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息が苦しい、声が枯れそうだ、でもそんなことすぐにどうでも良くなった。
ただひたすらに泣いて、鳴いて、啼いて、哭いて。
温もりを抱きしめた、彼女はもう私を慰めてくれない。
「桜華っ…ほのか…ぁ」
周りの声はどんどん遠くなる、自分の意識さえ霞んでしまいそうだ。
なのに彼女だけが冷たい。
彼女がもう私の問いかけに答えてくれないことだけは、何故だかはっきりと分かってしまった。
突きつけられる現実が、痛い。
桜華は私を庇って死んだのだ。
私があの時よそ見をしていなければ…桜華は死ななかったのに。
私が殺した…私のせいで桜華は、死んだ。
「ゆるして…ほのか…わたし…」
答えてほしい、戻ってきてほしい。
叱ってほしい、それでも立花が生きててよかったよって、笑ってほしい。
思い出の中の彼女が褪せていく。
温もりが消えた伽藍堂の彼女を抱いて、私は懺悔した。
…元々許しなんて求めていないのかもしれない。
宛の分からない神様なんかに縋っても桜華が帰ってこないことなんて分かりきっている。
それでも口に出さずにはいられなかった。
罪の意識でこのまま潰れてしまいそうだ。
いっそそっちに連れて行ってくれと振りかぶった刃は止められて。
「どうして止めるの、」
ただ静かに首を振られた、そんなことしても桜華は喜ばないとそう言って私を咎めて。
真実味を帯びた言葉が刺さった、嫌でももういないんだなと自覚させられた。

「ばかほのか」
「だめ、立花それ以上は喋らないで…本当に死んじゃうよ!」
「そりゃ人間誰だって死ぬよ…それにもう助かんないだろうし、こんな出血じゃ」
立花が私を庇った、頭では分かっていても上手く考えが纏まらない。
ドクドクと立花の身体から止めどなく血が溢れる。
苦しそうに息を吐きながら立花は呟いた。
「桜華は自分のせいだーって思うかも知れないけどさ、単なる私の自己満だから」
いつもの軽い口調で、自らの死に場所を彼女は既に決めているようだった。
「散々迷惑掛けたね、今まで本当にありがとう…だいすきだよ」
そうしてゆっくりと抱きしめられる。
立花の腕が徐々に力を無くしていく。
「私も大好きだよ…立花、何で…私なんかを…」
答えが帰ってこないことが分かっていてもどうしても問いかけてしまう。
胸に喪失感が巣食う、彼女を喪った悲しみが漠然と全ての感情を上書きしていく。
信じなくちゃいけない、信じられない。
彼女はここにいる、彼女はここにいない。
今でも彼女が笑う声が聞こえる、ドッキリだよ桜華なんて…そんな嘘みたいなこと。
これが夢で、起きたら立花が寝言言ってたよなんて笑っていて。
それにつられて私も笑う、そんなありふれた日常にはもう戻れないのかな。
「ごめん……ごめんね……立花…」
貴方を守れなくて、ごめんなさい。
のうのうとこれから生きてしまって、ごめんなさい。

「…っくそ、何処で間違えたんだよ」
片方が死ねば片方が生き残るなんてそんなの悪趣味にも程がある。
何度繰り返しても終わることのない世界、巻き戻した回数は最早数え切れない。
『██、』
『████』
ノイズが奔る、無理をし過ぎたのかもしれない。
それでも、次の世界で二人が笑い会えるなら、それだけでいい。
例え自分自身がどうなろうと、それで救われるなら。
そうして時を巻き戻す。未だに白昼夢は醒めない。