並ぶ肩

「無事に帰還していたんですね、朽木隊長」
「………………」
「……ゴホン、えっと…。……おかえり、白哉くん」
「ああ。……ただいま、真白」

まさか、またこうして彼と戦えるなんて思わなかった。目を閉じると今でも彼がボロボロになった姿を思い出せる。

「白哉くんのあんな姿、もうこりごりだよ」
「二度は無い」
「さすがっ!」

話をしながらでも、二人の手は止まらない。やがて自分達の周囲にいた星十字騎士団は居なくなり、束の間の静寂が訪れる。

「朽木隊長、こっち一人片付きましたよ」
「あ、檜佐木副隊長。お疲れ様です」
「縹樹!? お前までいたのか…」
「はい。えっと、此方は三人倒しました。といっても、殆ど朽木隊長が倒されたのですが――」

そこまで言って、真白は大鎌を振り上げた。ガンッと鈍い音が戦場に響き、やがて斬魄刀同士が断続的にぶつかり合う。

「な、何なんだよ縹樹! どうしたんだよ!?」
「どうしたはこっちの科白ですよ! いきなり朽木隊長に斬りかかってくるなんて!」

迫る檜佐木の斬魄刀を“月車”で絡め取る。ギリギリと拮抗する二つの刃に、斬魄刀が悲鳴を上げているのが判った。

「何故斬りかかる。敵に操られているのか? それとも、けいは敵が化けた偽物か?」
「そんなっ、俺は正真正銘俺ですよ! 敵に操られてもいません!」
「〜〜〜っ、檜佐木副隊長!」

堪らず彼の名を呼んだ真白だが、次の科白で手遅れなことを悟った。

「俺はただ単純に、ペペ様の為に…!」

グワッと向かいくる檜佐木。そんな彼に真白は苦い表情を浮かべながら、斬魄刀の柄で檜佐木の腹を思い切り殴り飛ばした。

「……逃げて、白哉くん」
「それは此方の科白だ。さっさとこの場から逃げろ」
「……ふ、ふふふっ、あははっ! 私達二人とも、こんなところで何やってんだろ」

くすくすと笑いながら檜佐木の攻撃を躱す。

「言ったでしょう。白哉くんのあんな姿、もうこりごりだって。今度は間に合ったんだ。何があっても私は此処にいる!」

力強い宣言に、白哉はもう何も言わなかった。その代わりに彼の口元は、珍しく弧を描いていた。
そこへ敵が姿を漸く見せた。浅黒い肌に真ん丸な身体。長い髭は真白に山本を思い出させた。

「戦いっていうのはいつだって哀しい。それはそこに“愛”があるからなんだヨネッ」
「(……………あい?)」
「戦いは、信じる正義の喰い違いで起こると思っているんでショ? 違うよ。戦いはすべて愛のために起こるんだヨネッ!」

星十字騎士団の一人であるペペ・ワキャブラーダ。彼の言葉の一つ一つに、真白は自分が苛立つのを感じた。

「愛無き所に戦い無し! だからこそ戦いは哀しく、だからこそ戦いは美しいんだヨネッ!」

ペペが高らかに叫んだ時だった。操られていた檜佐木は力尽きたようにドシャ…と崩れ落ちた。

「演説は終わったか?」

此方も終わったと、白哉は疲れた様子もなく告げる。側では真白が光の無い瞳でぺぺを睨んでいた。
その間にも白哉はぺぺの能力を冷静に分析する。人を意のままに操る能力とは、操られた者を動けなくしてしまえばいい。更に、その手合いは全て術者を斬りさえすれば傀儡の糸は断ち切れる、とも言い当ててしまった。

「Oh、さすが朽木白哉。見抜いてくるネッ。こわいこわい…こわいッ!」

両手でハートの形を作り出したぺぺは、今度は白哉を操ろうとする。二人は即座にそれを見抜いて逃げの選択を取った。
しかし白哉は咄嗟にそのハートを斬魄刀・・・で弾いてしまったのだ。無機物には効かないぺぺの能力だが、斬魄刀には“心”がある。故に白哉の斬魄刀“千本桜”は――敵の能力にかかってしまったのだ。

「白哉くん!」

真白の声で反射的に“千本桜”を手放した白哉だが、ぺぺは「手放してどうなる?」と楽しそうに問うた。

「キミはチャンスを与えたヨッ。ミーを愛する武器を…ミーを愛する死神が使うチャンスをネッ!」

ぺぺが見つめる先には、倒れたはずの檜佐木が口から血を吐きながら立っていた。手に己の斬魄刀と白哉の斬魄刀を持って。

「愛の力は偉大だヨッ! どんな攻撃を受けても立ち上がり、愛のために目的を果たそうとする。困難を乗り越える為に愛はすっごく重要なんだヨネッ!」
「もう黙って」
「!?」

またもや愛について語っていたぺぺの目前に迫り、真白はヌゥッと鎌を振り上げた。気配すらしなかった真白の攻撃にぺぺはぎょっとしながらも何とか避け、わたわたと逃げ出す。
だが、ただ逃げているわけではない。ぺぺはまた手をハートの形にすると、斬魄刀で攻撃してくる檜佐木に白打で応戦していた白哉に向かって能力を放った。

「びゃっ……!」
「案ずるな」
「!」

確かに能力を受けたはずなのに、白哉の様子が変わることはない。ぺぺもこれには驚いたのか、己の身体を変化させて惜しみなく能力を放つ。

「これ以上、好きにはさせない!」
「何っ!? ……あー、さっきの見ていなかったんダネッ! もうその斬魄刀は――」

ぺぺがしたり顔で言い切る前に、彼の片足が斬り落とされた。まさに神業とも言える速さに、白哉もぺぺも目を見開いた。

「『もうその斬魄刀は』………何?」
「なっ……」
「悪いけど、遊んでいる暇は無いの」

冷酷とも言える眼差しがぺぺを射抜いた。しかし真白が一手を決める前に誰かの足がぺぺの顔を蹴り飛ばした。

「ッ!」
「…………、兄等……!」

そこに立っていたのは、確かに真白が自分の手で四番隊へと送った六車とローズだった。

「拳西! ローズ!」

傷はもういいのか。その肌はどうしたのか。訊きたいことは山程あったが、今は話しかけられる雰囲気では無い。すると二人はそんな真白の横を通り過ぎて、まずは檜佐木の意識を奪った。

「オヤ、これはこれは。また丁度良い処に敵が居たものだネ」

呑気な科白と共に現れたのは、何やら可笑しな衣装を着た涅マユリ。敵に対する何らかの意味を持つものだろうとは思うが、いかんせん少し眩しい。

「マユリ、これどういうこと? ローズと拳西に何したの!」
「何だねキミは。私は奴等を救ったんだヨ」
「救ったぁ!?」

マユリの話によると、敵の能力でゾンビ化したローズと六車を開発した薬剤を投与したことで彼のゾンビにしたらしい。

「それって結局死んでるの? 生きてるの!?」
「その辺りはどうでも良い」
「どうでも良くないから聞いてんでしょ!? ちょっとマユリ!」

そのまま遠ざかってしまったマユリに、もう追いかけるのも疲れたのか深く息を吐く。その後ローズと六車を使って、彼はいとも容易くぺぺを倒してしまったのであった。