「そこのお二人さん、予定空いてる?」
「生憎ですけど埋まってますね、妹との用事ならあるんですけど…ナンパはお呼びじゃないなぁ」
「なっ!ちょっとくらい乗ってくれたっていいじゃん!」
いつのまにか立花が背後に立っていた。その服装はもこもことしている。見ているだけで暖かそうだし何より可愛い。
「立花、その髪の毛!」
「あ、バレちゃった?…先輩にやってもらったんだぁ」
先輩ってことは不破先輩かな。あの人手先器用なんだ、なんて感心する。
ぴょこぴょこと跳ねる立花に合わせて結われた髪も一緒になって揺れる。
そこだけを切り取れば立花の姿はクリスマスにはしゃぐ無邪気な子供のようだ。
「…僕の方が上手く結べるだろ」
「ええ…刀也ポニーテールにしかしてくれないじゃん!」
「いいだろ模範的な髪型で!」
ポニーテールな立花は一時期からめっきり見なくなった。
本人はあまり好きじゃないらしい。比べて刀也くんはポニーテールの立花が好きなのかな。
たまに私の髪も結んでくれるけどポニーテール以外にも結んでくれたことがあるから他にも出来るんだろうし…でも。
「私は好きだなぁ、刀也くんが髪の毛結んでくれるの」
「おめでとう、よかったじゃん」
「あいつはそこまで深く考えてないだろ」
一瞬ドキッとした、話の流れでこうなるとは分かっていても好きな奴から直接好きだと聞く機会なんて滅多にない。
頬が赤くなるのを誤魔化したくてマフラーを引き上げた。
「早く行こ、このままじゃ混むよ」
立花は僕と桜華をイルミネーションまで急かす。その言葉をなぞるように混み合い始めたツリーへの道。
ぐいぐいと進んでいく立花と対照的に後ろで歩く桜華、このままじゃはぐれるなんて誰が見ても明らかで。
「ぐえっ」
「と、刀也くん?」
僕はツリーなんて街路樹のものを見ても同じだと思う。
それでもこれが見たいとはしゃぐ二人の姿を毎年見ていると何だかこれもいい気がする。
神秘的で幻想的でロマンチックな光景もたまには悪くないと思うのだ。
「ひとごろし」
呪詛のような言葉が聞こえる。冗談かと思って聞こえないふりをして何度目か、ようやくその声の主とばっちり目が合った。
「首が締まってんだよ」
不機嫌そうな顔をしてその声の主は僕を睨みつける。
拘束から解放してやれば満足そうに笑って僕を馬鹿にしてくる。
「手、繋いじゃってますね〜」
最初からこれが目当てではないのかと言わんばかりの盛り上がりよう。
何だか見透かされてるのが嫌になって緩んだマフラーを思い切り結んでやった。
「刀也おまえっ!」
これで少しは大人しくなるといいが、そんなつもりは毛頭ないだろう。
騒がしくないこいつなんてらしくない、それは僕が一番思うこと。
矛盾したことをまた考えては後悔を重ねるだけ、分かってる。
分かっていてもそれを実行できない、弱いのは僕だって同じだ。
それでも、こんな僕だから隣に居られるのならこんな思いいくつだって消してやる。
みんな黙ってしまった。桜華はずっと前から赤面したまま帰ってこないし刀也も何かを考えているのか黙りこくったまま。
つまらない、訳ではないけど沈黙したままは少し辛い。
きらきらした景色と肺に満ちるふわふわした空気。
ただの光る飾りを見にいくだけなんて馬鹿馬鹿しいと思った、それでも。
幼い私にはその光が星のように見えたのだ。
「わぁ…っ!」
気付けば口から溢れていた感嘆の声。一面に広がる光が眩しいくらいに視界を彩る。
隣を見れば頬を染めて電飾を見る二人。漠然とお似合いだなぁなんて思ってしまった。
もちろん三人でいるのだって楽しい、でも…なんか違うんだよなぁ。
刀也が私に向ける気持ちと桜華に向ける気持ち、それは単なる幼馴染云々では片付けられない気がする。
桜華だってそうだ、刀也のことを見る視線は他の誰を見る時だってあんなにきらきらしない。
それが愛なんだろう、一つのかたち。家族愛だとか兄弟愛だとか、そんなもの。
幸せになってほしいと思った、私には関係ないけどずっと隣で見てきた側としてはお互いの幸せを願っちゃうものだ。
…だめだ、柄にもないことを考えたらお腹が空いてきた。
色気より食い気、なんて言うけどまさに私はそれらしい。色恋に詳しくもないしね。
「ね、帰ろ!」
二人の手を引いて電飾から遠ざかる。今はまだこの二人の隣に居座るつもりだからそのつもりで。
煌めく街並みがやけに眩しくて瞼に焼き付いた。そんな聖夜の思い出。