こころまい
 黒い液体が辺りに擦れてしまっている。彼の瞼は随分と泣き腫らした後のようで、ほんのりと赤紫色に変色していた。中原はたまらず舌打ちをする。つまらないのだ。何が、とまでは言わないが。
 彼の懐には芥川龍之介の河童が抱かれているが、染み込んだ涙でぐにゃぐにゃとふやけていた。ぐすり、と鼻を鳴らす音。
「……お前よぉ」
 そんなになるくらいならやめてしまえ、と言いきれない自分がいた。
 中原は顔色を陰らせている。己の抱く感情の名に、気付こうともしないで。

病的
織田作「(特務司書の資料熟読中)…………ん?」
僕「どうかしたかい」
織田作「あー……言いにくいんやけど」
僕「遠慮せずどうぞ」
織田作「穂吉の参考資料のここ、嫌いなもん人間って」
僕「書いてるね」
織田作「……いまっさらやけど、ええのん?」
僕「何が」
織田作「お司書はんってめっさ人と関わる業務やん?」
僕「ああ」
織田作「ストレスとか溜まってへん?」
僕「文豪は僕の中で神様なので大丈夫です」
織田作「神様」
僕「うん」
織田作「何故に」
僕「言葉を使い一つの世界を作り上げる様なんて神そのもの」
織田作「ええ……」
僕「織田作さんも神様」
織田作「んなアホな」



織田作「あの子大丈夫なんかな。その、精神的に」
江戸川「彼は駄目でしょう」
中原「違いねえ」
織田作「誰も擁護せえへんのおもろすぎるやろ……」

日常
僕「太宰太宰、コレ見て」
太宰「うーん?……って、な、な、な、なんでこんな、こんなものが!?」
僕「君文豪だろ?世間はこれを丁重に保管しているのさ」
太宰「ああああああ!?うそだろなあちょっと待ってくれこんなことが許されてたまるか俺の黒歴史いいいい」
織田作「騒がしいなあ。どないしたん?」
太宰「俺の黒歴史を見るなー!!!」
僕「文豪であるがゆえの悲劇を目の当たりにしているのです」
織田作「ああ……かわいそうに」
太宰「同情すんな!」
江戸川「随分と賑やかですね」
僕「江戸川さん」
太宰「畜生こんなのってねえよ……ちくしょう……」
江戸川「何事です?」
僕「文豪の黒歴史が軒並み大切に保管されている事実を突きつけていました」
江戸川「ほう、それはそれは」
僕「もちろん江戸川さんのも綺麗に残ってますよ」
江戸川「……」
僕「見てみます?」
江戸川「……」
僕「……ん?江戸川乱歩さん?」
織田作「海月、そいつ立ったまま気絶しとる」

日常
「ママ」

 気難しげに結ばれていた唇は、その言葉を放つためだけに開かれる。谷崎は読書を中断すると、何か思うことがあるような悩ましげな目つきを海月へと向けていた。
 海月の瞼は固く閉じている。薬が効いているのだ。軍医の経験を持つ森から処方された睡眠薬は、なるほど効き目がすこぶる良いらしい。

「僕は貴方の母親ではないのですがねぇ」

 谷崎は、既に死してこの世に存在するはずのない己の母親のことを思い返していた。海月の、少し固い毛髪を指に絡めながら。

病的
島崎「織田さんと穂吉って仲がいいよね……(じっ)」
織田作「な、なんなんや藪から棒に」
島崎「……いや、別に?」
織田作「わかりやすすぎる態度やなオイ」
島崎「……(じっ)」
織田作「その目ぇやめてくれや」
島崎「どうして仲がいいの?ねえねえ」
織田作「質問攻めも勘弁してくれ。……あー、せやな、穂吉はわしの弟みたいなもんやねん。それだけや」
島崎「…………」
織田作「ん?」
島崎「つまり……近親相姦?」
織田作「いてまうぞお前」
島崎「違うの……?」
織田作「島崎くん、あのな、普通はそうならん」
島崎「えっ」
織田作「えぇ……?」
島崎「織田さんがわからないよ」
織田作「わしは島崎くんの方がわからんわ」

日常



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