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* * *
雪「ねぇ……、誰かこれからユキのこと、泊めてくれるひと、居ない?」
……教会から出て数分。
しばらく空を見上げていた小雪だが、その発言は唐突だった。
いきなりの事だったせいか、その場にいた全員が驚いた顔をしている。
それを見て彼女は苦笑混じりの笑みを浮かべた。
……気丈に振る舞っているようではあるが、表情は固い。
……、小雪は一人であの教会にいることが辛いのかもしれない。…親を倒した場でもあるし、何より、沢山の思い出が詰まっているのだろうから。
炎「ボクん家空いてるよっ!!」
いち速く答えたのはひーとだ。
表情はいつも以上の元気な笑顔。
彼なりに気を遣っているのかは判らないが、元気を分けようとしているのはなんとなく見て取れる。
雪「マジ!?泊まっていい?」
炎「うん!!親は多分出掛けてるだろうしね♪」
小雪のいかにも空元気な問いに、ひーとは尚も明るく答えた。そうか、ひーとの家はご両親とも病院で共働きだもんな……。
恐らく今日も夜勤か何かなんだろう。
以前も何度か、夜に一人は寂しいとかって言って、うちを訪ねてきたことがあったっけ。
最初は、随分と寂しがり屋な奴だと思ったものだが、今ではそんな風に訪ねてこられるのも慣れたものだ。
でもまぁ、今日は小雪がいるんならその心配もなさそうだが。
雪「よっし!……でも……あんな広い家に二人きりって、虚しくない?」
……まあ確かに、あの無駄に広い屋敷で二人きりは虚しいか。
余談だが、ひーとの家は祖父だかが病院を経営しており、その敷地は、このゴールドグレードでも一二を争う広さを誇る。
以前訪ねた時にざっと見たところだと、敷地や部屋数はうちよりも多そうだった。
あいすがぽつりと、「掃除が大変そう」と呟いていたのを未だに覚えている。
流石に使用人がやるんだろうと思っていたが、何度か訪ねて行っても、それらしき人物には出くわさなかった。
ひーとの姉が、今年の年明けに「掃除が大変だった」とこぼしていたので、もしかしなくても彼らが管理をしているのかもしれない。
……そして我が姉のつぶやきと予想も、全く間違ってなかったと言えるだろう。
話が逸れたが、如何やらどちらもやはりあのだだっ広い屋敷に二人はきついと思っているらしい。
そんな空気の中、二人は暫く沈黙し、揃って俺の方を見る。
雨「……なんで俺を見るんだよ。」
呆れながら言うと、二人はそれぞれ理由を一言で述べた。
炎「だって料理上手いじゃん。コック的な。」
雪「なんかぁ、一番暇そう。」
……俺はお前等の召使いか何かか。
つか俺どれだけ暇人だと思われてるんだ?
不安になってきたんだが。
というよりもお前ら、自分たちの作る飯が壊滅的だってちゃんと自覚してたんだな。
氷「ふふっ、時雨だけじゃフォローしきれない料理コンビね。」
あいす……、笑いながら言ってやるな……。
この二人の料理の不味さに関しては、また話す機会もあるかもしれないが、掻い摘んで言うと、小雪の方はまだ普通に不味いだけのものを生み出すだけかわいい。
問題はひーとの方で、その愛くるしい言動と姿に似合わず、「どんな料理でも激辛にする」という特技を持つ。
その辛さは通常の比ではなく、彼の友人をして「地獄」と言わしめるレベルの代物だ。
……俺も一度食したことがあるが、あれは常人の食べるようなものではない。
雪「そーゆーこと言うんなら、あいすも来ればいいじゃない。」
氷「あら、私は始めからそういうつもりだったわ?時雨の保護者ですもの。」
むっと口をとがらせる小雪に向かって、あいすは尚も微笑む。
って、いつからお前は俺の保護者になったんだよ…。
というか俺、行くって言ってないんだが。
雪「いいじゃないですかぁー。ねっ!いいでしょ?保護者さん。」
氷「私はいいと思うわ♪」
小雪が猫なで声で、あいすはにっこりとしながら言った。
俺の意思はスルーか。
そしていつの間にか保護者で定着してやがる。
これで普段、あいすが首を突っ込んだ厄介ごとに関する尻拭いしてるのは俺なわけだから、些か不服だ。
保護者を名乗るんなら、もう少し大人しくしてほしい。
炎「冷音は無言で来てくれるよね〜!」
冷「えっ、何が……?」
高めのテンションを保ったまま、ひーとが冷音に歩み寄った。
当の冷音は考え事でもしていたのか話を聞いていなかったらしく、キョトンとしながら聞き返す。
炎「ボクん家に泊まるの〜!!ねっ、いいでしょ?」
冷「……お泊まり……。」
冷音が少し考え込む。
まあ急に言われても困るのでは……。
炎「ねぇー、いいっしょー?」
尚も粘るひーとに冷音が折れた。
冷「……わかった……泊まる……。」
炎「わーい!!」
冷音が来ることが決まり、ひーとがはしゃいでくるくると踊り出した。
……踊るほど嬉しかったのか……。
というよりよく一存で決められたな…いや、インターホンを押しても誰も出なかったところを鑑みるに、もしかして親父さん、今日は不在だったんだろうか?
雪「そうそう、桃花は平気?」
桃「うーん……ビスカス、どう思う?」
ビ「大丈夫ですよ〜。」
小雪がにっこりしながら、すぐ後ろにいた桃花に訊いた。桃花は、ビスカスから了承をもらい、大きく頷くと小雪に答える。
桃「うん、大丈夫みたい。」
そう結論が出ると、ひーとが元気に宣言する。
炎「よーし、じゃあボクん家で、お泊まり会の開催だー!!」
* * *
-火鳴邸-
炎「みんないらっしゃーい!!」
さっきもちらりと紹介したが、ひーとの家…火鳴邸は教会のある丘の下にある区、所謂二丁目と表記される区画の端にある、コノ字型で三階建ての、赤い屋根が特徴的な建物だ。(因みに俺とあいすの実家も二丁目なので近い。そしてさっき訪問した桃花の家は一丁目の端である。)
位置的には冷音の家の正面であり、確か初等部時代は一緒に登校してたっけな…。今は寮の部屋が一緒なので、ほぼ四六時中一緒にいるだろうけど。
玄関側…いわゆる通り側の方には、ちょっとした茶会でも楽しめそうな広さの庭があり、街の外に面した方には、大勢でバーベキューしても差し支えなさそうな広さの庭がある。…庭尽くしだな、そりゃあ掃除と管理が大変だとか嘆くわけだ。
…っていうか、何度見ても広い家だな……。
まず玄関に入るなり視界に入ったのは、横五メートル程はある大きな階段だ。
そこから二階、三階とフロアがあり、上を見上げる限りではずらりと部屋が並んでいた。天井には巨大なシャンデリアが吊るしてあり、うちにあるものよりでかい。俺達の家や桃花の家と違い、靴は脱がずにそのまま上がるらしい。流石に客間と応接間はスリッパらしいが…。
因みに、俺達の家…水森邸が靴を脱ぐ和様式なのは、砂がついてくると掃除が大変になりがちだからであり、まぁ、ルミナス王国の民家の様式がそもそもそういう文化であることも要因の一つだ。出身は北国だと聞いている冷音の家も、俺達と似たような理由で土足厳禁となっている。なんでも、精密機器に砂が入ると大変なんだとか…冷音の兄貴が言ってたな。
……このシステムの違い、屋敷というよりはホテルや旅館と言った方が妥当かもしれない。…部屋使い切れてんのか?これ。いや使いきれてないから俺達を泊めても問題ないのか…?
それにしても、今は夜中の11時過ぎだと言うのに、ひーとはえらくテンションが高い。
そんなにみんなで泊まるのが嬉しいのか?
雪「ひーちゃんひーちゃん!!リビングどこ?」
小雪が目をキラキラさせながらひーとに訊いている。
炎「リビング?こっちこっち〜♪」
ひーとはにこにこしながら広いロビーを抜け、階段の裏手にあるらしいリビングへと案内してくれた。
* * *
案内されたリビングは、二間に分かれており、とても解放感があった。
上にはやはりシャンデリアが吊るしてある。
だがロビーほどの大きさではなく、うちにあるような、三つほど蛍光灯をさして使うタイプの小さいものが三つだった。
うちの物との違いは、やはり電気で動いているところだろう。
(ひーとのところは自家発電らしいが。)
そのシャンデリアの下には、十人ほど座れる長テーブルが二つほど縦に並んでいる。その様相はまるで貴族の屋敷にあるような食事場だ。
手前の方の部屋にはキッチンへ繋がる扉があり、奥の部屋には大きなテレビがあった。
なるほど、どれもこれも、敷物から棚の上の小物に至るまで、全て質がいい。
うちは確かに商家で金はあるが、それなりに抑えた生活をしているため、ここまでど派手な金の使い方はしていない。故に少し眩しい気分だ。
炎「じゃあ、二人一組でペアになって〜!!好きな部屋、使っていいからね♪因みにボクはー……冷音だよ!!」
部屋の豪華さに圧倒されていると、ひーとがなにやらしきり始め、冷音に抱きついた。
冷音は疲れてしまったらしく、ウトウトとしている。
って…二人一組かよ……。
一人じゃ駄目か……?
炎「時雨?ダメだよ!一人で使おうとしちゃ!!"二人一組で"だよっ!!」
ひーと……かっと目を見開いて言うな。
てか自分で「カッ!!」って言っちゃってるし。
なんだ?早くも深夜テンションか?
……いや、こいつはいつもこんなテンションだったわ……
雪「時雨さぁーん。ユキとぉ、一夜を共にしませんかぁ?」
早速小雪がすりよって来た。
……こいつ酔っぱらってんじゃねぇか?と思うぐらいのぶりっこで。
桃「小雪、時雨君が冷たい目をしてるよ?」
桃花が小雪を本当にあきれた目で見ながら言った。
雪「……ちっ……。じゃあユキ、桃花とでいいや。」
……なんか小雪の暗黒面的なものが見えた気がしたが気にしないでおこう。
……ん?
つーことは……。
氷「私は時雨と一緒ね♪」
……やっぱりそうなるのか……。
まあ俺も特に文句はないが……。
というかあいす、お前楽しそうだな……。
そうこう言っているうちに、俺達はそれぞれ就寝した。
これから厄介事が起こる事も知らずに……。
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