不都合な罪を閉じ込めた

 なんとかパイレーツ。
 ペンギンたちは、迷子の俺を保護したお姉さんにそう呼ばれていた。
 パイレーツはさすがの俺でも知っている。海賊だ。
 一度思考停止して、もしかしたらパイレーツに他の意味があるんじゃないかと考え直す。
 俺は、てっきりこの集団はトレジャーハンターとか冒険家だと思っていた。この前の島でもそのへんの大学生くらいのやんちゃしかしてないし、無人島でも野生している葉や実を採っていただけ。
 ――いや、そのとき獣と戦っていたベポは随分と強かった、でもシロクマならそれくらい強いだろ。たぶん。
 ベポに抱えられてみんなのことを観察してみても、気のいい船乗りにしか思えない。
 ああ、でも、たまに船がやたらと揺れて俺は布に包まれて物置きに閉じ込められることが何度かあった。海が荒れてて転がったら危ないからだと思っていたけど、もしかしたらあれは、戦闘していたのか?
 この船の人たちの正体を考えて数日経った。
 うんうんと唸っていると、ベポたちが心配してあやしてくるから考えが最後までまとまることはない。
 俺が何に悩んでいるのか理解できないから、ご飯を食べさせたり昼寝に誘ったり、あの手この手で俺のご機嫌を取ろうとする。
 今日は、船を止めてみんなは釣りをしていた。
 俺はそれを甲板でぼんやりと見ていた。
 魚の多いエリアだったみたいで、一時間ちょっとで奇想天外な魚をばんばん釣りまくり、釣り大会は終わった。釣果で賭けをしていたらしく、金が飛び交う。
 俺はもうそれで船内に戻るのだと思っていたのに、精算が終わった人からどんどん海に飛び込んでいってびっくりした。
 そんなに海が好きなのか。
 日差しは強いが気温は穏やか。
 そんな海の冷たさが恋しくなるような日じゃない。それなのに、みんなは我先にと海に落ちていく。
 いや、海賊じゃないわ。
 彼らの無邪気な笑顔を見ていると、本当にそのへんにいる兄ちゃんにしか見えない。練馬区あたりに住んでいそう。賊どころか族にも見えない。……やたらクールなキャートゥンは練馬区じゃないし、シロクマのベポと巨人はまたジャンルは違うけど。
 そう考えながら水遊びを見ていると、海面に顔だけ浮かんでいる男たちの中の誰かが俺の名前を叫んだ。
 嫌な予感がする。
 船内に逃げようとしたけど、伝い歩きが限界の俺に逃げ場はない。
 俺は海には入らないぞ!
 抵抗しようと床にへばりついたがベポに抱きかかえられて、そのまま空を舞った。
 ダボンッ!!
 冷たい水につつまれ、準備していなかった鼻が浸水した。

「痛っ!」

 もはや、にゃんにゃん言ってられない。だけど俺の悲鳴はベポたちには通じず、けらけら笑っている。
 いいやつらだと思った俺がバカだった! やっぱりこいつらは海賊だ! 極悪非道だ!
 服のまま飛び込んだから体は重いし、ベポから離れようにも絶対に溺れるから離れられない。
 むすっとしていると、ベポが仰向けになって腹の上に俺を乗せた。
 抱えられて浮いているときより安定した。綿のようなベポの毛は水を含んでふわふわのもずくみたい。それが波に揺られてふよふよと俺にくっつく。
 海中はエメラルドグリーンほど綺麗ではないが、東京とは比べ物にならないくらい澄んでいる。
 だけど東京にはなくても、きっとこういう海は日本にもあった。沖縄とかの海は写真で見る限り似ている。見上げた空だって、俺の生まれ育った場所と同じ。なのに、こうして海賊っぽいやつらと一緒に海に入り、あまつさえシロクマの腹の上でそれらを見ると、「ああ、異世界の海と空だ」と感じる。
 この前の異国情緒漂う町並みとは違って、同じなはずなんだけどなあ。
 なんて黄昏ていたら、ベポがバシャンッと海面を叩いた。

「ワワ〜」

 は? と思っている間に、ベポが海水を掬って俺にかけながら、もう一度「ワワ〜」と謎の呪文を唱えた。
 得体の知れないかけ声に怖くなるけど、ベポの表情は明るいし、回りの人たちもベポの言葉につられたように「ワワー」と言い合いながら水をかけ合って遊び始めた。水をかけるときのかけ声なのかもしれない。立つときの「よっこいしょ」みたいな。
 その証拠に、俺に水をかけるのを止めると、ベポはもう「ワワ〜」と言わなくなった。
 代わりに「ロウ、ロウ、ロゥユァボー」と歌い始めた。ゆらゆら体を揺らし、「メアリ、メアリ、メアリ〜」と続ける。
 この前からベポの歌を聞いていて思ったけど、英語の童謡は同じ単語を続けるものが多い。たまたまベポの好きなものがそうなだけかもしれないけど。
 その単調な歌声を聞いていると、なんだか彼らが海賊でもそうじゃなくても俺には関係ないような気がしてきた。俺が二十年ちょっと日本という国にいた常識では、犯罪者は悪であって、そこに身を置くことは善良な大学生にとってはストレスでしかなかったが、少なくとも俺の目の前で犯罪はおかしていないし、だいたい海に飛び込むのが嫌でも船内に一人で戻れない俺がこの人たちのそばを離れられるわけがない。
 まあ、ゆるく付き合っていけばいいや。
 海賊になるならともかく、俺は保護されてる赤ちゃんっていう立場だしな。

ヒトリヨガリ