Moon Fragrance

私が私であるために
01



 街の広場からクリフ・リゾートに戻る間のトラックの中でも悶々と考えていた。私なんかから到底言えるわけもなく、答えだって出ないのに。
 ロッジに着いて科学部門から持ってきた機器の修理のために用意された部屋に籠もる。私が外へ出なくてもいいように、これだけは他の機材を置いている研究用のロッジではなく、わざわざ皆で空けてくれた物置になっていた部屋に運び込んでくれた。
 無機質な箱を覗きながら、ひとつひとつ地道に配線と基盤を調べていく。大きすぎてこんなことを数日繰り返していた。でも考え事をしていたせいか今日は作業が思った以上に進まず、いつの間にか日も暮れていた。それでも続けていると作業部屋のドアが開いたことに気付かず、声を掛けられて体が飛び跳ねた。

「今日は随分と熱心だな」
「わっ……! いっ……」

 機械の中を覗き込んでいた私は、固い金属の本体に頭をぶつける。それを大丈夫かとクスクス笑いながら聞いてくる彼を振り返った。
 私を見たルーが一瞬、真顔に戻ってから柔らかく微笑んだ。そして私の目の前に、私がそうしているように床へと座った。

「汚れますよ」
「構わない。なるほど。私の恋人は、熱中して時間を忘れていたわけではないようだ」
「え……」

 ルーは私の唇に人差し指をそっと触れさせた。私、また唇を尖らせていたのだろうか。手は埃やグリスなどで汚れているのに、気にせず手で口元を覆った。
 今日一日で話せないことが幾つかできてしまったのに。

「当たりか」

 ルーがふっと笑って、レノもどうやら隠し事をしているらしいと私に言った。も、ということはそれに私も含まれているのだろう。

「あまり他の男との隠し事は、私にとっては頂けないが……、話したくないことか?」

 そう優しく聞いた問い掛けに、私は俯いて黙ってしまう。
 聞ける雰囲気は今しかない。後日だと余計に口を開けなくなりそうだ。でも、なにから話せばいいんだろう。ルーが私の言葉をじっと待っている。
 彼の顔を見上げると、優しく口を開いた。

「話せば後悔することか?」

 後悔……。するのだろうか。私はまた俯いてしまう。

「私にはリクが、もうなにかを決めているように見える」
「ルー……」
「覚えていないだろうが、前にも言ったことがある。決めたことがあるのなら、それを貫けばいい」

 胸の中にその言葉がストンと落ちてきた。

「教えてください」

 今度こそ私はルーを真っ直ぐに見て、緊張しながら言葉を出した。

「まだ、私が思い出していない、私のことを」
「私の好きな目だ。真っ直ぐで、芯の通った、美しい目。リクならいずれ、そう言うと思っていた」

 微笑んだ彼の顔は、嬉しそうに見えた。
 相変わらずストレートに与えられる言葉に、私がいまだにドキドキしてしまうのは、ルーはわかっているんだろうか。

「なにがきっかけだった」
「今日、広場で記念碑の組み立てをしている時に、うちの工場にいた専務のおっちゃんと会ったんです。そしてアバランチだと言って、旅をしていたティファさんとバレットさんという人に会いました。そこにいたマリンちゃんという小さな女の子にも。彼らは私を命の恩人だと言ったんです」

 ルーが静かに私の話を聞いている。言葉を探しながら拙く話す私の言葉を遮ることは決してしなかった。

「……小さなことなんです。子供の、マリンちゃんの純粋な言葉でした。好きな人いないの? って」

 自嘲気味に笑ってしまった私をルーが不思議そうに見た。自分のこともガキだガキだと思っていたけれど、本当の子供の言葉が刺さるなんて思っていなかった。

「私、好きな人がいます。その人はいつだって優しくて、私のことを大切にしてくれて、こんな私を愛してると言って守ってくれる人です。常に考え、前に立ち、前を向き、折れない芯を持ったとても強い人です」

 恥ずかしかったけれど、目の前にいるその人に素直な気持ちをぶつける。それを優しい顔で見つめ、聞いてくれていた。

「たまにその強さが心配になることがあります。だからこそ、その人の隣にずっといたいと思いました。私なんかがその人の支えになりたいなんて、おこがましいのかも知れませんけど。でもこのままじゃ、私は胸を張ってその人の隣にいることはできません。その人と、ルーと同じように前を向いていたいです」
「リク」
「あなたは消えない炎です。溶けない氷です。ルーにこんなことを言うのは失礼かもしれません。でももし、それが小さくなってしまうことがあれば、私が側にいると言えるようになりたい。そうなるには、思い出せなくても、ここまで歩いてきたことを全部知らなければならないと思いました」

 ルーの綺麗な目を真っ直ぐに見据えて、私は全部教えてくださいと彼に言った。そして彼は、少し迷ったようだけれど静かにわかったと了承してくれた。
 私を優しく引き寄せ、長い脚の間に座らせるとすっぽりと腕で包み込んだ。

「本当に私の恋人は、時々驚くことをしてくれる。まるで誓いの言葉のようだった」
「へ? あ、え……」
「リクの体調が悪くなればそこで話はやめる。いいな?」

 あえて結婚なんて言葉は出さずに話したのに、嬉しげな声で思ってもみなかったことを言われて慌てだす私にクスリと笑いながらも今度は真剣な声でそう言った。私はそれに頷いた。
 どこまで思い出しているんだと聞かれ、私は悩んでしまう。怪我をしていたこと、青いピアスを貰ったこと、ヘリの修繕をしたこと……。初めてルーに抱かれたことを思い出して顔に熱が上ったあと、ルーにペンダントを貰ったんだと恥ずかしさを振り払った。そしてペンダントの繋がりで、なぜ私がおかあの指輪を革紐で首から提げているのかと思い出した。

「ペンダントをルーから貰ったあとから曖昧で、母の指輪をなぜ持ち歩いているのか……。でも、これはいつの出来事なのかも……」
「ああ、ならばその直後くらいだな。順を追うならまず飛空艇の話からか。我々はさらなる発展のために約束の地を探していた」
「約束の地……」

 それはこの星に古くから住む民族、古代種がそう呼んでいた地なのだという。そこには魔晄があふれ、人間の暮らしがもっと豊かなものになるとプレジデント含め、誰もがそう思っていたそうだ。それが世界の最北にある北の大空洞だと。

「北の大空洞へ行くために、キミにロケット村に置いてあるハイウィンドの整備を頼んだ。その際に当分ジュノンを拠点すると伝えたからな。大事なものは持ってこいとリクに話した」
「そのときに……」
「ああ。革紐は私がやったものだ」
「家がボロボロだったので、持ってて助かりました。ありがとうございます」

 そして飛空艇のことで私を整備士長に置いたことを教えてもらい驚いていると、私の仕事ぶりをちゃんと評価した結果だと言ってくれた。
 まずロケット村へと向かい、シド兄の家にいるシエラお姉ちゃんのところへ行ったらしい。元は神羅の所有物であるハイウィンドをシド兄が預かっている形だった。使用を渋られると思ったものの、私が使用の許可を貰ったのだという。
 どうやら私が専務のおっちゃんと言い合いをしたらしく、全容を聞けば恥ずかしいだけだった。

「リクの家の、屋根の上で星を見ながら話した」
「あ、だからこの間、屋根に登られるよりはいいかって言ったんですか?」
「そうだ。落ちたことがあるんだろう?」
「な、なんのことでしょう……」

 誤魔化すように顔を背けた私をルーが、それだけは言う気がないんだなと笑った。
 北の大空洞へと着くと、封印されるように氷の中で眠るかつて英雄と言われたセフィロスがいたのだという。彼に操られていた者がメテオという黒魔法、古代種が封印していた黒マテリアをセフィロスに渡してしまったらしい。
 セフィロスは目覚め、それと共にウェポンと呼ばれる巨大モンスターが数体出現した。北の大空洞にはバリアのような光の柱が広がり、まずはそこから離れる際に北の大空洞で居合わせたアバランチのメンバーもハイウィンドに乗せたとルーは言った。
 そこで私は勝手に村を出てきたことでシド兄と言い合いしながらも、不具合を起こしたハイウィンドのメンテナンスをしたらしい。
 そのあとすぐに、空にメテオが現れたのだという。
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