「そこ難しいよねぇ…私も刀也くんに教えて貰ってやっと分かったよ」
「黛サン頭いいもんなぁ」
「まぁね」
得意気になって笑っている桜華。
幼馴染が、好きな人が褒められるのは
純粋に嬉しいのだろう。
「一回、休憩しようか」
「おー…」
ぐでーと机に伸びた俺を見て、
猫みたいだねぇなんて笑う桜華。
猫は黛だろと言うと、立花はむしろ犬?
そうかぁ?犬は桜華でしょと笑う。
え〜そんなことないよ?
そう笑う桜華の髪をわしゃわしゃっとなでる
も〜髪乱れちゃったよと、ひとつに結んでいた髪を解いてふわりとおろした。
その仕草がどうにも色っぽくて、儚くみえて
気づけば頬に手を添えていて、
俺の手に頬を押し付けるように
首を傾げる桜華。
「もう諦める?」
そう問いかける。
ほんの一瞬、驚いた顔をしていたけれど、
桜華は目を細めて、
「そんなつもりさらさらないのに?」
「ま、バレてるよなぁ」
「当たり前だよ。」
「でも、たまにそう思うんだよ」
机に突っ伏して思ったことを言葉にする
「まぁ、そんな時もあるよ。私も、今更私のことを見てくれるなんて思ってないもん」
優しく俺の頭を撫でる桜華。
「ねー、このままずっと一方通行で、叶わなかったら俺らどうする?」
「そうだね…じゃあ、私達でくっつこうか」
「そうすっかぁ」
あるのかも分からない未来の冗談を言う。
のんびりとしたふたりだけの教室。
そんな未来も悪くないのかもしれないと思っているとガラガラと勢いよく開く扉。
そちらを見れば、黛サンが居て、
「桜華」と名前を呼んだ。
「イブラヒムくん、またね」
「おー。勉強あんがとね」
短く会話をして扉に向かう桜華。
反対に、俺に近づいてくる黛サン。
「桜華、昇降口に先に行っててください」
「わかった。イブラヒムくんのこといじめちゃダメだからね」
かるーく釘を刺す桜華は廊下に足音を響かせながら昇降口に向かったようだった。
「僕から桜華を取らないでくださいね」
そう俺に告げて去っていった。
「知ってはいたけど、明らか両想いなんだよなぁ…」
自分の思い人は、いつ自分の気持ちに気づいてくれるのだろうか。
机に散らばった文房具を集め帰る準備をするのだった。
昇降口では、靴箱の前で立って僕のことを待っている桜華が居た。
「イブラヒムくんのこといじめてないね?」
「僕がそんなことすると思ってるんですか」
「立花のことならするかなぁって」
「別に立花の事じゃないです」
「そう?じゃあ、大丈夫だね」
なんて、呑気に言っている。
明らかに近い男女の距離。
あいつと桜華の距離感が嫌だった。
「あいつと付き合ってるんですか」
聞いてから、聞かなければ良かったと後悔した。もしそうだったら、僕はどうしようもない喪失感に襲われると分かっていた。
「刀也くんが思ってる関係じゃないよ」
そうハッキリと僕の望む言葉を言う桜華。
「そうですか。でも、距離近すぎませんか」
「立花に比べたらそうでも無いんじゃないかなぁ…」
「あれは、もう、おかしいですから。
誰にでも頭撫でてるんですか…」
まるで僕だけじゃないと嫌だというのが伝わりそうな言葉。彼女はそれすらも汲んでしまうのだろう。
「うーん…イブラヒムくんはほっとけないってだけだよ。私と似た者同士だから。」
悲しそうに笑う桜華。
「親しげに話してただろ…頬に手を添えるなんて友達の距離じゃないだろ」
「あれは気の迷いだよ。でも、そうだなぁ…私達の恋が叶わなかったら一緒にいよっかっていうのは約束したかなぁ…」
「は…」
「冗談だよ」
呆けた僕の先を行く彼女。
「刀也くん、帰ろう?きっと立花もう家だよ」
そう言って柔らかな手が僕の手を引く。
はやくはやく、彼女を捕まえないと。
そう決心した僕は、近いうちにこの気持ちを伝えようと思ったのだった。
2020/09/23