「(藍染の霊圧……以前よりも遥かに強い。藍染だけじゃない、恐らく他の破面も今までの桁違いの霊圧なんだろうな…)」
今はいない井上織姫、そしてそんな彼女を助けに
「万象一切灰塵と為せ 『
山本を中心に炎が燃え盛る。後ろに下がっていた死神達は己の身を守るためにしゃがみ込んだ。やがて振り下ろされる鋒。その方向に炎が矢のようにまっすぐ伸び、藍染達の前に壁を作り上げた。
「“
目を細めて鋭い眼光を飛ばす山本に、「手荒いな…総隊長…」「それだけ山じいもご機嫌ナナメってことじゃないの」と浮竹、京楽が冷や汗を流す。
炎のせいで気温が上がり、ジトリとした汗が頬を滑る。真白は青空を赤く染める炎の壁を見つめ、
「空座町での藍染との決戦。お主にも戦力に加わってもらいたい」
「……………え?」
急遽総隊長に呼ばれ、一番隊隊舎まで行った真白に待ち受けていたのは、予想外のものだった。そこには既に各隊長達が揃っており、真白はこれから話される内容に嫌な予感を感じながらも片膝をついた。そして告げられたものが、最初のそれだった。いくら自分が元五番隊三席だったとしても、今は万年平隊員。そんな自分を戦力に加えたところで盾役にすらなれる筈がないと拒否しよう顔を上げたが、こちらに向けられていた山本の眼光に声が出ない。
「引き受けてくれるかの」
この状況で、誰が「いいえ」と言えるだろうか。真白は諦めの色を瞳に写し、深く頭を下げた。「――御意」そう応えた彼女の声は、震えていなかった。
「ひゃあ、あついあつい。ムチャしはるわァ、総隊長サン。どないします? 藍染隊長。これやったらボクら参加でけへんよ」
「何も。ただこの戦いが、我々が手を下す迄も無く終わる事になった。それだけの話だよ」
炎の向こうで、市丸の声が聴こえた気がした。真白は炎の壁を見たが当然奥は見えず、ゆっくりと目を閉じて斬魄刀を握りしめた。紅い花は、こんな日でも舞い散る。
「………さて、行こうか。ツキ」
それはピリピリとした雰囲気に似つかわしくない、穏やかな声だった。
「――…さァて、どうしたもんかのォ」
沈黙を破ったのは、かつての『
「さっきの話じゃこういう理屈だ。“この柱の四方に柱を立てて、その柱の力で街ごと入れ替えた”。だったら、その柱を壊せばどうなる?」
此方の柱の場所さえも特定しているらしく、バラガンの部下・フィンドールが呼んだ虚達が空から現れ、今にも柱を壊そうとしている。大前田は叫び慌てるが、山本は微動だにしない。
「莫迦者めが」
一瞬にして、虚は倒される。
「そんな大事な場所に、誰も配備せん訳があると思うか。ちゃんと腕利き共を置いてあるわい」
虚を倒し四方の柱に立つのは、三番隊副隊長・吉良イヅル、九番隊副隊長・檜佐木修兵、十一番隊三席・斑目一角、四席・綾瀬川弓親の強者達である。
真白はその姿を見てホッと息を吐くと共に、吉良の体調が気になった。未だ万全ではないくせに、ああやって平気なふりをして戦うものだからこっちも気が気でない。そんな真白の心配もよそに、戦いの幕は上がってしまった。バラガンの部下四人はそれぞれ散らばり、柱を壊すべく向かう。もちろんそれを止めるだなんて無粋な真似はしない。相手を務めるのは彼らであり自分ではないし、そもそも自分が手を出さなくとも充分すぎる戦力だ。
――そんな考えは、四つのうち一つの柱が壊されてしまったことで吹き飛んでしまう。
「柱が………壊された…!?」
「やられたのか!? 一体誰が…」
「…い…、…一角……!!!」
目を見開き、真白は驚きで動きを止めた。まさか、まさか――。嫌な考えばかり頭に浮かび、その度に否定する。まだ一角の霊圧は微かに感じられるが、それでも柱が壊されるということはつまり――負けたということだ。
「斑目さん……!」
一角は更に敵に痛めつけられているらしいが、今自分が行ったところでどうしようもない。けれどと足を踏み出した時だった。七番隊隊長・狛村が、敵の頬を思い切り殴り飛ばしたのだ。「狛村隊長……良かった…」と肩の力を抜いた真白は、狛村が敵を倒す様をずっと眺めていた。こうして他隊の隊長が戦う姿を見ることなんて殆ど無いに等しく、故に戦い方は無限にあるということを、まざまざと見せつけられているようにも思えてしまう。
「申し訳ありません、バラガン様! 奴等は我々がすぐに始末して参りますので、どうぞお座りになってお待ち下さい!」
バラガンの部下が必死に言い募る。そこへザン、と足音が近くで聴こえた。
「誰を始末するだと?」
現れたのは『二』という数字が背中に書かれた袖無しの隊長羽織を着る女、砕蜂と副隊長・大前田。
「狛村達を始末するというのか、それとも我々全員か。返答次第では、私がお前から始末するぞ」
砕蜂の台詞に、バラガンの
「まあ……返答せずとも、始末するがな」
――ガン!!!
二つの刀がぶつかり合う。それを合図に死神達は走り出した。それぞれの敵に向かって。
「…さて。漸く本番かの」
高く結ばれた真白の真っ白な髪が、風のせいでふわりと靡く。山本の呟きにキュッと唇を引き締め、ダッと空を蹴った。