刀也が桜華以外の女の子を選んだ。
だから、彼女が今自分の腕の中にいる。
今、弟のその判断を馬鹿だなと思いつつ、どこか喜んでいる自分がいる。
自分が手を伸ばすことすら出来なかった彼女が、今ここにいる。
自分のことを実の兄のように慕ってくれ、困ったら自分を頼ってくれる彼女が
正直、この状況を夢なのではないかとさえ思っている。
刀也が桜華を選ばないと確率は、俺の中ではほぼ0%だった。
だから、彼女を手に入れるチャンスが来たと、それだけで嬉しく、
彼女をどう自分の中に閉じ込めようか考える。
自分の比較的に高めな平熱と、少し早い心音を彼女に聞かせる。
これは、彼女を落ち着かせるためという建前と
おれを意識してほしいという邪な気持ちもあった。
いくらか彼女が落ち着いた頃、彼女はおれに行った。
「灰くん、もう大丈夫だよ」
それは明らかな嘘だった。
刀也を思うその瞳は揺れ続けていた。
「嘘」
彼女に本当のことを突きつける。
さっきより少し力を入れて彼女を抱きしめる。
暗くなったデスクトップにはおれと彼女が写っていた。
彼女の震える背を優しくさする。
落ち着くように、おれを見てくれるように、
どのくらいの時間そうしていたか。
彼女が落ち着いてきた頃に優しく頭を撫でる。
うつら、うつら、彼女の頭が揺れた。
「おやすみ、桜華」その言葉と小さく、微かな声で願望をひとつ。
「刀也じゃなくて、おれが桜華を守るからおれを選んでよ」
深い深い眠りに誘われた彼女には、おれのおやすみすら聞こえていないだろう。
眠ってしまった彼女をベッドに運ぶ。
自分の長い袖を掴んで離さない彼女にまた愛おしさが溢れた。