こんな静かな所には一番似合わなそうな少女が普段からは全く想像すら出来ない表情で本を捲っている。
ぱらぱらと本を捲る音だけがしばらく聞こえたと思ったらトントンと叩かれる机。
真向かいに座っている俺にその瞳は向けられていて。
「視線がうるさいんだけど」
はぁ、とため息をついて少女…黛はそう告げた。
「…もういいよ、行こ」
どこまでも自由気ままで傍若無人、こいつが何を考えているのかなんて考えるだけ無駄だった。
ちらりと黛が読んでいた本の表紙を見た、それは分厚い植物図鑑。
こいつと花なんて縁遠そうな話だがそういうのに興味があったとは意外だ。
「私の趣味じゃないよ、少し調べもの」
くぁ、と欠伸をしてそのまま図書室を去る。
よくよく見ればその表情には疲れが滲んでいて。
「…片思いってどうなのかな」
ぽつりと黛はそう呟いた。一瞬幻聴かとも疑ったが確かにそう聞こえて。
「やっぱり苦しいのかな…辛いのかな」
それが誰に向けての言葉なのか分からなかった。
それに対して俺が何を言えばいいのかもわからない。
「…ごめん、忘れて」
沈黙が辺りに満ちる、いつものように笑って流せるような内容でもなくて。
「……次の授業サボるわ」
教室の方向とは真逆に歩き出した黛、止める気にはなれなくてそのまま俺は教室に向かう。
自然と俺たちの行く先は違っていて。
もしかしたらこのまま離れるんじゃないかなんて心配になった。
花の名前を知りたくなった、桜華に聞けばすぐ出るだろうその答えを聞くよりも私が自分で調べた方がきっとわかってもらえると思って。
毎日決まった時間、私の部屋の窓にお花が添えてある。
それに気づいたのは割と最近のことで、私以外誰にも気づかれていない。
誰の仕業なのかなんてそんなのも定かじゃないけれどこれが何らかの好意を持った行動だろうことは薄々理解していた。
だからこそきちんと知りたくなった。
「片思い」と口にした一瞬、隣にいたヒムの表情が変わったのを確かに見てしまった。
空気感がいつもと違う、なんだか変な感じになって思わずその場を去ってしまった。
いつだってこうして怖くなったら逃げ出す事しかできなくて。
誰かの気持ちになんて真面目に答えたこともない小心者、その癖して知ったような慣れた面の皮を被って人の感情を弄んでる。
私はそんな私がだいっきらい、それでも今日だって一緒にいる。
そうしてたくさんの人が好いてくれる私のままでいる。
校庭の片隅に咲いていた花に水をやる。
今日の花がそれだった、とても赤い色をした彼岸花。
その花言葉が「悲しい思い出」だと言うのを知ったのが先程のこと。
片思いなんてするのもされるのも辛いだけ。
あの時のふとした問いに私は一体何を求めていたのか。
未だ答えの出ないまま、手探りで探している最中。
いつかは全てを解き明かさないといけないことを自覚しながらもまだ逃げ惑っていた。