恋慕か、母性か

刀也くんに呼ばれ、服も髪もぐちゃぐちゃで適当なまま、うでをひっぱられて、彼の部屋で彼はずっと私の肩に顔をうずめて、私を腕に閉じ込める。
背中を撫でて頭を撫でて、何かを話してくれるのを待つ。音の無い部屋。聞こえるのは互いの心音のみ。少し早い音はきっと私で、この部屋に溶けていく。もう数えることもやめたこの行為。いつか、この役割が、私じゃない誰かに代わるその時まで、私は傍にいれるだろうか。
「刀也くん」
落ち着いた頃合を見計らって名前を呼ぶ。
流石に、そろそろ私も痺れを切らしてしまう。
「刀也くん、何時までも私が一緒にいられる訳じゃないんだよ。」
「わかってるんだよ。」
食い気味にそういった刀也くん
「お前が、知らない誰かといつか幸せになるかもしれないことも、僕から離れることも、そんないつかが来るかもしれないの分かってるんだよ…」
私を閉じ込めていた腕は力なく震えている。
そんな様子さえ愛しいと思ってしまった。
「私はね、刀也くんが必要としてくれるなら何時までも一緒に居たいよ」
そう言うと、ゆっくりと顔を上げて、潤む、揺らぐ、翡翠と目が合う。
「じゃあ、僕とずっと居ろ。離れんなよ…」
「素直なんだか素直じゃないんだか、よく分からないなぁ…刀也くんは」
「うるさい。桜華ちゃんは、僕とずっと居ればそれでいいんだよ。死ぬまで、ずっと。」
気が抜けているのか、幼い頃の呼び方になっていて微笑ましく思えた。あぁ、本当にこの人は。照れ隠しで、私も言葉を返す。
「プロポーズの言葉みたいだね。死ぬまでなんて素敵な殺し文句だよ」そんな冗談を言う
「プロポーズはもっとちゃんとしたこと言うから、今はこれで勘弁してよ」
恥ずかしくなったのか再び私の肩に顔をうずめる刀也くんは、可愛かった。
この感情が、母性なのか慈愛なのか、それとも恋なのかは今更私には分からなかった

2020/09/24