目を開けると目の前にはたくさんの赤い糸が広がっていた。道行く人は特に気にした様子もなく、これが私にしか見えないものだというのがわかった。時折、絡まったものもあれば、一緒に歩く仲睦まじ気な二人に結ばれていることもある。私の赤い糸は、ずーっと先の何処かの誰かと繋がっているのか、はたまた、誰とも繋がってないのか、先は見えない。この先があの人でも、例え、あの人じゃなくても私は素敵な人と一緒になれたらいいななんて思う。私は自分以外の人の糸を見る。立花の糸は真っ直ぐに誰かのところに繋がっていると思っていたけれど、途中で何本もの糸とぐるぐると絡まりあっていた。そのひとつにイブラヒムくんの糸もあって、ああ、ここが繋がることもあるんだなと何処か遠くの出来事のように思った。意外なことに、立花は色んな人に好かれているらしい。
キンレンカさんも、三枝くんも、それこそあの不破先輩にも。みんな立花のことが好きで、赤い糸が絡み合っては、解け、また、絡む。恋愛はいつも争奪戦と変わらない。
美しい恋なんて言う夢物語は、お話の中だけだ。誰かが幸せになって誰かの恋が終わる。けれど、好きという気持ちは、すぐには消えない。恋って、呪いなんだよと誰かが言っていた。物知りだけど、どこか抜けているニュイさんが言っていた気がする。魔女のような、大人のお姉さん。その話を聞いた時、確かになとどこか感心していた。花が咲いて枯れて朽ちて土に還るまでのその時間は、存外長いものだから。自分の赤い糸の先を見つめる。この先に誰か居るのか、変にどこかロマンチックなことを考えては、自分らしく無いなと笑う。長ったらしくどこかの誰かに繋がっているのかもしれない糸。引っ張っても引っ張っても、ずーっと先に続いているだけ。
「迎えに来てよ、王子様。」
小さく呟いて、私は瞼を閉じる。
「社」
名前を呼ばれて、瞼を開ける。
夕暮れの教室。
「あれ…?いつから寝てた…?」
「ホームルーム終わって、山神にブランケット借りてからすぐ。」
膝を見れば確かにブランケットが掛かっていた。
「何の夢見てたんですか」
そんなことを突然聞かれる。まぁ、夢の中の話だしと思って、ぼんやりと朧気な記憶で話す。
「赤い糸が見える夢を見たの。面白いよね、ロマンチストみたいでしょ」
少し自傷気味に笑う。
「別にいいんじゃないですか、夢で見た出来事でしかないんですし」
「ま、そうだよね。帰ろっか、待たせてごめんね」
「いや、大して待ってないから気にすんな」
言葉も距離もいつも通りになる。
まだ学校なのに、気を抜くの早いんじゃないかなぁなんて思いつつも、私もいつも通りに「立花は?」なんて聞けば、
「アルマルさんと帰るって」
「そっか、行こ刀也くん」
カルタちゃんのブランケットをロッカーにしまって帰ろうとする。刀也くんは何かを言っていたけど、聞き取れなかった。
ああ、そういえば、私の赤い糸の先は、
誰だったんだろうなぁ。