うんだけど。
「刀也くん、プレゼントありがとう…大切にするね」
お前は立花みたいに飾ったりもしなさそうだし安心だよなんて返ってくる。
確かに立花はプレゼントをちゃんと飾るタイプだし変に勿体ぶっちゃう所あるからなぁなんて私も釣られて笑った。
「あんなのあからさまに自分のだって主張してるようなもんじゃん」
「恋してるうちは盲目なんだよ、立花も恋すれば多少はわかると思うけど?」
「お兄ちゃん、今のライン超えだから!」
きゃいきゃいとヤジを飛ばす立花ちゃんと灰くん、二人の見ている先はじれったい桜華と刀也くん。
お熱いなぁなんて考えながら桜華が大切そうに抱えるネックレスを見た。
確かに立花ちゃんが言うみたいにあれは刀也くんの証なのだろう。
自分のものだと主張するための首輪とも言えるのかもしれない。
それは桜華を繋ぎ止めるための鎖。
初々しいのか策士なのか分からないなぁ刀也くん。
外堀は確実に埋まっている、刀也くんと桜華が付き合うと聞いて止める奴なんていないだろう。
だからこそ恐ろしい。
輝くダイヤモンドから覗く執着心に俺は身震いした。
「今の子って怖いよね」
「ホントにそうっすよ…なにあれこわ…」
どうやら灰くんも同じことを考えていたようで心底同情する。
「刀也、お年玉もお小遣いもちゃんと貯めてたから…本気なんだねぇ」
立花ちゃんがぼんやりと呟いた。
これ以上甘い話を見ると砂糖でも吐けてしまいそうだ。
三人して遠い目をして笑った。あれはもう手の付け所がないと。
どうせなら少しでもたくさん幸せを感じてほしい。
刀也くんならそんなこと余裕で叶えてくれそうではあるけど。
兄として、俺はそれだけを切に願う。
「ねぇ!ケーキ甘くて食べれないんだけど!」
「ケーキが食べられないならパンを食べればいいんだよ立花」
「一体どこの王妃なのお兄ちゃん!」
ボケ始めた立花ちゃんと灰くんを収集がつかなくなる前に止めつつ幸せそうに笑う桜華の方を眺める。
不意に思い出したダイヤモンドの石言葉に思わず笑ってしまった。
『永遠の絆』…なんて、随分とあの二人らしい。
芽吹き始めた桜が祝福のように降り注ぐ、麗らかな春の日だった。