さむい、まるで自分の体温全てが奪われてしまったかのような錯覚。
冷たく悴んだ手に息を吹きかけても気休めにだってならない。
手袋の片方を見失って、探すのに手間取って諦めて家を出たらこれだ。
そういえば今日一日冷えるんだっけな、天気予報なんて覚えていても対策しなければ意味はない。
雨が降ると知っていても傘を持ってなければ雨に打たれるだけだ。今日だって、同じこと。
兄ならこの状況を何とかしてくれたのだろうか。いや、あいつのことだ。
昨日の夜に確認しとけば良かっただろなんて小言を言われるだけだろう。
あと少し家の中を探していれば見つかったかも知れない手袋の片方。
あるのが当たり前すぎて無くなった時の不安に目を向けていなかった気がする。
寂しいんだろうな、あの手袋も。一人になるのは私だって不安だから。
家に帰ったら、ちゃんと見つけてあげるからね。
マフラーで口元を隠した立花が此方を見た。
いつもの時間より少し遅れていたのが気になった。
…寝坊したのかな。
「さむい」
寝癖は整えられているし制服だって綺麗だ。どうやら寝坊はしていないらしい。
かといって寄り道したような様子もないしなぁ。
それでも、唯一いつもと違うことがあるとするならば。
「手袋忘れたの?」
「うん」
制服の裾から見え隠れした手が素肌だったことだろう。
「ごめんね、今はこれくらいしか出来ないけど」
立花の手を私の手で包む。少しでも冷えた体温が戻るように祈って。
「やめてよ、桜華が冷える!」
私の事を思ってくれるのは嬉しいけど私は立花が寒いままの方が嫌だ。
立花の手、それは私より一回り小さい手。私より沢山の物を支える手。
「私寒いの大丈夫だから」
私の吐いた小さな嘘、当然のように立花はすぐ気付いたようで。
それでも私の手を振り解かないのはまだ手が冷えているから?
「…桜華、」
突然のことすぎて反応が追い付かなかった。気付けば立花の手が私の頬を包んでいて。
「あったかくなったよ」
冷たさは感じない、いい感じにひんやりとした体温はようやく人並みに戻ったよう。
安心と同時に湧き上がってくる困惑、私何されたんだ?
「…もうすぐHR始まるから行くわ、ありがとね」
振り向いた立花のマフラーを緩めて見えた笑顔、いつも通り可愛い。
私に目もくれず教室に向かっていくその後ろ姿をぼんやりと眺める。
「…狡いなぁ」
いつだって焦がれるのは私だけ。それでいいとは思ってたけど、これはやりすぎじゃない?
立花は元からあんな子だったけど、分かってたってあれは心臓に悪すぎる。
聞こえるチャイムの音に慌てて駆け出した、朝から調子を狂わされてばっかりだ。