「…あ、ヒムじゃんか!」
揺れる短いポニーテール、首に巻いたタオルと見慣れないゼッケン。
明らかにいつもと違う黛はいつもと変わらない笑顔で笑っている。
そして俺を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。
「なにしてるのかって?…助っ人に呼ばれたんだよ」
こうして黛が引っ張りだこになったきっかけはきっと少し前の体育祭からだろう。
2組の代表としてリレーのアンカーを務めた黛はその名に恥じない走りを見せつけて他を圧倒した。
それから黛が運動神経バツグンだとバレたらしくクラスには助っ人に黛を求める声が多数上がった。
恐らく陸上部もそうだったのだろう。
「黛〜そろそろ再開するぞー」
「わかった〜じゃあヒム、気をつけて帰ってね」
黛と会話している内に気づけば空はオレンジに彩られている。
ふと黛を呼ぶ声の主が気になった。
…一組のアンカーだった奴か。
あー、なんでこんなこと覚えてんだか。
「また明日っ!」
抱いてしまった一抹の不安を拭い去るように足早にその場を去る。
そしてそのまま変に暑くなった熱を冷ますように自販機で水を買う。
…調子狂うなぁ。
一気に水を飲み干して帰り道を歩き出した。
この熱が夕暮れに溶ければいいと思って。