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ピコピコと軽快な音を響かせながらゲームをしてだらけていたであろう彼女が合図一つでその姿勢を正す。
「いいよ、入って」
そしてその幕がゆっくりと開かれる。
こじんまりとした庭園を思わせるその場所は非常に作り込まれておりそこだけ別世界のように神秘的な雰囲気を放っている。
彼女の仕草も相まって本当にそんな世界に迷い込んだと錯覚しそうになる。
「いらっしゃいませ〜」
どれだけ失言をしていたとしてもこれには見惚れてしまう。
自分に向けて笑いかける少女はふわふわとしたメイド服を身に纏っている。
まじまじとその姿を見つめて、彼女の翡翠の瞳と目が合った。
微笑、咎めることもなく綺麗な動作で笑いかけられる。
「お席にどぞー」
居酒屋みたいなことを言うとか止めてないゲームの効果音が小さく聞こえるなとかそんなことはどうでも良かった。
ただこの空間に彼女と二人きり、そんな状態に酔いそうになる。
「…まだプレオープン?なので大したものは出ませんが、メニューです」
恭しい礼は練習したものだろうか、一つ一つに品と高貴さが滲んでいる。
空き教室一つを丸々彼女の部屋にしたらしくその構造は他のどこよりも凝っていた。
「注文が決まったら呼んでください」
そう言って少し遠くのポツンと置かれた椅子に座る彼女、元々あそこが定位置らしい。
いくら広い教室といえど彼女のことが気になる。
メニューを見るフリをしながら何度か彼女の方を見た。
視線に気付いていたのか彼女はムッとした表情で呟く。
「…バイトだもん、好きでやってるわけじゃないし」
普段の彼女の服がどんなものなのか知らないがこういう服は絶対着ないのだろう。
明らかに不本意ですオーラが漂っている。
しかしすぐさまその表情は隠されてメイドとしての彼女が顔を出す。
「じゃあオムライスで」
咄嗟にメニューのそれを指し示した。
彼女が好きだと前に言っていたのを思い出したからか、なぜそれを頼んだのかはいまいちわからない。
自然と減っていないはずのお腹からぐぅ、と音が鳴った。
「はい、かしこまりました」
微笑み、数秒の礼、すべての動作が完璧なメイド。
大きな声でオムライスー!という所を除けばの話だけど。