Moon Fragrance

不安で冷たい青
01



 朝の日差しがカーテンの隙間から差し込んできて、徐々に意識が浮上してくる。
 暖かく優しい感触が頭を撫でている。とても心地よくてなかなか目が開けられない。深呼吸する様に大きく息を吸い込んで、少し身を捩るとこめかみに柔らかいものが触れた。それが合図のようにうっすらと目を開けてみると、眼前に青い目と整った顔が現れて一気に覚醒した。

「わっ!」
「私は幽霊じゃない」
「ごめん、なさい」

 そうだった。昨日社長とお、お付き合いすることになって、それで……腕枕されて一緒に寝たんだった。
 可笑しそうに喉を鳴らす社長の声が腕を伝って響いてくる。

「ぅう……おはようございます」
「ああ、おはよう」

 挨拶を返してくれた社長の唇がこめかみに押し当てられた。ああ、さっきの柔らかい感触はこれだったのかと理解した。

「よく眠れたか?」
「とっても」

 そう答えると社長の目が優しく細められた。

「しゃ……じゃなくて、ルー」

 やっぱりまだ慣れないのか、言い直してしまう。社長が5回目だ、と言った。
 やっぱりカウントは忘れてくれなかったかと落胆する。

「で、なんだ?」
「私も、……ルーの髪、触りたいです」
 
 微かに笑うとわかった、と言って私の胸の位置くらいまで体を下にずらした。私が触りやすいようにしてくれたのだと思ったのだがどうやら違ったことに私は気づかない。
 腕枕をしてくれていた腕は、今は腰のあたりを抱きしめている。
 恐る恐る金糸のような髪に触れてみると、とても柔らかくて触り心地がよかった。ふわふわと浮かせるように触ってみたり撫でたりしていると、くすぐったかったのか社長のふっとした息が胸元にかかった。驚いた私は社長の頭を抱きしめてしまう。その瞬間、昨日の夜から第一ボタンを開けっぱなしだった胸元に社長が唇を寄せた。
 力仕事もあるので標準サイズどころか控えめすぎる胸の谷間(らしき場所)を強く吸われる。

「っ! な……」

 何するんですか! と抗議しようと思ったら4つ目だ、と胸元で言われてかかる息にくすぐったくて身を捩った。

「眠っている顔もよかったが、これはこれでいい眺めだ」

 顔が熱くなって急いで離れようとすると、左手が捕まって二の腕に5つ目の花が咲いた。
 さて、と言って社長が起き上がる。

「もうそろそろ支度をしないとまずい」

 そう言われて時間を見ると9時半を過ぎたところで慌てて起き上がった。

「えっ、あ、ごめんなさい! 私のせ……」
「違う。ゆっくり行こうと思っていただけだ。熱も痛みもなさそうだな」
「は、はい。寝る前に痛み止め飲んでるのと、最近は痛みもマシになってきてます」
「なら安心した」

 ゆっくり行こうという言葉は私のせいだと思わせないようにする気遣いだとわかった。私が起きて体調をちゃんと確認できるまで待っていてくれたのだろう。

「ありがとうございます」

 社長がふっと笑うと私の頬を一撫でして、合わせるだけのキスをした。

「ん……」
「部屋で着替えてそのまま行くことにする」
「わかりました。いってらっしゃいです」
「いってくる」

 そう言って社長は部屋を出て行った。
 朝食をいただいて薬も飲んで、今日は少し歩いてみることにする。社長には痛みがないなら屋敷や敷地の中を好きに歩いていいと言われていた。
 最近は腰掛けているか、痛みがあれば横になっているかのどちらかだったので、きっと体力が落ちている。ちゃんと仕事も復帰したいし、無理しない程度に気合を入れることにした。
 誰か呼んだ方がいいのか部屋から出て迷っていると、どうかされましたか? と執事さんに声をかけられた。少し外に出てみたいことを伝えると、かしこまりましたお供いたしますと言ってくれた。
 やっぱりついてくるよね、と思いながらお屋敷の階段をゆっくり降りて玄関の扉を開けてもらった。
 テラスから庭を眺めていたこともあったけど、ちゃんと外に出ると清々しさが違う。
 生垣に囲まれた開けた場所に来てみると、ここはパーティなどを開くのに用意されている場所らしい。芝が敷き詰められている。少し横を見ると大きなプールもある。とても1人で泳ぐような広さじゃないのでここも人を集めたときに使われるんだろう。
 その奥は木陰を作るように木が植えられていた。近寄ってみるとさっきの芝生は人工芝だったけど木は本物だ。ミッドガルでは珍しい。わざわざ外から調達してきたんだろう。庭師さんもちゃんといるようで、綺麗に切りそろえられている。
 久しぶりに見た生木の周りを一周しながらしげしげと見つめていると執事さんがここでお茶にされますか? と聞いてきた。

「お茶……」

 外でお茶かぁちょっと飲んでみたいかもって思ってお願いしてみた。お仕事だからわかるんだけど、忙しいだろうに嫌な顔ひとつせずテキパキと用意してくれる手際に驚く。
 お礼を言ってガーデンチェア座って淹れてくれた紅茶を飲んだ。こんなにゆっくり優雅にお茶をすることなんてなかったから、なんだか不思議な気分だ。しかも私はミッドガルでは珍しい生木の真前で飲んでる。少し嬉しくなって自然と笑みが溢れた。
 飲み終わったあとも30分ほど庭を見せてもらってお家の中に戻った。
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