いつか、水に流れる

ピンポーンと黛家のインターホンを押す
ガチャと開くドアと一緒に刀也くんが
出てきて、「僕の部屋先に行ってて下さい」って言われた。手を洗って、刀也くんの部屋に失礼する。相変わらず漫画の量がすごいなと感じつつ前来た時に読んでいたものの続きを読む。ベッドに背中を預けて三角座り。
読み進めていると階段を上る音が聞こえてきて、部屋のドアを開けると案の定、飲み物とかおやつとかの乗ったトレーを持った刀也くんが居て、当たり前のように私に「ありがとうございます」とお礼を言う。
ドアを閉めて、またさっきの場所に腰を下ろす。「今どの辺です?」「ん〜私が好きだなって思った子が死んじゃったあたり」「あぁ、もうその巻の終盤ですね」「うん」
損な会話をしながら残り少ないページを捲る。その間、刀也くんは私の方をじっと見つめている。おやつのシュークリームには手をつけず飲みものを飲んでいる。
「刀也くん見すぎ、なにかへんなところあった?」
読み終わった漫画を本棚に戻す。
「いや、別に何も。」
「そう、シュークリーム貰っていい?」
「どうぞ、ここのシュークリームとても美味しいので」
「刀也くんが買ってくるお菓子全部美味しいから疑ってないよ。今度、プリン持ってくるね」「悪くないですね、楽しみにしてます。」「そういえば立花は?」「遊びに行くって言って居ない。多分夕方まで帰ってこない」「イブラヒムくんとかメリッサくんとかと一緒かなぁ」「誰と遊ぶとかも聞いてないですし、なんとも」そんな会話をしつつ、
シュークリームに一口かぶりつく。私はシュークリームを食べるのが下手なのでよくカスタードクリームを手につけてはベタベタにしてしまうから食べる時は本当に気をつけているつもりだけれど、やっぱり上手く食べれなくて指についたクリームを舐めようとすると
手首を掴まれて、刀也くんに舐められる。
「ん、甘いですね」
「とやくん、ほんとに、ちょっと、」
「今更何恥ずかしがってるんだよ…」
「だ、だって…!」
「""幼馴染""だろ」
「うー…」彼の距離感はぜったいおかしい。
それも多分私にだけ。付き合ってるかと錯覚するよなほぼ恋人の距離感。私は別に、気にしないけれど、刀也くんは女の子に人気なのだから少しくらい気をつけたほうがいいと思う。そんなことを思いながら食べかけのシュークリームを食べ進める。隣にはそんな私をまだ見つめる彼。
食べにくいけど、私が何かを食べてる時は大概そうなのでもう気にしないようにしている。多方、雛に餌を与える親鳥のような気持ちなんだろうか?分からないけれど。
最後の一口を頬張り、手についたクリームを舐めて、「手、洗ってくるね」と部屋を出る。手を洗う。クリームの甘い匂いもベタつく感じも何も無くなって、水の流れ落ちる感覚だけがある。刀也くんが私と一緒にいてくれるのは、幼馴染で、立花が居るから。
ただ、それだけで、それ以上でもそれ以下でも無い。流れる水を見ながら、ぼーっとしすぎた。水を止めて、手を拭こうとタオルに触れた時だった。
「桜華」
私を呼ぶ声と後ろに引っ張られる。
気づけば、彼の腕に閉じ込められてた。
「刀也くん、手を洗ってただけだよ。タオル取ってくれる?手、濡れたままだから」
そう告げてもぴくりとも動かない彼。
「刀也くん」
再び名前を呼ぶ。
仕方ないと言わんばかりに、タオルをとってくれる。
「ありがとう、刀也くん」
彼がこんな時は、名前を呼べば大抵の事は許してくれる。名前を呼んでも反応の無い時は、ほんとうにダメな時だ。
今日はまだ大丈夫なほうらしい。
私が拭き終わったのを見るとすぐにタオルを洗濯機に投げ入れ、私の手を取って階段を上る。部屋につくとベッドに押し倒される。視界には天井と、彼の焦ったような悲しような、感情が混ざった瞳が揺れていた。
あぁ、今日はダメな日だったか。
彼の首に手を回して、抱きしめようと思った。でも、その前に彼を落ち着かせる合言葉を。
「刀也くん、おいで」
揺れていた瞳は、落ち着きを取り戻す。
彼の首に手を回して抱きしめる。
私の背中に回った腕は存外力強くて、
「ここに居るよ」とだけ声をかけた。
双子は不器用なのだ。
刀也くんも立花も。
そんな彼らを宥めるのも私の役目なのだろう。私の胸元で顔をうずめる彼の頭を優しく撫でながら、ふわぁと欠伸をひとつ。
暖かな体温と安らぎ。ぎゅーっとめいっぱい、愛いっぱい抱きしめて、私は瞼をおろした。

2020/09/21