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* * *

戦闘に入ってすぐ、俺は術の詠唱を始めた。

雨「風刃よ、剣となりて敵を斬り刻め……。シュトゥルムソード!!」

術によって呼び出された風が刃の形を纏い、魔物に斬りかかった。
それに続くようにひーとが詠唱を始めた。

炎「燃えろ火の玉!!イグニスグローブ!!」

……詠唱が雑い……。
しかしその酷い詠唱とは裏腹に、術は詠唱通りの発動をし、結果として燃え盛る火の玉が三つほど、魔物に降り注いだ。
しかもこの詠唱は彼の中ではまだまともな方だから困る。
たまに擬音だからな……。

桃「斬桜月花ザオウゲッカ!!」

桃花が間髪を入れずに三度に渡って斬りかかる特技をぶちこんだ。
斬りかかる度に桜の花びらが舞う。
が、桃花の特技は魔物の防御力に勝てず、弾き飛ばされてしまった。

桃「きゃっ……!!」

氷「桃花ちゃん!!……生命の源たる水よ、彼の者の傷を癒せ。ヒール!」

あいすの回復術で桃花の傷が少しだけ回復した。
……それにしても、異形化したばかりな割に、固いな…。
異形化したときの能力が魔力や能力に比例するなら、流石に小雪の育ての親なだけはあるか……。

魔物の片方が、黒い焔のようなものを吐き出した。
……くっ、全体攻撃か……。
流石にキツいな……。これは。
ちらっと後ろを振り返ると、弓を構えながら戸惑う小雪と、後方戦闘に徹している冷音。
冷音の方は、どうやら詠唱をしているようだ……。

冷「……我が障害を貫くは鋭き氷の針……。アイスナーデル。」

細く尖ったこおりの針が、魔物の身体を貫く。
どうやら全体攻撃らしく、魔物は二匹とも仰け反った。
そこを突くように、桃花が「桜草花」を、俺が斬り上げた後に剣の平で叩き落とし、小さな旋風を起こす技、「風雅斬フウガザン」を、あいすが剣先に水のフォルトを集め、衝撃波を飛ばす技、「水陣波斬スイジンハザン」を放ち、魔物の体制を崩す。
いつの間にか魔物は一匹になっており、体制を崩した為か、残りの一人はくらくらと目を回していた。

雨「小雪!!」

俺がそう呼び掛けると、小雪はビクリと反応した。
……しまった……。
小雪にとって、これはキツいものかもしれない……。
呼び掛けて少し後悔した……。
だが小雪は、弓をしっかりと構え、少しの間俯いたあと、技を放った。

雪「…………煌燐閃コウリンセン……!!」

小雪の放った光を放つ弓が、ビュンと音を立てて、魔物の胸を貫き、瞬いた……。

* * *

“ありがとう……小雪……皆さん……。”

小雪の母親の、先程よりも優しげな声が、響いた。
いつの間にか、異形の姿は消え、光に包まれた、いつもの色白で栗色の髪をした、シスター服の女性の姿と、優しげな笑みを浮かべた、神父服に身を包んだ男性の姿があった。
これが小雪の両親の、本来の姿だ。

“……私たちは、もう逝かねばならぬようです……。”

今度は男の声が響いた。
小雪は瞳に涙を浮かべ、声を震わせながらいう。

雪「逝っちゃいやだよ……。ずっと家族だって、ずっと一緒だって、約束したじゃない!!」

“小雪……。”

シスター服の女性は、小雪の前まで行くと、そっと頭を撫でた。

“小雪、離れていても、ずっと家族なの。小雪と、私たちは、血は繋がってなくても、ずっと家族。
泣かないで、小雪。貴女は笑顔が一番似合うんだから。”

そう言って女性が微笑むと、小雪はぎこちなくも笑顔をつくって見せた。
小雪の両親を包む光が強くなり、透けて見えなくなり始めた。

“小雪、忘れないでね、私たちは、いつでもそばにいるわ。”

シスター服の女性は、そう言ってまた小雪の頭を撫でた。

“……いつかまた会える日まで、暫しお別れだが、変な男に捕まるんじゃないぞ?”

神父服の男性が少しおどけながら言うと、小雪がほほを赤く染めながら言う。

雪「わ、わかってるったら!!」

“よし、その意気でいけ。”

男性は、今度は少しはにかみながら言った。
女性の方は、こちら側に視線を映すと、

“……小雪の事を、よろしくお願いします。”

と言いながら、二人して頭を下げた。
そして、小雪に笑いかけると、キラキラと夜の空に溶けていった……。

雪「……またね。お父さん、お母さん…。」

小雪は、両親の消えていった空を見上げながら、そんなことを呟く。
二人が去った床には、それぞれの輝石が、残された。
……その輝石から黒い煙が上がって消えていったことには、誰も気が付かなかったようだ。
……俺以外は。

黒い煙といえば、似たようなもので先ほどの桃花の家の霧を思い出すが、さっきの小雪の発言からして、御両人の異形化は魔王のところに直談判に行ったことが原因だろう。
…とすると、この件は、桃花の家の一件とはさほどの関係ないはずだ。
ただ、全くの無関係というようにも思えなかった。
……しかし……本当に誰も気が付いていないようだ。
……俺にしか見えなかったんだろうか?

そして、あの異形化は、本当に何かの御伽噺のような感じだった。
冷音曰く、高等な技術がある呪術師にしか扱えない代物らしいが、まさか人が魔物に変えられる術が本当に存在するなんて。
いくらエルフや天使が、傷を負って死ぬ時はフォルトに乖離するって言ったって、返り血は赤いはずだ。
でも御両人を傷つけたときに確認した血の色は、従来の魔物と同じ碧系のもので……まさか細胞組織そのものから変えたんだろうか?

……いや、なんて恐ろしいことを考えるんだ俺は。
ともかく考え事が尽きないが……外へ出ることにしよう。




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