雨の秘密

「立花」
雨の降る昇降口で桜華が私の名前を呼んだ。
「ん〜?あれ、刀也は?」
雨の日は私の事を外に出すのすら嫌がって、
ずっとひっつき虫のように私のそばにいる
兄が居ないのは珍しい事だった。
「部活。刀也くんってば、凄い顔してたよ?雨降るって言ってんのに傘もってかないなんて馬鹿かって。」
「しょーがないじゃん、急いでたんだし…」
「まぁ、そういう日もあるよね。少し狭いけど、傘入って。早く帰ろ?」
「ありがと、桜華」
「どういたしまして」
桜華は雨の日の刀也を知っているのだろうか
純粋なこの疑問を幼馴染がどう思っているのか、私の好奇心は止まらず、言葉にしようとしていた。
「立花」
優しく、咎められるような声。
「もうちょっと近寄って、肩濡れちゃうから」
別のことを言いつつ、雨の道を歩く。
桜華の肩は濡れていて、私が傘持つよと言うと大丈夫と言うだけだった。
当たり障りのない日常の会話を流しつつ、
刀也のことを考える。
多分、桜華は刀也が雨の日に落ち着かないことも、昔あったトラウマのことも全部わかってて、沈黙している。私が気負わないように、刀也のトラウマを刺激しないように。
「桜華は雨の日好き?私は普通なんだけど」
突然振った話題、意味の無いような話。
「うーん…雨の日はたしかに寒いし冷たいし、あんまりいい事ないかもしれないけど、雨の日にしか見れないものもあるから嫌いじゃない、かな」
「ふーん、桜華はやっぱり変だねぇ」
「そんなことないけどなぁ」
のんびりした時間。雨が降ってることも忘れそうな桜華と私だけの時間。
「あ、そういえば立花は知ってる?」
「何を?」
「傘の中って声が一番綺麗に聞こえるんだって」
「そうなんだ、桜華の声はいつも綺麗だから分かんないや」
「も〜!立花はすぐそう言う…立花の声も可愛いよ。いつも安心するもん」
そうはにかんで笑う幼馴染。
「私もそうだよ」とは言えずに、
「桜華のばーか」と言って、雨があがった道を駆けるのだった。

2020/10/01