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-次の朝・午前8時30分-
俺達は、昨日話していた通り、レクライア学園へと向かった。
だが、そこに見慣れた校舎は無く、大学院から初等部迄の建物が全て瓦礫の山と化していた……。
しかし、一番奥に位置している職員棟だけは無事……とは言いがたいが原型をとどめている。

あいすが一番気にしていた中・高等部の寮は、何故か瓦礫すらなかった。
倒壊したというより、建物ごと姿を消したといったほうがいいような……その土台も基礎も、どこにも存在しなくなっていたのだ。
他の建物の方はかなりの量の瓦礫が転がっている以上、あの寮だけ跡形もなく消し去られたというのは考えられない。…………まさか……誰かが建物ごと転移させた?
それくらいできてもおかしくなさそうな人物なら2人ほど該当するが……まさかな……。
いや、あの管理人二人なら、やってもおかしくは無いような気もするが……。

?「うおっ……物凄いことになっとるなぁ……。」

倒壊してほとんど原型のない中等部の前で呆然と立ち尽くしていると、どこかで聞いたことのある、グラヴィダ訛りの女子の声が聴こえてきた。
直後、右後ろ辺りの瓦礫の裏から、銀色の髪を前下がりのカットにし、頭には銀と薄い青色の石を施した髪飾りを付けている女子、俺達の同級生である銀陽 狐が姿を現した。
……となると、彼女の場合はオリジンサン訛りが正しいか。

桃「あ、きぃちゃん!!」

桃花が声をあげた。

狐「おぉ!!皆こんなとこで何しとるん?」

狐は、驚いた顔をして訊いてきた。
此方としては、彼女がここら辺をぶらついていることの方が驚きなんだが……。

雨「……お前こそ何してんだよ。」

狐「オレは……、ちょいと気になってな。」

狐は少し気恥ずかしげに頬を掻きながら言った。
恥ずかしがるところなのか?そこ……。
…そうそう、彼女のことを多少掻い摘んで紹介すると、彼女はこの地上世界の南央に位置する砂漠の大陸に存在する王国、オリジンサン王国の国王陛下の第一息女であらせられる。
そう、つまりはマジのお姫様である。
ただ、彼女自身はそういう扱いをされることを嫌う傾向にあり、ゴールドグレードに住む著名格闘家、銀陽氏の邸宅に預けられる形で生活していることもあって、俺達からの接し方は、このように軽めだ。
普段は長身の幼馴染、真と行動を共にしており、基本的には二人一緒にいることが多いんだが……。
そういえば、今気がついたが今回は真が居ない。

雨「……真は一緒じゃ無いのか?」

狐「真?あれ?さっきまで一緒に居ったんに……。」

訊いてみると、狐は辺りを見回しながらそう言った。
……見失ったのか……。
ふと、狐が出てきた辺りの瓦礫を見ると、手前の瓦礫が"ガタッ"っと音をたてて、少し動いた。
…………動いた?

?「ううぅ……。」

……なんか呻き声まで聴こえてきたし……。
……よく見ると瓦礫の下に黒い服を着た人の手が見えている。
……って、あれ、もしかして真か?

狐「真!?何で瓦礫の下敷きになっとるん!?」

狐もあれに気が付いたようだ。
すっとんきょうな声をあげて真に駆け寄っていく。

真「うぅ……これには訳があって…。」

真は完全に涙ぐんでいる。

真「狐と一緒に、来たら、走ってっちゃったから、追いかけようと、思って、走ったら、こんな、ことに……。」

涙を我慢しているのか苦しいのかはわからないが、内容が途切れ途切れなため意味がわからない。
まあ、要約すると、学園に来るなり走っていった狐を追いかけようと自分も走ったら瓦礫が降ってきて埋まった。
ということらしい。
これも彼の不幸体質の影響なんだろうか。
つか瓦礫が崩れ落ちてきたら普通は命を落とすもんだが……、ある意味運いいわ、こいつ。
余談ながら、少し前に俺が言ったであろう、“近所の寺に住む友人”とは彼のことである。
今…というか普段はこんな感じだが、戦闘やそういう怪奇現象の解消、はたまた肝試し会場のお祓いなどでは、とても頼りになる。
寺に住む理由は俺も詳しくは知らない。
身内で一番デリカシーの無い奴が訊いているのを見たことがあるが、本人ははぐらかすだけだった。
…まぁ、恐らくは言いたくないんだろう。
普段心配になるくらいにおどおどしている彼が話さないのだから、無理に聞き出す必要もないし。
とりあえず、真の上に乗った瓦礫を全て退かし、真を引っ張り出す。

真「ありがとう……。」

真は恥ずかしそうにお礼をいい、若干俯いた。
その時だった。

?「アーッハッハッハ!!!!」

頭上から、女性の高笑いが聴こえてきた。
と言うか、この状況下で高笑いしてるなんて非常識極まりないな。
そしてうるさい。
一体誰だ……。

その高笑いが聴こえた辺りに目をやると、そこには、紫色の髪に赤い瞳をした女性が立っていた……いや、正しくは浮いていた、といった方がいいだろう。
その女性は、胸元がバックリ開いた紫色のドレスに青い線で縁取られた長めのローブを着ている。
背中にはよくあるフィクション物に登場する悪魔を彷彿とさせるような黒い翼があり、先程浮いているといったが、あれを見る限りでは飛んでいると言った方が正しかったかも知れない。

氷「あれは、理事長じゃないかしら。」

理事長?
…言われてみれば、髪の色は違うが、顔立ちが似ている。
だがこの異様な気配は何だ…。

冷「……あの人の持ってる珠、何だか嫌な感じ…。」

冷音の言った通り、女性の右手の上には、紫色とも黒とも付かない色をした珠が浮かんでいる。

?「私は力を手に入れたのだ!!誰でも屈服させられる力を!!」

なるほど、声もやはり理事長の物だ。
しかしその笑顔からは狂気に似たものを感じる。
理事長はこちらを見つけると、勢いよくこちらを差してこう言った。

理事「つまり!今の私に敵はないのだ!掛かって来たいのなら教員棟まで来るがいい!!ザコ共!!!!」

そして理事長はまた高笑いをして、教員棟まで飛んでいった。
俺にはやはり、狂気じみたものしか感じられなかった。
……にしても安い挑発だ。
というか何故こちらを見るなりそんな発言をなさったのか。
攻めに来たとでも勘違いしたのか?

狐「……ザコかぁ、そんなん言われたら、行くしかないやん……。」

狐がその安い挑発に闘志を燃やしてニヤリと笑った。
出来れば面倒事は避けたかったんだが……。
……ま、あれをあのままにしておいてもそれはそれで困りそうだし、……行くか……。




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