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* * *

雨「シュトゥルムソード!」

風のフォルトで出来上がった剣が、宙を舞って理事長に斬りかかる。
前に使った時よりも威力を上げたんだが、まあ流石にあの結界を削りきるのは無理だな……。

炎「イグニスグローブ!!」

ひーとは今のところ手数の多い術を持っていなかったらしく、詠唱の短い初級の焔術を威嚇射撃のようにしながら攻撃の目を自分に向けていた。
ってお前俺そこまで言ってないんだが……大怪我だけはしてくれるなよ……?

氷「水よ、弾けなさい!!スプラッシュ!!」

あいすも負けじと、上から大きめの水の弾を落下させ、衝突とともに弾ける水術を放つ。
これも割と当たり数が多い術だ。
そして初級術の割に殺傷力も高い。

冷「空間を漂いし氷のフォルトよ……、雹雪となりて宙を踊れ。アイシクルガスト!」

続いて、冷音が放った氷の粒が渦になって理事長に襲いかかった。
理事長を飲み込んだ氷の竜巻が、彼女の装甲を削いでいく。
こおり属性の中級術だが、此方も以前、彼が何かの演習の時に使っていた。
そしてその時よりも、見た感じで威力が上がっているのがわかる。
彼の術に対する向き合い方は割と感服する所だ。
俺も見習わないとな……。

理事「ぐあああっ!!」

氷の渦が消えると、理事長が大きく崩れた。
結界は見事に割れたようだ。
そこを狙って、理事長の後ろ側についていた真が飛び上がる。
さらにそれを好機と取った狐が、横を抜けて行った。

狐「うおらああ目え覚ませぇぇ!!!!!!」

そんな雄叫びのような声と共に、彼女は綺麗な右ストレートを理事長の顔めがけて繰り出す。
防御が崩れた理事長には避け切れるはずもなく、見事にクリーンヒット。
続いて真が球体を蹴り飛ばすが、意外に硬かったらしく、破壊には至らなかった。
しかし流石のコントロール力で、黒紫色の球体は思いっきり床に叩き付けられて、此方に転がってきた。
……罅は入っているが、やっぱり砕けなかったか。
殴りつけられて空中から地面に落ちた理事長は、狐によってうつ伏せに組み敷かれながらも、邪悪に笑う。

理事「くくく……まだだ、その珠がある限り私は最強……。」

まったく、こんな顔、理事長の姪である俺達の同級生が見たらどう思うんだろうな。
まあ彼女の事だから、さらっと軽く流して終わりかもしれないが。
…しかし…この珠があるかぎり……か。
つーことは、やっぱり珠を割れば、もとに戻るわけだ。
小雪の推察が大当たりだな。
俺はそう心の中で思うと、足元に転がる球体に刀を垂直に当て、思い切り降り下ろした。

バリン!!といい音がし珠は砕け散った。
理事長からガクンと力が抜け、シュルシュルと黒紫色の煙が上がる。彼女の髪が紫から染めた茶色い髪に戻った。
服も、紫からいつもの白い服に変わった。
…また黒い煙か……。

狐「ふぅ……どうにか元に戻ったみたいやな。」

狐が拘束の体勢を解いて息を吐く。

真「終わったね……。あいててて……それにしても、さっきはどこから鉄パイプが……」

着地して歩いてきた真は、今更ながら鉄パイプが直撃したところを抑えている。
まあ、そこは甚だ疑問だな。
ここは屋上なわけだから、上は何もない空だ。
一体どこから……?

まあ、無事に理事長も元に戻ったし、気にしないことにするか……。
……理事長伸びてるけど。

炎「うーん、大変だった……こんなことになるなんて……もう疲れちゃったなぁ……。
あ、ねぇねぇ、これからどうする?もうやること無いよね。」

ひーとが訊いてきた。
まあ確かにやることはないな……。
とりあえず、理事長が起きるのを待ってみることにするか。

* * *

理事「これを……私が……?なんてことなの……。」

数分して、目覚めた理事長は、自分の仕出かした事を覚えておらず、目の前の惨状に呆然と立ち尽くしていた。
そして、数分俯くとバッと前を向いて、声を張り上げた。

理事「……こ、こうなってしまったことは仕方がないわ!!さぁ、これから人を集めて学園建て直しよ!!前よりも豪華に建てちゃうんだから!!」

と意気込んでいた。
その背中にはメラメラと焔のように闘志が燃え上がっていた。
そして俺たちは、そんな理事長のもとを後にして、住んでいる街、ゴールドグレードに向かっている。
ああ、そうそう、理事長にあの球体の話について訊いては見たんだが、理事長は自分のしでかしたことと同じように、ほとんど覚えていなかった。
ただ、どこかから押収したとかなんとかぼそぼそ呟いていたような……。
誰か不良生徒でも持っていたんだろうか?それとも先公の中に?
……いや、まさかな……。

炎「みんなこれからどうする〜?」

ふと、ひーとがニコニコしながら訊いた。

桃「私は、一回家に戻ろうかな父さんも出張から帰ってくる頃だし……心配してそうだし……。」

桃花が困り顔でそう言うと、ひーとは次に俺達に振った。

炎「時雨達は?」

雨「…お前は?」

俺は聞き返した。

炎「うーん……。ボクも、一回家に戻ろうかなぁ。寂しいけど。」

そっか、こいつ、家で一人なんだっけ。
ひーとはまた、お前らは?みたいな顔をした。

雨「俺達も、とりあえず家に戻るわ。魔物の荒らした部屋の片付けしなきゃなんねぇし。」

炎「ふーん、……そっか。」

……なんだよその寂しそうな反応。

狐「じゃあ、全員自分家帰るってことでええんやな?」

狐が元気に叫んだ。
まぁ、みんな異論はねぇみたいだけどな。

雨「……小雪は、大丈夫なのか?」

俺がそう問うと、小雪は笑いながら答えた。

雪「だ、大丈夫ですよーぅ、親の荷物整理してたら、へそくりとか出てくるかも〜……なーんて。」

そう言ってのけたが、何だか笑顔が固かった。

雨「無理はすんなよ?」

自然に言葉が出た。
すると小雪は、

雪「大丈夫ですってばぁ!!」

と、また笑った。
大丈夫そうには見えない気がするんだが……まあ、あまり深く踏み込んでもよくないだろう。
……それにしても、ほんとにあの黒い霧や黒い煙、そして黒紫の水晶玉のようなあれは何だったんだ……?
いくら考えても謎は尽きない。
ともかく、昨日今日と疲れた。
今は帰って休もう。





──これが言うなれば、俺達の最初の冒険だったのかもしれない……──









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