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-つくづくムカつくな……。-

黒騎士を倒し、俺達は司令官室に入った。しかし中は蛻の空だ。
因みに、床にはワインレッドの絨毯が敷かれており、トロフィーなどが飾られたステンレスの棚はピカピカに磨きあげられていた。
奥には外が一面に見える大きなフロントガラスがあり、その手前には木製の事務机がある。

氷「あら、誰もいないわね。さっきの黒騎士さんが言っていた、ラザフォードと言う人がいると思っていたのだけれど。」

あいすが心底残念そうな顔をしながら言った。
……まぁ、大体はそいつの仕業だろうな。

つか、本当にここ、刑務所だよな。
さっきも考えた気がするが、罪人を収容し罪を悔い改める場所を簡単に渡してしまうってどうなんだ……。
……ある意味潔いというか……いや、潔いとは言わねぇか……。
大体、ここに収容されてたはずの罪人共、一切姿が見えないんだが……何処に行きやがったんだ?

……まさか……全員外に出したりなんてしてないよな…。
……いや、外になんて出てたら、おそらくゴールドグレードの治安が恐ろしく乱れてただろうから、多分外には出てないな……。
まあ、あの黒騎士共がいる時点で治安も何もなさそうな話だが。
けれどそうなると、やはりどこに行ったのかが一番気にかかるところだ。
ここに来るまでに、一通り所内を見たとは思うのだが、囚人っぽい奴の姿すら見なかった。
…黒騎士共が連れて行ったんだろうか?
あの大型の培養槽といい、正直嫌な感じしかしない。
囚人を心配しても仕方ないとは思うんだが……どうにも解せないな。

そう思いつつも辺りを見回していると、冷音が事務机の上に置いてあったらしき書類を見て、なにやら難しい顔をしていた。

雨「……どうした、冷音。」

冷「……。」

……書類を凝視したまま反応がない。

氷「冷音?」

あいすも冷音の異変に気が付いたのか、冷音に呼び掛けた。
すると冷音はビクッと肩を跳ねさせ、少し目を逸らしながら言った。

冷「……え、あ、何でもないよ」

冷音がこういった反応をするときは、大抵何かあるときだ。
現に彼の目は動揺した時と同じように泳いでいる。
今回は、書類を見て硬直していたから、書類に原因があるのだろう。
大方、身内の誰かが関わっているか、それか……。

氷「……これは、叔父様の名前ね……。」

あいすが書類の、執筆者の項目を見て目を伏せる。
……やっぱりか……。
何故こうも嫌なものばかりが当たるんだろう……俺の勘は……。

冷音の親父というのは、俺やあいすの親父の弟で叔父に当たる人物である。
俺達が遊びにいくときには、いつも冷音の家の地下にある研究室に籠っているから、顔すら覚えてねぇけど。

冷音の話では、五年前に自らの妻…冷音達の義母を実験中の事故で殺して以来、その歪んだ愛を形にするべく研究に勤しんでいるらしい。
だが彼の兄が言うに、その叔父とも彼等は血は繋がっていないと言う話だ。
養子という事なのかはよく分からないが、別に両親はいるとの事らしい。
まぁ冷音がそれを知っているかは別としても、父親(仮)が絡んでいるとすれば、彼の心労は半端ではないだろう。

氷「……これは……!?」

今まで書類に目を通していたあいすが悲しいとも怒りとも付かない声をあげた。

雨「どうした。」

氷「……時雨も読んでみれば分かるわ。」


雨「……、…………」

あいすに書類を手渡され、俺は始めに書いてあった書類の題に絶句した。

"サージュの人工的な錬成の仕方についての見解"

こう書いてあったからだ。
あからさまに顔を顰めたのを見て、冷音が俺の顔を見た。
そう不安そうな顔をすんな、今はまだ破り捨てたりとかしないから。

サージュというのは、様々な属性を自在に操る、所謂賢者やビショップなどの事を指すこともあるが、大体は俺達のような"何の修行もしなくても、自然とそれを成せてしまう、魔術を使用できてしまう者達"の総称だ。エルフや天使、亜獣人、魔族などの者たちは大抵持っている能力だが、稀に人間にもそういう奴がいるらしい。
現に、俺の同級生にもそういうやつがいる。

そいつは笑いながらそう話していたが……まぁ、そういうやつは大抵親からも周りからも気味悪がられてしまうらしいな。
いうて……まあ魔術が使えない奴からすれば、俺達みたいな存在は種族なんて関係なく怖いに決まってる訳だが。
……そうだとしても、だ。
錬成とかなんとかっていう物みたいな表現は些かこちらとしても不快感を覚える表現であることは間違いない。

ただまあ、読まないことには何も得られないか。
そう考えて、俺は更に書類を読み進めた。
書類の内容は、次のようなものだった。




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