「てんちょー」
「おー、どないしたん?」
「あまみゃ、この日入れないんでシフト調整の相談してもいいですかぁ〜?」
「おん?その日桜華ちゃん入ってるから大丈夫やで?」
「流石〜!じゃ、お願いします!」
こころとそんな会話をしていると、
カランコロン、お店のドアベルが鳴る。
「店長、こんにちは」
顔を覗かせる桜華ちゃんがそこにいる。
「いらっしゃい、桜華ちゃん。はよ着替えてき〜」
そう言えば、
「はぁい」なんて緩い返事が届く。
ちょっと前は、着るのに手間取っていた和服も、難なく着れるようになって今ではこころの着付けは桜華ちゃんがやっているくらいだ。そういえば、赤、青、橙、紫。色んな色の和服を並べた時、彼女は真っ直ぐに紫色を見ていた。これがいいん?なんて聞くと、幼馴染の色だなぁって思って、なんて笑っていた。帯留めも真っ直ぐに黄緑色のとんぼ玉を選んでいた。彼女の中で幼馴染は本当に大きな存在だということは、彼女の幼馴染を知らなくても分かった。
こころなんて和服も帯留めもあれも可愛いこれも可愛いって悩みまくっていたからあっさり決まった桜華ちゃんは珍しい部類だった。
そんな少し前のことを思い出しながら、
着替えて接客に行く桜華ちゃんは本当に働き者で助かっている。
店内はいつも通りの音楽と雰囲気、人は疎らで緩やかな時間が流れていて、あまり忙しくはない。私もこころも桜華ちゃんも割と余裕を持って行動している。
カラン、コロン。入口のドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜、何名様でしょうかぁ〜?」
近くにいたこころが聞く。
「ああ、ひとりです。」
店に入ってきた好青年がそう言う。
「お席にごあんないしまぁ〜す」
間延びしたこころの声と共に窓際の席に案内されている。新規のお客さんとは、また珍しいものだなと思いながら黙々とカウンターで仕事をしていると、
「あれ、桜華ちゃん?」
その青年は桜華ちゃんの名前を呼んだ。
「へ?ハヤトさん?」
その声に抜けた返事をした彼女。
「ああ、やっぱり桜華ちゃんだ。久しぶり、ここで働いてんるんですね。制服似合ってますよ。あ!つい最近、和服専門店を教えて貰ったのでそこで着物でも浴衣でも仕立ててもらいませんか!桜華ちゃんは可愛いからなんでも似合うと思うんですけど、」
桜華ちゃん可愛さにか、言葉が止まらない様子の青年。桜華ちゃんは困ったように笑いながらもちゃんと静止をかけて落ち着かせる。
「ハヤトさんってば、本当に貢癖直りませんね、もう、私を甘やかさないでくださいよ!そういうの、むぎとか兄さんとかにしてあげてくださいよ…私、ハヤトさんに貰いすぎましたし…」
「いやいや、むぎちゃんにもこの前会った時にお洋服買いましたよ。その後ドーラさんに怒られましたけど、それにガクくんとはご飯行ったりたまに一緒に服見に行ったりしますから」
「母さんに怒られたなら、私にもお金使うのやめたらいいと思うけど…」
「いやいや、桜華ちゃんは謙虚過ぎるんですよ、たまには欲しいもののひとつやふたつ願っても罰は当たりませんよ。あ、コーヒーとこのホットサンドをお願いします。」
「そんなことないと思うけどなぁ…はい、コーヒーとホットサンドですね、少々お待ちください。」
注文をちゃんと取りつつ、こちらに戻ってきて注文表を私に渡すとカウンターに項垂れてしまった。
「どしたん?」
話は聞いていたから、どうしたもこうしたもないけれど本人の口から聞くのが一番楽しいことだと、生きている中で学んだ。
「親戚のお兄さんが、私の事、というか私の家族のことが好きで貢癖みたいなのあるんですよね…充分良くしてもらってるから、早く恋人でも作って自分の幸せを見つければいいのにって思うんですけどね…職業柄、お金によってくる女性も、容姿によってくる女性も両方いるから大変なんだろうとは思うんですけどね…」
「ほ〜ん」
本当にあの青年は、親戚の人のつもりなのだろうか?桜華ちゃんを見る目は愛おしい人を見る目だ。彼女が気づいてないだけで、親戚のお兄さんなんて言う面はとっくにやめたのではないだろうか。知らぬが仏、触らぬ神に祟りなし。さて、コーヒーとホットサンドを作りますかぁ。項垂れる桜華ちゃんの頭を軽く撫でて私はキッチンに行くのだった。