貫く剣は贖罪の証(3)


 朝だというのに薄暗い廊下を抜ける。その間にも、数人黒腐病に罹った『剣人クシウス』達と出会ったが、ましろをみて慌てて距離を取る。聖女様にうつっては困る、らしい。ましろはそれをきいて大丈夫です、と返事をするが蜘蛛の子を散らすようにみんな自分の部屋へと駆け込んでしまった。これは前途多難そうだ。まぁ広間にいる数人はそんなことはなく、ソファに腰掛けているが。

「しかい、貴方が黒腐病にかかればあの黒き乙女ににそうだ」

 カルネヴァムに観察されながらそう告げたのは昨日ましろを招き入れた人物――副団長であるスータス・アークスである。ユージンほどは黒くはないものの、ほとんど影に近い色になっている。腕などからポロポロと何か破片か何かが落ちた。スータスの言葉に、距離をおいているチェリッシュは睨んだ。

「チェリッシュ嬢は潔癖症ですね」
「今のはスータスが悪いよ。彼女にとってこの病はうつるかもしれないものだ。かくいう僕もさっき睨まれてね」
「カルネはよく睨まれるだろう? 聖女様は知らないけれど、これでも私はこの国の五本指に入るとされていたんですよ」

 スータスの言葉にましろは首を傾げた。

「それは強いという理由ですか?」
「違う違う。実力ではなく、彼は端正な顔立ちの五本指だよ」
「実力も伴った端正な顔立ちといってほしいね」
「まぁ、確かにそうでなければ君はとっくに死んでるだろうけれど。見てまわったところまた人数が減ってる」

 カルネヴァムの言葉にスータスは頷いた。折れるなんてしょっちゅうなことだ、と。

「街でも何人も死んでる。病の治し方を知る人はいないから仕方がないけれど」
「そうだ! 聖女様は何か知らない!?」

 トゥーリはそう言ってましろを見上げた。ましろは眉尻を下げた。

「お体を触っても?」
「貴方にうつっても良いならね」

 冗談っぽい言葉ではある。が、ましろは立ち上がると躊躇なくその体に触れた。周りはそれに驚いた。チェリッシュは目を見開いて固まっている。
 周りが唖然としているのをいいことに、ましろはそっと腕から手を離して胸元に手をおくと、黄色の光が灯る。

「貴方の剣をここに、貴方の誓いをここに」

 そう言えば、光が大きくなり、ましろの手に一本の剣があらわれる。スータスは自分の腰につけていた剣を確認する。剣がなくなっている。移動したらしい。その剣は酷く錆びついている。こうなるのは彼が誓いを違えたからだ。

「あの、貴方は何か大切な約束を違えたのではないですか?」

 ましろの問いかけに、スータスはそんなことはないと笑ったが。

「しかし、聖女様、この方法を誰に? これは王族しかできないと存じ上げていますが」

 ましろはその言葉に固まった。王族しかできないものではないはずだ。貴族の中にいる『鞘人コリウス』や、職を授けたりする『鞘人コリウス』の役人にでもこれはできるはずである。
 スータスの問いにどう考えるか迷っていると、先にカルネヴァムがさらりと口を開いた。

「あぁ、僕が試しに教えたんだ。聖女様ならなんでもできると思ってね」
「そうだったのか。でもどうして剣を?」
「聖女様の世界にも同じような病気があるらしいんだけど……」
「……はい、この世界では存じ上げませんが、私の世界のよく似た病は命に通じる剣に錆が生じることにより剣を持つ方の体に異変が現れるというものです」

 ましろはそう言って剣を見る。スータスの剣は装飾部分を含めて錆びついている。カルネヴァムはそれを聞いて「続けて」と告げた為にましろは説明する。

「交わした約束と相違する行動をしたときや思考に至った時に錆が生じますので、同じようなことがあったのではないかと思ったのですが」

 その説明に、スータスが何が思いあったのか、少し眉間に皺をよせた。カルネヴァムは興味深そうに「それは面白い」と告げた。

「この錆は落とせない?」
「私の世界では新しい約束を交わせば錆を落とすことができます。あとは、刃の手入れをすることも有効だったと思います」
「約束云々なのなら、聖女様の世界とこちらの世界で病は違うんじゃないか? 騎士や兵以外にも広がっている」
「刃の手入れをしないから、という説もある。なんにせよ調べてみる価値はありそうだよ」

 カルネヴァムはそう言って考えこむ。スータスはそれをみて、こうなればしばらくは考え込んだままだな、と苦笑いをした。大人しく話を聞いていたトゥーリも刻々と頷いた。カルネヴァムはそう言った節がある。いつもはトゥーリが現実に引き戻したり、引っ張って移動をしたりしている。カルネヴァムがぼろぼろなの理由の一端を担ってはいるのだ。
そんな会話をしていれば、部下である一人の青年がやってくる。

「副団長、団長はまだ目を覚まされません」
「あの人があの場所に籠もるだなんていつものことだな」
「あの場所?」

 部屋ではなく? とましろが首をかしげる。

「はい、団長は庭の奥にあるガゼルでいつも休まれています」
「というよりは、仕事以外ではいつもそこにいるんだ」
「だから、僕たちは薬草を貰いに行くわけです!」

 トゥーリはそう言ってからカルネヴァムの手をペチペチと叩いた。いたい。

「師匠! 師匠! 薬草です! 貰いにいきますよ!」
「あぁ、うん、薬草だね。薬草」
「生返事!」

 全く動くそぶりを見せないカルネヴァムにトゥーリはがっくしと肩を落とす。スータスはクツクツと笑うと立ち上がり、カルネヴァムの手を引いて無理やり立たせた。

「ほら、トゥーリ、立たせたぞ」
「ありがとうございます! そのまま引っ張ります」
「背中を押しましょうか?」
「聖女様、それは私がしよう。汚いものに触れさせるなとチェリッシュ嬢の視線が痛いからね」

 スータスの言葉にましろはチェリッシュをみる。チェリッシュは眉間に皺を寄せてこちらをみていたものだから、ましろが困った顔をしてしまうのは仕方がないことである。