修学旅行、ふたりの時間

目を開けると見慣れない天井。横を見たらカルタちゃんがいて、あぁ、修学旅行かと思い出す。スマホを手探りで寄せて時計を見る。──4時半。起床予定の6時よりも早く起きてしまった。どうしようかな、もう一度寝ようにも目が覚めてしまった。とりあえず起きてしまおうと思って、布団を畳む。窓を見るとまだ星が輝いていて、日の出が遅いのだと感じた。着替えて、財布とスマホを持って外へ。静まり返った旅館は寂しくて私の足音しか聞こえない。私だけの世界みたいだった。自販機で温かいココアを買っていると、誰かの足音が。先生かな、それとも、と誰か分からぬ足音の持ち主のほうを振り返る。みると、やっぱり彼が居て、自販機に近づいてきて自分もココアを買っていた。「これ、羽織っておけ、お前も本当に、薄着で外出るのやめろって言ってるだろ……」「あはは…まさか、今回も刀也くんに見つかるとは思わなかったな…まだ、メッセージも送ってなかったのに」「毎年朝早く起きる誰かさんのせいですよ。僕がトイレ行こうと起きたらお前、窓際の椅子に座って熱心に星見てたんだから。次の日もその次の朝も」「どうにも眠りが浅いっぽくて、これ以上寝れないんだよね…」「まぁ、お前と朝過ごすのなんて、珍しいし、修学旅行中の朝は毎回起きてるんだろ」「まぁ、去年もその前も一緒にいたからね」「お前一人にするなんて出来るわけないだろ」羽織っておけと渡されたパーカーを肩にかけられた。「ふふ、ありがとう。起きちゃったらメッセージ送るね。」「ん」袖を通して、チャックを閉める。ココア缶で手を温めている刀也くんに、ん、と手を差し出されココアを置くと違う。と言われ手を引かれた。そのまま旅館の外で一緒に星を眺めた。明け行く空の美しさと白く揺蕩う自分の吐息。「綺麗だね…」毎年同じことを言っているくらい、空はいつも美しい。繋がれた手は暖かく、何も言わない刀也くんの横顔はきっと私と同じことを思っていると思った。外のベンチに座ってどのくらい空を見上げていたのか。気づけば空は明るくなっていて、持っていたココアは冷たくなっていた。でも、繋がれた手は暖かくて、「刀也くん、そろそろ戻ろう?寒いでしょ?」
と声をかけると真っ赤な鼻をしていて、私のマフラーを巻いてあげる。「別に僕は寒くないですけど」「鼻真っ赤だから巻いてて?」「まぁ、そこまで言うなら借りますけど」「私は刀也くんのパーカーあるからね」そう言ってフードを被って見せる。フードが大きくて彼の顔が見えない。「前、見えないと危ないですよ」そう言ってフードを外す。「それもそうだね」と言って彼の方を見ると存外近い距離に顔があってびっくりする。刀也くんの方も私が顔をあげると思っていなかったようで驚いていた。「そろそろ、戻りましょうか」そう言って私の手を取り旅館へ戻るのだった。白い息と彼の赤い耳を見て私の顔も真っ赤なんだろうなぁと何処か他人事だった。時計の針はもうすぐ六時を指そうとしていた。

2020/09/17