灰色の翼はもういらない
きっと俺はここで生きていくんだ。これがその第一夜だ。
そう覚悟を決めたのに、マミーに寝かしつけられている間に打ち砕かれた。
銃や木々が割れる爆音とともに建物に押し入ってきた無法者は、当たり前だがベポたちではない。むさ苦しい肉だるまのおっさんたちだった。
奇襲だと認識したときには、マミーは銃剣で刺され血の海に倒れていた。
俺も指されるかと思いきや、尋常じゃないサイズのおっさんは俺の首根っこを掴み、そのまま外に連れ出した。他のところからも、どんどん泣き叫ぶ子供が担ぎ出されていく。
建物にいた大人はどこにも見当たらない。子供は大きくても十歳に満たないくらい。そういう子は、この事態の恐ろしさを理解しているから泣き顔も悲壮だ。
俺は最初こそ混乱したしちょっと涙が出たけど、子供たちがパニックになっているのを見ていたら冷静になった。彼ら彼女らの倍の年齢の俺がしっかりしないといけない。
それにしても、どうして子供ばかりを? と眉をひそめて考えた。
子供なんて泣き喚いてうるさいし、扱いだって大変だ。実際、彼らは絶叫する子供に対して不快そうに顔を歪めているし、悪いやつだと殴って黙らせようとしている。それで黙れるような年齢でもないのに。
完全に子供の扱いを知らない。誘拐犯だってもうちょっとうまくやる。
その疑問は岸に停められていた船に乗せられてすぐに解決した。
船には十代前半くらいの子供が数人乗っていて、おっさんたちは俺たちをその子供にどんどん投げ渡していく。先住の子供たちには表情がなく、ボロ雑巾のような布をなんとか体に巻きつけている。明らかに奴隷といった風貌。きっと拐われた子供の世話係なのだろう。そして、おそらく彼らもどこかで拐われた子供。
こんな胸くそ悪いことが目の前で起きるとは思わなかった。
俺たちの頭上には、禍々しいドクロの旗がはためいている。
海賊って、こんなに卑怯で害悪なものなんだ。
マミー部屋には、所狭しと手配書が貼られていた。じゃあ、この世界にはこんなやつらがたくさん、当たり前のように存在しているのか。
心が凍りつくように寒気がした。
だけど、元の姿だとしても敵わないような大巨漢の男たちに、満足に立って動くこともできない俺がどうこうできるわけがない。何もできない、俺には。
今までだって、なんとなくで生きてきた。テストはそれなりに。受験は身の程にあった。できない仕事を頼まれたら、なあなあでやり過ごす。そうやって「まあこんなもんか」で生きてきた。
知らないうちに赤ちゃんになっていた。ネコと呼ばれた。俺を拾ったやつらは海賊だった。捨てられて児童施設に身を寄せた。全部、今までどおり「まあいいか」で受け入れた。
だから、今回も――
嫌だ。こんなやつらにいいように使われて生きていきたくない。
嫌だ。こんなやつらと一緒にいるくらいなら、同じ海賊でもあいつらの方がマシだ!
そのとき、俺はマミーの部屋で見た人相の悪いイケメンの顔と、その下に書かれた名前を思い出した。
「ロー!!」
俺を捨てた、その人の名前を呼んだ瞬間、俺たちを何か得体の知れない膜が包んだ。