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"サージュの人工的な錬成の仕方についての見解"

サージュの錬成の仕方においては、まず輝石(きせき)を手に入れることが先決だ。
輝石は、私の所にいるサージュで研究したところ、サージュが死んだ時に現れる核のようなもので、稀に輝石を加工した宝石の中にも、強力なものが混じっているようだ。
この核のようなものを人体や他の物に組み込むと、サージュの様に……否、それ以上の力を発揮させることができる。
人体へ適合する輝石の属性は、適正属性に依存するが、適正属性のない“人間”にはどんな属性でも適合する可能性がある。
しかし、適合率は計算上二割を下回る為、適合率を上げたいのであれば“人間”以外の種族を使用することが肝要となる。
また、媒体とするのは子供の方が良い。
10代前半から後半であれば尚良い。
子供は身体の構成が不確定であるため、力がより早く馴染む。
(中略)
また、人工結晶を人の体に埋め込むことでも、力は発生する。
しかし此方は威力が弱いため、お勧めはできない。
尚、この方法は暴走する可能性が高いので注意が必要である。

……全ては魔王様がために。


   * * *

雨「…………。」

怒りを通り越し、呆れて物も言えなかった。
書類の中で、"輝石は核のようなもの"と言われていたが、実際のところ間違っている。
核ではない。
その人の記憶や心が宿った、人の命そのものだ。
武器作ってドンパチやるのは勝手だが、人の命を何かのエネルギー源のように言うのはやめてほしい。
……というか、だ。
人の身体に輝石を埋め込むだなんてどうかしてるとしか言い様がない。
人を人として見ていない。
聞いただけで寒気がする……。

雨「……っ!?」

急に、キーンと耳鳴りがした。
あまりにも信じられないものを読んだせいなのか、こんな時に頭痛がしてきた。
……さっき殴られた後遺症……だろうか?
目が霞む……。
……そう思ったら次は、何か映像のようなものが見え始めた。
今までいた所長室じゃない。
……何だこれ……いつもの頭痛じゃねぇ……。
暗い部屋……黒い外套……寝台に……注射針……薬品?
記憶を確かめるために目をつむる。
しかしどう記憶を探っても……そのどれにも覚えがない……。
確認を終えて目を開けると、あいすが眉間にシワを寄せていた。
さっきまでいた通りの所長室だ。
頭痛も漸く治まった。
一体何なんだ……。

氷「冷音。この"サージュで研究したところ"のサージュって、誰の事かしら?」

あいすが静かに、それでいて怒りの籠った声色で冷音に尋ねた。
どうやらこっちの異変には気付かなかった様子だ。

冷「……」

冷音は俯いて答えない。

氷「……冷音?」

あいすがその顔を覗き込もうと首をかしげる。
……まさかとは思うが……被験者は……。

冷「…………、……その、まさか……だよ。命を落としたのは、お義母さん。被験者にされたのは……。」

長く沈黙した後、冷音が少し諦めたように頷く。
あいすが驚いた顔をしている。
俺も絶句しているから、そんな顔なんだろう。
何故なら冷音達の義母が亡くなったのは、実験による"事故"であって、故意だったとは聞かされていなかったからだ。
五年前、冷音達の義母が亡くなった時の惨状は、今でも覚えている。
冷音の家からけたたましい非常ベルの音が鳴り響いていて、それなりに近い俺の家にも、それは聞こえてきた。
急いで駆けつけた時には、いつも厳重に閉まっている玄関口が開いていて、爆発でも起きたのかってほどの煙が充満していた。
先日話した、冷音の姉が呪いを受けたのもこの時で、あいつはこの件で暫くの間大きい病院に入院することになって、暫くの間学園にも顔を出さなかった。
冷音の五歳上の兄は、何もしない義父の代わりに死ぬほど駆けずり回っていて、冷音の六歳下の妹は、確か父方の実家の方に帰る羽目になっていた。
最愛の嫁を失った悲しみで病んだ叔父の事を、俺達は少し同情したような眼で見ていたが、それも、事故だと聞いていたからに他ならない。
……なのに……このクソみたいな実験のために、自分で殺したって言うのか?

それから冷音はポツリポツリと、経緯を語り出した。
義父が怖くて、この五年間ずっと嘘を吐き続けていたこと。
義父が「錬金術」に手を出して、人を作る実験を始めたこと。
義母が義父の作ったホムンクルスとやらに殺されたこと。
義父が子攫いを嫌がって、兄弟姉妹で一番魔力が高かった自分をターゲットにしたこと。
義母の輝石を使って、様々な実験に明け暮れたこと。
その中で彼がされたこと。
恐らく全てではないだろうが、少しずつ話をしてくれた。

雨「……そうか……。」

俯く冷音の頭に、俺は手を置き、そっと撫でた。
……冷音の義母が亡くなった後から、彼が何週間も学園に来ないという事が何度かあった。
あの頃の途中……六年次に上がった辺りから一緒に登校していたひーと曰く、迎えにいくと怖いおじさんが出て来て、冷音を休ませるようになったと。
その怖いおじさんと言うのが叔父だとしたら、ここまでの話に繋がりができる。
最近もたまに姿が見えないときがあって、その時は大体このゴールドグレードの家に帰ってたな。
もしかするとその時も……。

雨「……今までよく一人で頑張ったな。けど……、こういうことは言ってくれた方がいいんだ。
わかるか?」

冷「……うん……。」

冷音は俯いたままだが頷いた。
……まぁ、言いづらい部分も有ったのかもしれないが……。
それに確かに、話を聞いたところで何ができるんだと言われれば言葉に詰まる。
けど、うちで匿ってやることくらいは出来た筈だ。
……いや、でもその頃って言うと、冷音自身が感情と感覚を消失していた頃と時期が合致する。
そういや何週間も来なかったのはその少し前だったか。
さっき話した五年前…彼が初等部五年〜六年の時も、思えば何度か感情がないながらも「家に帰りたくない」って言って、俺のいる寮室に泊まりに来てたっけな……。
……言った言葉に後悔した。
結局、気付けなかった俺が悪いな……。

氷「叔父様ったら、そんなことしてたのね……。呆れた……。」

氷が心底嫌そうな顔をした。

冷「……あの人が悪い訳じゃないんだ……、あの人は……。」

少し憐れむように庇い文句を言う冷音。
……彼らが預けられた頃……俺が覚えている限りで一番古い記憶では確かに優しそうではあったが……。
一番最後……それこそ二年くらい前、中等部の入学式で見たあの人の顔は……窶れて顔色も悪くて、目の焦点も合ってるか怪しいような……それでいて何かに"動かされている"ような感じだった。
……酷い目に遭っても庇うのは、冷音の優しさ故なのかもしれない。
けど……辛さや痛みを耐えてまで、危害を加えてくる人を庇うのは……冷音の精神衛生的によろしくないだろう。
このままだとまた壊れてしまう。

雨「冷音、確かにあの人は悪くないのかもしれない。お前があの人にどれだけ恩があるかもわからない。だから庇うなとは言わない。でも俺は、庇うだけが救いだとは思わない。ああなった原因があるんなら尚更だ。
……俺が最後に見たときのあの人は、何かに憑かれてる様にすら見えた。その辺はどうなんだ?」

俺は言い、問う。
彼は口を噤んだ。

否定も肯定もしないってことは、あのおっさんはあの野郎に毒されたって事か。
それなら冷音がおっさんの所為じゃないって言うのと、書類の最後に記してあった一文、叔父があんな様子だったことにも納得がいく。
あの野郎とは一応言っておくが魔王の事だ。

氷「冷音、叔父様は、いつから魔王に荷担していたの?」

冷「……五年前……。お義母さんが殺される前……。急に研究室に籠るようになったと思ったら……。」

その先は、声にならなかったようだ。

雨「……取り敢えず、ここから出るか。誰もいないなら、もう此処には用はないだろ。」

氷「……そう、ね。」

氷が悲しそうな顔をしながら部屋を出た。

冷「……。」

冷音は俯いたまま其処を離れようとしない。

ドアノブに手を掛け、少しだけ後ろを振り向いた。

雨「……。冷音、辛いことを思い出させて、悪かったな。」

冷「……大丈夫。……気にしなくて、平気。」

雨「……そうか。」

その答えを聞いて、少し安心したと共に、ふと確かめたいことが過った。

雨「……なぁ、暗い部屋とか……黒い外套とか……注射針とか……覚え……ないか?」

冷「……?注射針……は、あるけど……他は知らない……よ?」

……どうやら冷音の記憶とかでは無いようだ。
今確かめたのは、さっき頭痛の時に見えた映像のことだ。
友人に記憶を読める奴がいるのを思い出したから、その類いなのかもしれないと思い、流れから有り得そうな冷音に聞いては見たが、どうやらミスリードだったようだ。
これはサイコメトリ的な類いではない。
なら誰の記憶……何の映像なのだろうか……?
……今考えても仕方ないか。

雨「……そうか、悪かったな。妙なこと訊いて。それじゃ、行くぞ。」

そう言って俺は扉を開けた。




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