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-午前2時-
二階の通り側に面した部屋を間借りした俺とあいすが、『ドオォン……』と大地を揺らすような激突音とも爆発音とも付かない音を捉えたのは、それぐらいの時間だっただろうか。

雨「……なんの音だ?」

驚いて飛び起き、外の爆発音の方に神経を傾けながら、誰に言ったでもなく訊いた。
音の大きさからして、街の中ではなく外から…それも少し遠い場所からであることが伺えそうだが…。
あのタイプの音といえば、花火か雷の音を連想するが、こんな深夜に花火を打ち上げるわけもないし…。

氷「わからないわ……、何かが爆発したような音だったけれど……。少し遠いわね。」

備え付けの机で何か書き物をしていたらしいあいすが、その問いに答えた。
あいすも大体俺と似たような見解のようだ。
一応…窓際に近い俺がカーテンを開けて確認してみる。
けれど、空が少し曇って見える以外、特に収穫はなかった。俺達が今いる部屋は二階とはいえ、街の通り側の部屋であるため、街の外は確認しづらい。そして、離れている上に流石に室内ということもあって、爆発の位置まではわからなかった。
誰かしか身内の中で、大体の位置が分かりそうなやつでもいればよかったんだけどな…。

雨「…とりあえず、リビングに降りてみるか。」

氷「……そうね。」

考えていても埒が明かない。
あいすが頷き、俺達はリビングに降りることになった。

* * *

リビングには、俺たち以外(ひーとも除く。)
全員が勢揃いしていた。
どうやら全員、さっきの爆発音(?)で目が覚めたらしい。
……ん?
何でひーとがいないんだ?

雨「冷音、ひーとはどこ行った?」

冷「外は……どうなってるんだろうって……バルコニーで……ワクワクしながら……双眼鏡……覗いてるよ……?」

ひーとと同室だった冷音は、まだ眠たいらしく、うつらうつらしながら答えた。
まぁ時間も時間だからな…。正直冷音は、俺と違って基本的に規則正しい生活を送っているはずなので、この時間には確実に眠たいだろう。
ってかひーと…こんなときでもワクワクするなんて、あいつもう中等部も二年生だろ……行動が初等部生並みなんだが?
……まったく……。

炎「みんなー!!こっち来てー!!」

上からひーとの声が降ってきた。
三階の、ガラス張りで外がよく見える扉から顔だけ覗かせて、大きく手を降っている。
……あそこがバルコニーなんだな…。
という訳で、ひーとの呼びかけに応え、俺達はこぞってバルコニーに向かった。

-バルコニーにて-

雨「……!!!?」

バルコニーに入ってまず始めに目に入ったのは、レクライア学園上空に立ち込めるワインレッドを少し暗くしたような色の黒雲。
おどろおどろしいという表現がぴったり合う光景だった。
レクライア学園は、いくらこの街から近いとはいえ、かなり距離がある筈だ……。
それなのにあれだけ大きな黒雲が見えるとなると相当でかいということが分かる。
レクライア学園の中央部分から、黒い煙が上がっているから、常識的に考える限りでは、大きな雷が落ちた……というのが普通だろう。
となると、さっきの爆発音はあれが原因ということになるのだが……。

炎「ねっ!!凄いでしょ!!?」

…この状況で目を輝かせるな。
そうひーとにツッコミを入れたくなるが、それどころでもない。
それにしても奇妙なのは、あの黒い雲がレクライアの上空にしかないところだ。確かに距離があるといえど、この辺に雲が流れてきていないのはおかしいし、そこら一帯以外の雲はほとんど姿を消している。自然発生したというよりも、どちらかといえば…レクライア学園の上空にピンポイントで発生したか、レクライア自体から雲が湧き上がったとしか思えなかった。…いや、でもどうしたらそんな状態になるんだ…?
考える俺を尻目に、ひーとはさらに目を輝かせながら、双眼鏡に視線を戻す。

雪「ちょっとぉ……、ひーちゃんだけ双眼鏡覗いてたら、ユキ達わかんないんだけどー……。」

小雪がそんなひーとに不満を漏らした。
するとひーとは双眼鏡からまた目を離すと、こちら側に向かって自慢げに微笑んだ。

炎「そー言われると思ってぇー……、双眼鏡全員分用意してみたよ!!」

ひーとは自分で"ジャジャーン♪"とか言いながら、側にあった小さくて丸いテーブルの上のナフキンをザッと勢いよく剥いだ。
見ると、確かに人数分の双眼鏡が山積みになっている。
……ってか……よくこんなにあったな……双眼鏡……。
まあとりあえず、借りておくか。
一人一つずつ双眼鏡を借り、それぞれ双眼鏡を覗いた。
すると、レクライア学園上空に何か黒っぽいものが浮かんでいる事がわかった。

桃「な、何か浮いてる……?」

雨「あぁ、浮いてるな……。」

桃花が何気無く言った一言に俺は頷いた。
玉のようにも見えるし、何か生物のようにも見える。
一体なんだあれは……。

炎「ちょっ、あれいま光ったよ!?」

光った……?
俺はとりあえず目の前の"もの"を見るために意識を集中した。
確かに二度三度点滅している。
そして、その玉のような"もの"は紫色に光る光線を一閃放った。
またも『ドゴォォン……』と先程よりも大きめの音がし、地面が揺れる。
レクライア学園の辺りは砂が巻き上がっているのか、煙が酷くて見ることができなかった。
爆風はこちらの方まで届き、ゴウッと音をたて、凄い勢いで俺たちの間を吹き抜けていった。
後ろのガラス張りの扉がビリビリと震えている。

炎「うわぁー……ビックリしたぁ……。」

ひーとは首をふるふる振り、目を丸くしながら驚いた。そうだ……怪我人は居ないだろうか……。

雨「誰も怪我とか無いか?」

氷「……大丈夫よ。」

雪「大丈夫ですよー!!みんな無事ですー!!」

俺が訊くと、あいすはごく冷静に、小雪は明るく元気に言った。
……確かに……怪我人は居なそうだな、安心した。

雪「うっわ、最悪……。髪の毛が砂でバッサバサ。ひーちゃん、お風呂借りていい?」

小雪……お前二重人格とかじゃないよな……。
さっきと今の変わりようが酷いんだが……。

炎「あ、うん、いいよ♪」

ひーとはそんな小雪にも怖じけず、にこにこしながら答えた。

氷「私もいいかしら?」

桃「あ、私も!」

炎「うん!いいよいいよー!」

それに続いて、あいす、桃花も入ると言い出した。
……女子って面倒くせぇ……。
つか今、真夜中の2時なんだが?

氷「ふふふ、女の子の入浴時間に夜中なんて関係ないのよ。」

あいすがそう言って笑う。
はいはい、そーですかそーでした。
よく考えたら普通にあいすは、入りたいときに入るタイプだった。
夜中に一回鉢合わせしたことがある。
……無言で見なかったことにしたが。

氷「あぁ、そうだわ!」

部屋に戻ろうとした俺の後ろで、何か思いつきでもしたような(否、思いついたんであろう)あいすが一声上げる。
……なんだよ、いきなりでかい声出して……。

氷「明日は、レクライア学園に行ってみましょ?」

また唐突だな……。
つかレクライアに行くのか……あんな爆発みたいなのが起きたばっかりなのに?
まさか野次馬根性的な動機じゃないだろうな……?

氷「それもあるけれど……寮とかがどれくらいの被害を受けてるか見ておかないと……。
それにあの爆発の原因がなんなのか、知っておいて損はないと思うの。」

野次馬的な理由も込みなのは置いておいて……、まぁまぁ正当な理由ではあるか……各云う俺も、爆発の原因には興味がないわけじゃ無い。
なるべく近寄らない方がいいような気もしてはいるが……。

雨「……仕方ない……行ってみるか、とりあえず。」

俺はあいすの提案に賛同した。
他のやつらも異論は無いようだ。
振り向いてもう一度レクライアの方を見ると、黒い雲が少しずつ姿を消し始めているところだった。
どうにか収まったらしい。
…まぁ…あれだけの砂煙だ……、寮や学部棟が原型とどめてるとは思えないけどな……。
秋休み期間だったことがせめてもの救い…か。






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