真ん中、ぽっかり

頭がガンガンする。
ぐるぐると渦巻く気持ち悪さ。
久しぶりに寝込んで熱を出すほどの風邪を引いた。むぎにはリリちゃんとふたりで手を繋いで気をつけて行くように言った。誰にも連絡を入れる気力も無くて、痛みから、苦しみから逃げるように瞼はゆっくりとおろされて、そのまま意識を手放した。
ひんやり冷たい感覚と、頬に感じる温もり。
重たい瞼をあげると、困ったような顔をした立花がいて、もう夕方なのだと気がついた。
「おかえり、風邪伝染っちゃうから近づいちゃだめ。ありがとう、立花。」
そう言っても、頬にある温もりは離れない。
「桜華、今辛いんだから私の心配じゃなくて自分の心配して。」
しんぱい、してくれている。
弱った身体には、そんな優しさが、辛くて。
彼女の時間奪っていることも、迷惑をかけていることも、勿論、立花はそんなこと思ってるわけもないのに、私が勝手に沈んでいっている。マイナス思考に陥っている。嗚呼、泣きそう…視界は突然、ぼやけ始める。立花は、私が泣き出すのに困ってしまったようで、頬の優しいあの温もりが離れてしまった。扉を開けて、部屋の外へ出ていった。
パジャマの袖で、涙を拭ってもまた溢れんばかりに落ちてくる。
また、扉が開いた。
そちらを見ると、刀也くんがいて、
「目を擦ると赤くなるし、腫れて痛い思いするのお前だぞ」なんて言う。
「涙、とまんないんだもん…」
そう言うと、温かい蒸しタオルを私の目元に当ててきて、
「しばらくそうしてろ」
なんて言う。
優しいのに言葉は少しトゲトゲしている。
何も見えない世界で、聞こえるのは私の鼓動
無言の彼が、今何をしているのかすら検討がつかない。
「今日、何した?」
「別に、いつも通りだよ。ただ、本間や御伽原とかが心配してた。山神がノート取ってたから貰えよ」
「ん、そうする。ありがとう」
「吐き気とか頭痛とかは?」
「うーん、頭がちょっとまだ痛い。吐き気は無いかな」
「お粥、食えそう?」
「ん、たべる。たべます。」
「後で持ってくる。次、こっち目に当ててろ」
「つめた…」
「冷やさないと明日腫れるからな」
「それはやだ…痛いもん…」
私の手からぬるくなった蒸しタオルを回収して、お粥持ってくると言って出ていった刀也くん。涙はとまって、つめたいタオルが気持ちいい。じくじくと未だに痛む頭と熱で思考がまとまらない状況。感情に素直になりすぎている。はぁ、と零れるため息ひとつ。
扉の開く音。
「桜華、落ち着いた?」
立花の声。
「お粥、少し冷ましたけど、まだ熱いから食べる時気をつけろよ」
刀也くんの声。
つめたいタオルを目元から離して、
声のほうをみて、
「ごめんね、立花、涙、止まんなくなっちゃって…今は落ち着いたよ。刀也くん、お粥ごめん、食べるからちょうだい」
そう言ってお粥を貰おうとしたけれども、
ふたりは顔を見合わせていた。
「桜華、私ね桜華のごめんを聞きたいんじゃないんだ」
「ごめん、じゃなくてありがとうだろ、僕らが好きでやってることなんだから謝らなくていいんだよ」
どうやら私が、申し訳なさを感じているのに気がついていたらしい。
「ふたりともごめんね、ありがとう」
ごめんね、と言うとふたりはムッとしたけれど、ありがとうといえば、最初からそういえばいいのになんて立花に言われてしまった。
幸い、明日は休日だから私もふたりもゆっくり休めるはず。
刀也くんからお粥を貰って食べる。
まだ、口に運ぶには熱くて、ふーふーって冷ましながら食べているのをふたりが、じっと見てくるから恥ずかしくて、そんなに見ないで、と顔を逸らしてしまった。
「桜華が弱ってるところもそうだし、ふーふーしながらお粥食べてるのが可愛くて見ちゃってた」
「別に僕はちゃんと食べてるか見てただけだからな」
「可愛くなんてないから見ないでよ、立花…刀也くん、心配しなくてもちゃんと食べるから見ないで…」
「「桜華/おまえ はすぐに誤魔化す んだもん/だろ」」
ふたりの揃った声に、そんなことないもん…と小さな声で返事してお粥を食べ進める。
ぽかぽか暖かくなってきて、だんだん、眠くなってきて、スプーンを持つ手が上がらなくなってきた。
「寝るならお粥下げるぞ」
「ん…ねむい」
「あちゃー、これ、聞いてないよ、刀也」
「寝かせるか。僕これ片付けて来るから、桜華を寝かせておけよ立花。」
「はいはい、分かってるって」
ふたりのそんな会話と、私の手からするりと取られたスプーン。お粥のお皿も回収されたら立花に、ほら寝るよーと言われてベッドに戻されて毛布を肩までしっかり上げられた。
「おやすみ桜華」
その幼馴染の声を最後に瞼は落ちて、意識も手放した。

「刀也〜桜華寝たよ〜」
間延びした妹の声。
「ん、良かった。うなされてたりとかは?」
「特に無さそうかな。気持ちよさそうに寝てたよ。」
「ならいいか。」
妹のその報告に胸を撫で下ろす。
「刀也、今日めちゃくちゃ機嫌悪かったよね、桜華居ないだけで機嫌悪くなるんだからやめなよね〜」
「別にそんなことは無いだろ」
「え〜?ヒムにすら刀也サンめっちゃヤバいけど今日桜華いない感じ?って言われたんだけど」
そうケラケラたのしそうに僕をからかう妹を横目にそうだよと肯定して濡れたタオルを絞っていた。
「刀也も、桜華も無理しすぎだからね」
「分かってるよ」
神妙な顔でそんな珍しいことを言うあたり、こいつも桜華が弱っているのにやられてるらしい。
「立花、帰るぞ」
「ん、ドーラママ達に挨拶してくる。」
そう言って部屋を出た妹を見て、
早く良くなれよなんて心で願った。
幼馴染が欠けると僕らは僕らじゃ無くなる。
お前が居るから僕達は僕達でいられるんだよ馬鹿