話があると綴られている。
手書きで書かれた文字は女の子にしては少し乱れていて、男の子にしてはきれいな字だと思った。当たり前のように、時間が経っていて気がつけば放課後だった。
「社さん、少しいいかな」
同じクラスの男の子が話しかけてきた。
「はい、なんですか?」
いつも通りの返しをする。
夕暮れ、刀也くんを待っている教室。
「俺、実は社さんのことが好きなんだ。良かったら付き合ってくれないかな」
考えるまでもなくその答えはNoだ。
でも、片思いの辛さはよく、知っている。
だから、いつも、申し訳ない顔をしてしまう。不毛な恋をしている私を好きになるなんて可哀想だと。
「…ごめんなさい。」
「うん、知ってた。俺もごめんね急に言われても困るよね。でも、最後にひとつだけ教えてくれる?なんで黛と一緒にいるの?幼馴染だから?好きだから?黛なんかやめて、俺を好きになってよ」
声がどんどん小さくなっていく。
ああ、彼の本心なのだろう。
「ごめんね、貴方の心を救えなくてごめんなさい。私もね、刀也くんのこと諦めたいの。でも、やっぱり好きなの。大切な人なの。」
彼の手を取って彼の瞳を見つめる。
「貴方の気持ちは嬉しかったよ。私を好きになってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
彼の瞳の水面は揺れて、柔らかになって、
素敵な笑顔でサヨウナラをした。
「うん、社さんわざわざありがとう!じゃ、バイバイ!」
手を振って振り返ることなく、駆けていく。
自分の席に座って、暮れる陽を見ていた。
「桜華」
名前を呼ばれる。私の名前を呼ぶ声。
私の好きな声。何度も私を呼んで欲しい声。
それでも、私は暮れてしまうあの夕焼けを見ていた。私の元に近づいてくる足音。
怒っているのか、心配しているのか、
少し早足なその音は、すぐ私の横に来た。
「桜華」
もう一度呼ばれる。
「なぁに」
声のするほうを向いてみれば、
焦ったような顔をした刀也くん。
走ってきたのか汗が滴っていて、ポケットからハンカチを出して拭いてあげる。
「教室に向かう途中で同じクラスの奴に会って、社さん泣いてるぞって言われて焦ってきたのに当の本人は呑気に夕焼け見てた僕の気持ち分かるかよ…」
「あはは、そう言われたんだ。わざわざありがとうね。で、いつまで私に拭かせるのかなそろそろ自分で拭いてください。もう落ち着いたでしょ」
ハンカチを押し付けて、鞄を持って帰ろうと思っていたのに、目の前の彼が退く様子はない。私のハンカチを手に握って、じっと私を見つめる。立花とは違う私の追い詰めかた。
「泣いてたんですか」
「泣いてないよ」
「泣きそう、の間違いですね」
「なんでそう思うの」
「僕から目を逸らそうとするから」
図星だった。
私の頬に手を添えて、目線を上げさせて、
彼の翡翠と目が合う。
「泣くなら、僕の前にしてくれよ…一人で泣いて満足するなよ…」
私の方が泣いてしまいたいのに、
彼の瞳が揺れる。
「私は大丈夫だよ、充分過ぎるほど、泣いてるつもりだよ。刀也くんが泣かないでよ、もう、まだ泣き虫治らないの?帰ろう、美味しいご飯食べて寝よう?叶さんも葛葉さんも灰くんも立花もリリちゃんもみーんな待ってるよ」
そう語りかける私に、
「桜華は待ってくれないの」と言う。
「んー、私もいるよ。ほら、一緒に帰ろう」彼の手を取って、鞄を持って下駄箱へ向かう
時折すれ違う生徒にギョッとした顔をされる。私に手を引かれて、私の後ろをついてくる刀也くんは昔の刀也くんを思い出しては、
変わらないなぁと懐かしんでしまった。
先に靴を履き終わった刀也くんは私が履き終わるのを待って、私の手を取って隣を歩いた。
「いいの?学校だよ」
「別に偶にはいいだろ。立花とは偶にこうして帰ってるんだろ」
「そうだけど、そっか、うん、たまにはいいかもね」
素直じゃない彼の気まぐれ。
立花にバレたらからかわれちゃうなぁ
夕暮れの帰り道は、少しだけ特別だった。
2020/09/29