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-牢屋の奥にて-

子供の泣き声……否、喚き声が聴こえてきた方向へ足を向けると、大きな鉄格子いや、檻にぶつかった。
その大きな檻の中には、巨大な何かの装置と3mはあるであろうシリンダーが目に入った。
確か培養槽とかいうやつだっただろうか。
とりあえず遠巻きから確認したところ、中には何も入っておらず、使用されたような形跡はない。
正直言ってこんなもの、どこぞの研究所とかそういうところにしかないと思っていた。
まあ何にせよ、牢の中にあんなものが設置されているのはおかしな話だな。
それと、こんなとこに子供が捕まっているなんて言うと、なんとなく悪い想像が尽きない。
そしてその周囲には……さっきの泣き声の要因ぽい子供達が二・三十人は捕まっている。
何人かすすり泣いてはいるが、怪我とかもそんなになさそうだ。
とりあえず俺の中の悪い想像に起因するようなボロボロ感もないし、あの感じはやっぱり今日連れてこられた様子で間違いないだろう。
すぐにでも行って助け出したいところだが、見張りらしき黒騎士がいるため、俺達は曲がり角を盾にして身を隠す。
そうした途端、泣き喚いている子供を頭ごなしに怒鳴りつける声が聞こえる。
冷音が体をびくりと震わせた。
…そういやお前デカい音とかこういう声とか駄目だったな……。
とりあえず冷音の頭を軽く撫でると、彼はなんとなく申し訳なさそうに笑って、こくりと頷いた。
……なんか調子が悪そうな感じがする。
早めに終わらせなくては。
そう思いつつ、曲がり角の向こう側を警戒するあいすに声をかける。

雨「……例の奴がいるな、どうする?」

氷「……勿論、子供たちを助けるに決まっているわ。」

"当たり前でしょう?"と笑うように言ったあいすだが目が笑っていない。
さっきも言った通り、あいすは悪人や馬鹿は嫌いだ。
つまり、良く言えば正義感が強いと言えるだろう。
……そのお陰で面倒事に巻き込まれるんだが。
……まぁ、かくいう俺もこういう輩は許すことができないから、人の事は言えねぇんだけど。

雨「……助け出すのは当たり前だが、あの兵士をどうするんだって訊いてんだ。」

俺一人であれば、強行突破も有りだが、二人……特に体が弱い冷音に無理はさせられない。
だから二人に意見を求めたのだが……。

氷「強行突破でいいんじゃないかしら。」

あいすからはそう答えが帰ってきた……。
はぁ……はいはい、お前に訊いた俺が馬鹿だったよ。
……冷音は……、ん?
……さっきよりさらに顔色が悪い。
加えて、檻の方を見てボーッとしている。

雨「冷音?大丈夫か?」

声を掛けてみると、冷音はビクッと肩を震わせた。

冷「……大丈夫……。何でもないから……。」

そうして彼は首を振る。

雨「……具合悪くなったら言えよ?」

そう言うと冷音は無言で頷いたが……駄目だな、どうにも大丈夫そうには見えない。
さっきのように笑う余裕も消え失せているような……。

兵4「誰かいるのか?」

…げっ…気付かれたか……。
念のためと刀を空中から出しておく。
が、それより早く、冷音が手を前にかざして、向かってくる黒騎士に一発何かを当てた。
それが何か、俺には特定出来なかったが、黒騎士は固まって動かない。
……時間でも停めたのか?

冷「……違うよ。ただ、体の中の水分を凍らせる術式を使って、感覚や細胞を眠らせただけ。」

"時を止めるのは危険だから……。"と冷音は続けたが、俺にはどちらも危険な気がした。
つかちゃんと心臓動いてんのか?こいつ……。
というか中身は魔物なんじゃ無かったか?だったら斬っても……。

冷「……この人は、人間だよ。でも、外の人たちは、魔物ばかりだった。
それと、入り口の女の人も人間だった。」

冷音は檻の中の培養槽をまじまじと見つめながら、俺の疑問に答えてくれた。
あいすはといえば、捕まっていた子供を外に逃がすため、奪った鍵を使って牢の開錠をしている。
入口のも人間だったのか……死んだりしてないといいんだが……。

氷「大丈夫よ、ちゃんと脳震盪程度にとどめたもの。ね、冷音。」

冷「う、うん……」

此方を見て笑いかけるあいすに、目を逸らす冷音。
…この感じ、あいすの奴冷音に殴らせたな……。
……それにしてもあの培養槽…あんなでかいものそうそうないはずだが…。
いったい何に使うんだ…?

氷「さぁ、今のうちよ。」

あいすが微笑みながら言うと、子供たちはギャーギャーワーワー騒ぎながら牢を出た。
子供達の中には、逃げながらお礼を言っていく奴、丁寧にお辞儀をしていく奴と、多種多様ではあったが、礼を言っていく奴は少ないとは言えなかった。
……少し心がほっこりした。

雨「……ところで冷音。さっきの黒騎士だが、どれくらい停まってるんだ?」

冷「……うーん、放っておいた場合なら、全部溶けるのに30分ぐらい……だと思う。」

ふと気になったことを聞いてみると、想定より長い数字が返ってきた。
30分か……。
本当に大丈夫なんだろうか…まあ、冷音がやったことだから大丈夫だろうとは思うが……。
所謂冷凍保存的な理論なんだろうか。
いや、従来の冷凍保存は大体の場合処理済みの物に対して使うもんだが。
けどあれだけ瞬時に冷凍したんなら、30分程度ならまだ何とかなるのか?

冷「……えっと、逃げる時に解凍の術式貼っていくから大丈夫だよ?」

解凍の術式があるなら……まあ大丈夫か。
何にせよ鎧とかが水浸しになりそうだが……そこはご愁傷様と言ったところだな。

氷「さあ皆、外に出ましょう。」

あいすが子供たちを纏めて廊下を歩きはじめる。
俺達もとりあえず動くか……と思いながら隣にいた冷音を見やると、彼はまだ、檻の中にある培養槽を見つめていた。

雨「…どうした?」

冷「……ううん、なんでもない。」

冷音は目を伏せた。
……何か気が付いたことでもあったんだろうか。
まあ、言わないなら無理に訊いても良くないだろう。

雨「…そうか?ならそろそろ行くぞ。」

冷「…うん」

俺が脱出を促すと、彼は頷いて、俺の後ろに続いた。





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