「旅、したいんだよね」
ぼんやりと立花はそう呟いた。
立花のことだ、私に言うってことはもう決めたということなのだろう。
決めかねていることがあると立花は頑なに隠そうとするから。
昔から行動力があって研究熱心で目標にそのまま突っ走って行くような子だった。
その様子は全く変わっていない。
いつ頃?と聞いたらひと段落ついた頃、と返ってきた。
いつも周りを置き去りにして、ただ自分の好奇心の赴くままに振る舞う。
傍若無人だ、なんて言われることも多いけど自分の意見を押し込めがちな私にとってその姿は憧れだった…光だった。
迂闊に近付けば焼け焦げてしまいそうな、熱だった。
「私も、連れて行って」
だからこそ、このままでは立花が居なくなってしまうように思えた。
私の手をすり抜けて、何処かに消えてしまうようだと。
「絶対帰ってくるから心配しないで」
私を安心させようと掛けられた言葉が痛い。
心配するなと言うくらいならなら連れて行ってくれればいいのに、どうして。
「灯台は、船が暗い海に一人で寂しくならないように光ってるんだって」
ロマンチックだなぁと思った、何処でそんなこと覚えてきたんだろう。
それと同じくらいには立花らしいなと思った。こんな時に灯台の話をする所とか。
「…だから、桜華が私の灯台になってよ」
「え」
「遠い場所にいても私が寂しくならないように、私の帰る場所になって…私を待ってて」
大切だから離れる、その言葉が頭をよぎった。
思いついた仮説を振り払いたくて言葉を紡ぐ。
「大丈夫?ちゃんと帰ってこれる?」
「馬鹿にすんな!?帰れるわ!はじめてのおつかいじゃないんだからさぁ!」
立花のことだ、途中で回り道やら人助けやらをしているうちに迷子になってそう。
今からでも地図とか持ち物の確認しとこうかな…立花は地図とか読めないけど。
「…私ちゃんと待ってるから」
「うん」
「おばあちゃんになる前になるべく帰ってきてほしいな」
「そこまでは待たせないよ!」
そうして笑い合う、くだらない話を織り交ぜて。
さっきまでの寂しさはもう微塵も感じなかった。