Moon Fragrance

動きはじめる私の世界
01



 その次の日も、変わらず私は街へと行った。記念碑は作り始めたばかりだけれど、ボランティアの人たちは元々そういう技術を持った人たちの集まりだったのか、なにかあったときに私が細かい指示をすることくらいしかなくて、ほとんど手持ち無沙汰だった。
 作業をしながらも単調すぎて暇だと思って辺りを見回すと、すぐそこで小さなトラックのボンネットを開いて覗き込んでいる人がいた。私はその人に近づいていく。後ろでレノさんが呆れた顔で見ていることを私は知らない。

「どうかしましたか?」
「ああ、いえね、エンジンが掛からなくてさ」
「見せてもらってもいいですか?」
「助かるよ。仕事ができなくて困ってたんだ」

 失礼しますと言ってボンネットを覗き込む。エンジンが動かない理由はだいたい心当たりがあったから見ただけですぐにわかった。

「あー、ここか」
「直りそうか?」
「はい。ちょっと待っててください」

 私はそう言って近くに山積みになっている使えなくなった電子機器や家電の山へと向かった。その中から使えそうなものを探して分解する。そして部品を取り出してトラックの方へと戻った。
 持っていたタオルでエンジン周りを綺麗に拭いて汚れを取り、原因である部品を交換する。他の場所も一応確認してから持ち主にエンジンを掛けてほしいと頼んだ。わかったと言った持ち主がキーを回してエンジンを掛ける。セルも問題ないようで、車体を震わせながらエンジンが掛かった。

「おー、助かったぜ! これで仕事ができる」

 持ち主さんが満面の笑顔でお礼を言ってくれる。私がボンネットを閉じるとその人は装備のためのアクセサリー屋さんだったらしく、あんたなら使えそうだと言って銀細工用の銀粘土の素材をお礼としてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 そしてその人は、じゃあなと言ってトラックに乗っていってしまった。
 私はそれを腰袋へとしまい込んでいると、今度は違う人に話しかけられる。

「あんた、エンジニアか?」
「はい。そうですけど」

 振り返るとそこには大きな剣を持った、綺麗な金色の髪がまるでチョコボの羽ようにふわふわとしている男の人が立っていた。なんだろうと思ってまじまじと見ると、少し恥ずかしげに頬を人差し指で掻いている。

「俺のバイクも見てほしいんだ」
「修理ですか?」
「いや、改造したい」

 できるかわかりませんけど、と話しているといつの間にかレノさんが後ろに立っていた。目の前の人はレノさんを見て臨戦態勢に入るように背中にある剣の持ち手に手を掛けた。

「待てよ、と」

 レノさんが戦う気はないと告げると、その人は手を下ろした。それでも顔は険しいままだった。

「姉ちゃんに変な虫が付いたら困るだけだ」
「あんたの女か」
「いや。うちで預かってる優秀なエンジニアだ」

 聞いているだけで恥ずかしい会話を目の前でしないでほしい……。
 どうすればいいのかわからず少しいたたまれないで俯いていると、あんたならいいかと話がついたようだ。護衛を頼んだと言って私は彼に任される。

「15時に広場まで連れてきてくれるか」
「わかった」
 
 どうやら昨日行ったセブンス・ヘブンにバイクがあるらしく、お店へと行くようだ。
 レノさんが信用したなら大丈夫なんだろう。彼の後ろをついていくと、本当に大きな剣を背負っている。重くないんだろうか、どうやって扱っているんだろうかと考えていると、話しかけられてびくっとなった。

「……クラウドだ。あんたは?」
「リク、です」
「ああ、あんたがシドが言っていた……」
「シド兄を知っているってことは、クラウドさんもティファさんたちの仲間ですか?」
「なんだ。ティファを知っているのか。そうだ」

 昨日、冷蔵庫の修理でお店に行きましたと言うと、クラウドさんは話が早そうだと言った。
 それよりもシド兄は彼らに私のことをなんて話して回っているのだろうか。

「あの、シド兄はなんて……」
「ああ、あんたのことが随分と心配だったみたいで、首根っこ掴んででもハイウィンドに乗せていればよかったんだといつも言っていた」
「首根っこ……」

 きっと昨日、ルーから話してもらったハイウィンド奪取のことで言っていたのだろう。そんなことをされていれば、私は今もルーと和解できていないに違いない……。でも私はまたシド兄に心配を掛けたのかもしれない。
 私はやっぱりシド兄に会いに行かなければならないと強く思った。
 セブンス・ヘブンにつくと、お店の前には私が思っていた以上の大きさのバイクが置いてあった。本社ビルの展示でもここまで大きいものは見たことない。

「これだ」
「これを、どう改造するんですか?」
「剣を収納できるようにしてほしい」
「その、重そうな剣をですか?」

 そう聞くと、当たり前だというようにああと返ってくる。この大きさだと排気量もかなりあって、それだけでも車体重量はとても重いに違いない。これに、その大きな剣を収納するの……?
 となると車体を伸ばさないといけないし、重心を低くさせないともっと扱いにくくなるだろう。

「難しいか?」
「少し考えさせてください」
「ねえ、クラウド。帰ってきたなら顔くらい――」

 うーんと考えていると、お店の中からティファさんが出てきて、私を目に留める。

「リクさん」
「ティファさん、こんにちは」
「こんにちは。クラウド、リクさんのことナンパでもしたの?」

 ティファさんがそう言うと、クラウドさんが慌てて否定している。もごもごと小さな声で私を連れてきた経緯を説明している彼は、女性に、しかもティファさんに弱いみたいだ。それが微笑ましくて、ふふっと笑ってしまう。

「そうだ。リクさん、お昼は?」
「まだ、です」
「じゃあちょっと待ってて。軽食作ってくるね」

 クラウドもお世話になることだしと言いながら、ティファさんはさっさとお店の中に戻って行ってしまった。
 あ……、気にしなくていいと言いたかった言葉は間に合わなかった。
 これもなにかの縁だ。そこまでよくしてくれるなら、やろう。楽しそうなことに変わりはない。これは腕が鳴りそうだ。

「改造の件、請け負いますね」
「いいのか。ティファの言葉でやるというなら、無理をしなくても……」
「いえ、違います。クラウドさんの言うような物ができあがったら、世界にひとつの物ですよ? それに私が関われたなら、誇らしくないですか?」

 クラウドさんは私を一瞬不思議そうに見つめて、頼むと嬉しそうに力強く言ってくれた。
 そうと決まれば話は早い。さすがに私とクラウドさんだけじゃ大変すぎるから、ロケットのときかシスター・レイ移設のときに登録していたらしい、うちの専務のおっちゃんに電話を掛けて応援を頼む。訳を話せば電話越しでもわかるくらいに楽しそうな声で二つ返事に了承してくれた。

「お待たせ。サンドイッチ作ってきたよ」
「ありがとうございます」

 おっちゃんがお店に来るまでに私はティファさんが作ってくれた、チーズとハムの入ったサンドイッチを頂く。作業しながらや、手が汚れても食べやすいようにオーブンシートを巻いてくれていた。パンもふわふわだし、チーズはいい香りがする。ハムは塩分が濃くなく、チーズの味も邪魔せずにとても美味しかった。
 クラウドさんが言うには、背負っている大きな剣も特注製らしく6本に分離できるらしい。それらは単体でも使えるし、全て合体させてもその幾つかだけでも合体させて使えるそうだ。その1本1本をすべて収納したいのだと言う。
 となると全ての寸法を測って、収納機構を作らなければ。あとは取り出しやすいように蓋を開いたときに少し出てくるように設計して……、と考えているとおっちゃんが来た。そして数人、見知った顔もいる。かなり大きいバイクだと話したから、他のうちの従業員も連れてきてくれたみたいだ。そういうところは話さなくてもわかってくれるのがありがたい。

「クラウドもリクお姉ちゃんも楽しそう!」
「そうだね」
 
 全員を交えて、クラウドさんと相談しながらああでもない、こうでもない、こうした方がいいと設計図を書き進めていく。それをお店の玄関の段差に座ったティファさんとマリンちゃんがニコニコしながら見ていた。
 なんとか設計図が形になり始めた頃には、レノさんとの約束の時間が迫っていた。

「設計図、クラウドさんに預けていいですか? 明日は来られますけど、毎日来ているわけじゃないので」
「わかった。預かっておく」
「私がいないときは、おっちゃんたちが」

 そう言って彼らを見ると、任せておけと返ってくる。本当に頼もしいおとうの仲間だ。そう思っていると、おっちゃんが勘違いすんなよと言う。

「リクだから手伝ってんだ」
「ありがと!」

 少し面食らったけれど元気にそう返すと、おっちゃんたちがニッと笑ってくれた。
 クラウドさんが送っていこうと言う。そしてティファさんが、明日もお昼作ってるねと言ってくれた。

「ありがとうございます」

 広場に戻るとレノさんが遅刻だと言って笑っていた。

「ごめんなさい」
「謝る気あんのか?」

 そう言われて私はわざと肩を竦めてみせた。謝る気はあるけれど、楽しくてつい。
 11時にはこの広場にいると、クラウドさんと明日の約束をして別れる。ロッジに戻ったらまた医療機器のメンテナンスをしないと。

「この2時間の移動、なんとかならないんですかね」
「高速がちゃんとできりゃマシになるだろうよ」

 そうなんだけど、街の設計は私じゃないからどうにもできない。そんな会話をしながら2時間かけて今日もまたクリフ・リゾートに戻った。
- 74 -
*前 次#


Moon Fragrance