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   * * *

あいすの言った通り、裏口付近には例の黒騎士は居なかった。
細い路地の向こうを道すがらに見ると、やはり黒騎士がズラリと並んでいた。
……いくら中身が魔物とかだとはいえ、よくこれだけ集めたものだと感心してしまう。
逆に、中身が魔物やらだと言うことに重点を置いてしまうと、世も末だと思ってしまうわけで。

炎「ねぇ〜。早く行こうよ……見つかっちゃうよ。」

ひーとが急かすように口を開いた。
そうだな、考えてても仕方ねぇし、さっさと行くか。


−その辺を逃げ回る−

……行くっつってもどこにいけば安全なのか、全く定かじゃなかった。
でもまぁ、黒騎士に見つかると不味いから、黒騎士から逃げるような形で街を逃げ回っている。

?「桜花蓮舞オウカレンブ!!」

ふと、聞いたことのある声が、技名のようなものを叫ぶのが聞こえてきた。

氷「あれは、桃花ちゃんと狐ちゃんじゃないかしら。」

……本当だ。ビスカスまで戦っているようだ。
どうやら、桃花の家の側まで来てしまっていたらしい。
因みに位置的には、桃花達の真後ろにある茂みの中にいる。
ふと、ビスカスに忍び寄る黒い影が一つ。
そいつは銀色に光る剣を振りかぶり、今にもビスカスに斬りかかろうとしていた。

雨「……っ!!」

俺はそれに気が付くや否や、ほぼ無意識の内に駆け出し、走り様に刀を出して、その勢いで黒騎士を斬った。
悲鳴を上げない変わりに、黒い煙を上げて、黒騎士はその活動を止めた。
咄嗟の判断で斬ったが、魔物だったようで安心した。
……いや、そう言うのも変だろうか……?

桃「し、時雨君……!」

桃花とビスカス、狐は、俺を見てかなり驚いた様子だ。
よくよく考えたら、そりゃあ驚くか……。

狐「あんた、どっから出てきたんよ!!」

雨「……そこの茂みから?」

ビ「そもそもどうしてここに!?!?」

俺が隠れていた茂みの方を指差すと、ちょうどあいすとひーとがこちらに向かって来ているところだった。
疚しいことは何も無いが、正直なところ、何故と問われると若干苦しい。
事情を説明するにも、恐らく長くなる。
一応追われているような状態である手前、長くその場に留まるのは避けたかった。

雨「……ちょっとした鬼ごっこでな……。」

狐「ふーん……あ、そうや!!真、知らへん?」

誤魔化し方に若干失敗した風な俺達(特に俺)を気にするわけでもなく、狐は次の話題を提示した。
何やら逸れてしまった幼馴染を探しているらしい。
確かに、いつもなら後ろで苦笑いをしていそうな物なのに、この場に真はいない。

雨「……一緒じゃねぇのかよ。」

狐「はぐれてもうたんよ……。」

狐が肩を落とした。
つかお前らよく逸れるな……。
人の事を言える立場ではないが、そこそこ心配になる。
レクライアの時も逸れてたしな……。
この調子だとまた何処かで倒れていそうな気もする。

氷「……私達は見ていないわ?どこかにいるんじゃないかしら。こんな状況だし、探した方がいいかもしれないわね。」

狐「あぁ、すぐにでも捜さへんと……。」

あいすが思案顔をすると、狐は心配そうに即答した。
余程心配な様に見える。
逸れたときの状況にもよるかもしれないが…何せ得体の知れない黒騎士が彷徨いているような状態で、心配しないのもおかしいな。

桃「私も手伝うわ。」

桃花が、半ば狐の言葉を遮るように言った。

ビ「も、桃花さん……。」

ビスカスが何か言いたげな表情をしている。

桃「いいでしょビスカス。この調子じゃ、お稽古だってできないはず。皆、いいかな……?」

桃花が俺達を見回して言った。
正直、俺は止める気がなかったし、周りも止めなかった。
伊集院家と言えば、世界でも名を連ねる舞の名門、そして薙刀の名門でもあり、桃花はその中でも群を抜く才能の持ち主らしい。だから、多分怪我の心配もないし、黒騎士と戦ったとしても、戦力として申し分ないだろう。
……勿論確証がないわけではなく、その実力は先のレクライアや、学園での演習などで確認済みだ。
彼女のそれは、肩書だけではない。

雨「……お前が来たいんなら、来ればいい。ただし怪我しても保証はしない。」

そう言うと、桃花は目を輝かせた。

桃「本当!?じゃあ行ってもいいのね!!」

……子供みたいな顔すんな……。
というよりも怪我の保証はの部分聞いてないような気がするなこれ。
まぁ、下手な怪我をする前に俺がなんとかすればいいか……。

氷「真君を探すなら、早く行きましょ。」

あ、あぁ、そうだったな。
……ふと思ったんだが、真と逸れた時の状況って一体どんな感じだったんだ…?

狐「それがな……」

   * * *

狐曰く、逸れたのは1時間ほど前、3日前と同じように捕まりそうになっていた子供を助けた所を、黒騎士に囲まれたらしい。
そして狐はその子供を安全な場所に預ける役割を請負い、真はその黒騎士の集団の引き付け役……謂わば囮となった。
「僕なら影が薄いからきっと逃げ切れる。だから狐はその子を逃してあげて」と死亡フラグじみた事を言っていたらしく、「後で必ず駆け付ける」と言ったのに一向に見つからないと言う所で、伊集院邸前で戦闘中の桃花達と合流したらしい。
まぁ、それだけ盛大に不穏なもんを打ち立てて行けば、誰だって心配になる。
そして俺達と遭遇し、あれから数分探し回って、ひーとが何かが道に倒れているのを見つけた。
黒い服にダークブラウンの髪。
紛れもなく真だ。

狐「真!!」

狐が真に駆け寄った。
真は、血こそは出ていないものの、傷だらけで、ぐったりしている。
彼は、うっすらと目を開いた。

真「……狐……。」

狐「喋ったらアカンで!!」

焦る狐の横に、あいすが跪いた。

氷「真君、動かないでね。」

あいすは静かに言うと、真の上に手をかざし、回復術を唱えた。

氷「生命の源、彼の者の傷を癒せ……。ヒール。」

真の周りに光が集い、傷口を塞いでいく。

真「……ありがとう……。」

狐「真!!平気か!?痛いところ無いか!?」

狐が真を前後左右に揺さぶっている。
怪我人にそれはやめろと言いたくなる様子だが、致命傷はなさそうな様子だったので言うのをやめた。

真「心配しないでよ、狐。大丈夫だから。」

真が笑った。
あいすの唱えた「ヒール」は、一応回復系統の光術、もしくは水術に区分されるのだが、あれで回復が間に合ったということは、さほどの怪我ではなかったのかもしれない。
……とはいえ本当に道端でぶっ倒れているとは思わなかった。
流石に焦ったわ……。

狐「よかったぁ……。」

狐が安心した様にしながら真のことを放す。
真も「あはは……」と頭を掻きながら立ち上がる。
だが俺にはどうにも気になることがあった。
確かに真は、ボロボロの状態で倒れていたわけだが、あの黒騎士達の持つ武器による負傷とは到底思えなかった。
……というより身を持ってあの斧でぶん殴られて昏倒する程度で済んだ俺が言うのも何だが、あの程度で済むわけがない。

雨「……なぁ、真。よく黒騎士とやりあってそのレベルの怪我で済んだな?」

真「あぁ…うん、えっとね、黒い騎士の人達とは別にこう、真正面からは戦わなかったんだけど……空から何か瓦が降ってきたりしてね……いつものことだけど、何なんだろうね?」

訊いてみると、彼はそう答えて“ちゃんと境内の掃除もしてるのに……”とぼやく。
……空から瓦……?
いやどうなってるんだよ真の頭の上……空間術で廃棄場とでも繋がってんのか……?
「なんやー真、黒騎士にやられた訳やなかったんやな…」と、何故か地味に納得した様子の狐だが、頭の上から瓦が降ってきたことに関してはスルーした。
…そういや鉄パイプのときもスルーだったな…。
そうして真が回復し、和やかムードになりかけた時、教会のある高台の方向で、大きな爆発音がした。
……最近よく爆発音聞くようになったな……。物騒な……。
……というよりもこんな所で立ち話をしてる場合じゃなかったという方が正しいか…。

炎「な、なんの音!?」

ひーとが音の方を二度見する。
……地面も大分揺れていたが、真逆またなんかあったのか?
教会にいるはずの小雪も心配だし、とりあえず高台へ向かおう。




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