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溶けたクリームソーダ
グラスの中、まばらに入った氷をストローでかき混ぜる。
ただ何となさげに頼んだクリームソーダのアイスがゆっくりとメロンソーダと混ざっていく。
外は見ているだけでも暑そうで、それはクーラーが程よく効いた店内にいる私にも十分伝わってくる。
既読がつかない連絡相手のことをとりあえず気にしながらもぼんやりと外を眺める。
まぁあいつのことだから来てくれはするだろうななんて考えて。
静かな店内には知らないクラシックの音楽が緩やかに流れている。
時間さえも滞留した正午過ぎの喫茶店、私の意識はゆっくりと微睡に落ちていく。

応答しない着信、変わらない無機質なコール音に焦りが滲む。
太陽が少しずつ傾いてきたものの、暑さは未だに収まらない。
待ち合わせ場所に急ぐ、なんで勝手に行動させたんだか。今になって後悔している。
辿り着いた隠れ家的な喫茶店であいつは窓際の席で頬杖をついていた。
それはいつもと変わらない仕草で。俺にとってとても見覚えのある、眠る時特有の仕草で。
周りはただつまらなさそうに外を眺めているようにしか見えないだろうがあいつは間違いなく眠っていた。
飲みかけのクリームソーダが溶けて混ざっている。
水滴はコースターに飲み込まれている、温くなったソーダには炭酸さえ残っていないだろう。
「…やっぱり寝ちゃってたかぁ」
呼び掛けるなり目を覚ましてそう言って、黛は楽しそうに笑った。
「溶けちゃった」
さっとクリームソーダを飲み干して、黛はぐいぐいと俺の手を引いた。
静かな喫茶店を抜け出して、まだ少し暑い外に出て。
暑いねーなんて笑い合う、多分それだけでいい。
俺たちのよくわからない距離感はクリームソーダのようにいつか溶けるのかも知れない。
それでも今だけはそばにいたくて。