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   * * *

高台で小雪と別れたあと、俺達は広場の辺りまで戻り、解散した。
いつの間にやら街に跋扈していた黒騎士達もどこかに撤退したらしく、街にはそれらしき奴ら自体いなかった。
とりあえずはもう大丈夫だろうと判断し、各々自宅へと向かう。
しかしひーとは……。

炎「お腹空いたー!!」

ひーとは何故か……、何故かうちの家に泊まっている。
理由を聞けば、"んー、家出。"と笑顔で返された。
正直、意味わからん……。
……いや、こいつがうちに押しかけてくるのは今に始まったことじゃないんだが。
まあ、この感じだと親御さんもいらっしゃらないみたいだし、一人が寂しいだけなんだろうか。

炎「ごはんまだ〜?」

雨「……あんまり五月蝿いと飯抜きにすんぞ。つかそう言うなら料理以外の何かを手伝え。」

駄々をこねて五月蝿いひーとを、テーブルを拭きながらに若干睨んだ。
するとひーとはいきなり席を立ち、腕組をしてこう言った。

炎「ボクは食べる専門だもんっ!!」

……威張って言うな……。
確かにお前は食べる専門であってほしいもんだがな……。
流石に激辛料理作られても困るし。
……でも皿ぐらいは運べ。

氷「ふふっ、楽しいからいいじゃない。」

あいすがダイコンを調理しながら言った。
……俺は全く楽しくねぇけどな。
て言うかひーと、ホントなんで今日はまたうちに来たんだよ。

炎「だって一人ぼっちは嫌だし……それにご飯は大勢で食べた方がおいしいんだもん……」

しゅんとした様子でひーと。
何かこの前もそんなことを言ってたな。
結局は寂しいだけじゃねぇか……素直にそういえばいいのに。
まあ確かに、あんな家に子供一人とかちょっとぞっとしないが……。
いや俺達も確かに未成年だが、やっぱり一人でいるよりはマシだろう。
……そういえば、こいつの姉は一体どこに行ってるんだ?
大体夜は家を空けてるみたいだが……。
前にひーとに尋ねたところ、「仕事」と聞かされているとか言ってたな。
……尤も、こいつの姉本人にそれを問い質しても、はぐらかされるだけで全く何も確証は得られなかったんだが。

氷「食事は確かに、誰かと食べた方がおいしいに決まっているわ。けれど働かざる者食うべからずとも言うでしょう?さあ、だからひーと、このお皿を食卓に並べる手伝いをお願いするわね。そしたら食事の後にメロンを切ってあげるわ。」

ひーと「……!うん!!」

嬉しそうに返事をすると、ひーとはルンルン気分でテーブルに出された皿を並べ始めた。
あいすはひーとの扱いが上手いな……。

そのあと、特に変わった様子もなく食事を終え、俺達は床についた。
夜も遅くなってしまったので、ひーとはうちに泊まることとなった。
一人で出歩いて、この前みたいに殴りつけられて攫われたりしても困るしな……。
……そういえば、ひーとが言っていたロージーと思わしき人物は、未だに姿を見ていないな……。
まあこのまま何事もなく、現れなければ一番いいんだが……。
こうも立て続けに事件が重なると、どうしても疑ってしまう。
ロージーが魔王と繋がっているのではないかと。
……まあ、憶測の域を出ないし、考えても仕方ないか。
ともかく、そろそろ寝よう。

   * * *

……寝れねぇ……。

つい三時間ほど前に就寝しようと布団を被った俺だが、昼間に見た光景が頭にちらついて未だ寝られずにいた。
さっきの頭痛の時に流れてきた映像は、一体何だったんだ……?
見覚えはないはずなのに、何だか嫌な感じがした。
と言うか……、俺はこの街にいて大丈夫なのか?

"……いつかお前の中のそれを我が物にしてやろう……。……楽しみにしていろ……"

……魔王と呼ばれた人物の声はこう言っていた。
“お前の中のそれ”というのには全く心当たりはないが……このままここにいたら、この街に攻めてくるんじゃないか……?
……魔王なら、街一個潰しかねない。
俺がいるせいでここが戦場になるなら……俺は……。

……いや、俺は魔王のやり方は好きじゃない。
人を平気で殺して、犠牲者を出す奴なんて……。
……ん?
どうして俺はこんな事知ってるんだ…?
まだ、魔王軍が街を潰したとかそういう話はニュースとか新聞でも見てはいないはずだ。
今のところ「現れた」という話だけで、「誰かを殺した」とかそういう話はあまり聞かない。
というよりも「因子」とか「お前の中のそれ」って本当に一体なんだよ。
そんな如何にも厨二病な単語。
けれど考えるとぼんやりする。
何か思い出しそうな気はするのに、まるで鍵でも掛かってるみたいに何も出てこない。
あぁ、また頭痛がしてきた。

捕まえに来るとしても、そう簡単に捕まるような気はない。
だが恐らく、逃げるとしても一筋縄じゃいかないだろう。
…けど…魔王の手駒になるくらいなら、俺は……。

……、ともかく、この街を出よう。
そうすれば、戦場にならずに済むかもしれない。
……よし、これにしよう……。

   * * *

−次の日・早朝−

音を立てないように階段を降りた。
流石に朝早いだけあって、誰もいない。
まあ、それを狙ってこの時間に起きたんだがな。
そして俺は、ドアノブに手を伸ばす…

「どこに行くのかしら?」

声に驚いて後ろを振り向くと、にっこりとひきつり笑顔を浮かべたあいすと、少しむすっとした表情のひーとが立っていた。
……タイミングが悪いというか、勘がいいなお前ら……。

雨「……散歩。」

氷「私、嘘はいけないと思うの。」

……、早々にバレたか……。
早くに家を出るだけで隠し通せるような気はしなかったが……。
よく考えたら、あいすは俺よりも起きるのが早いわけだから、まあバレるのが必然だろうか。

雨「…旅に出ようと思ったんだよ。その方が、安全だろ。」

目をそらした。
気持ちを悟られたく無かった。
けど、あいすには通用しなかった。

氷「本当の事を言いなさい。嘘つきさん。」

どうやら行かせてくれるつもりはないらしい。
こいつはいつもずるい。
こう言う時にだけ、姉の顔をする……。

雨「……俺がこのままここにいれば、いつかここが戦場になる。だから、犠牲が出る前に、俺は旅に出たい。そう思っただけだ。」

そう言うと、二人は黙ってしまった。
やがてあいすが口を開く。

氷「……何があってそう思ったのかはわからないけど、そう言うことは、きちんと相談して欲しかったわね。」

咎めるような口調だった。
睨まれている。
まあ、話してないからどういう事なのかはわからないよな……。
話して、変な心配かけたくないんだけど……。
というより、話してもわかってもらえる気がしない。

雨「一人の方が行動しやすい。それに、……お前らに迷惑掛けれねぇだろ。」

氷「……そう。」

あいすはため息混じりに言って、続けた。

氷「貴方はいつも、一人で行こうとするのね。けど、そう言うことなら仕方無いわ。」

あいすはそれ以上言及しなかった。
……わかってくれた……のか?

氷「但し、私も行きます。」

……は?何言ってんだ、お前。

氷「残念だけど、貴方を一人で行動させられるほど、私は弟離れ出来ていないの。いいわね?」

有無を言わさぬ迫力で、あいすは言った。
こうなると、残念なことにあいすは意地でも引かない。
何を言っても無駄そうな気がする……。
というより何を言ってもねじ伏せられそうな気がする。
危険になるだろうし、あまり連れて行きたくはないんだけどな。

炎「ボクも行っていい?」

おいひーと……お前まで何を……。

炎「ボクも旅に出たいって思ってたんだぁ〜。それなら一緒に旅に出たほうが、いろいろと安心でしょ?」

何かを考えているようで、何も考えていないような、そんな様子で"えへへ"と笑うひーと。

雨「……はぁ……、勝手にしろよ。」

俺はそんなひーとを見て、そう言うしかなかった。
俺もそうだが……普通に考えて、旅に出るなんて発想がそうそう考えつくはずもなく、こいつにもこいつなりの何かの事情がある……のかもしれない。
黙って出ていこうとした手前、そう考えてしまうと、俺には止めることはできない。
なら、一緒にいた方がまだ安心だ。
このトンチンカンに一人旅は流石に早い。

炎「やったぁ!!」

ひーとは30cmほど飛び跳ねて、喜びを表した。
跳躍力がやばい。

  ピーンポーン

氷「あら、誰かしら、この時間に……。」

不意に鳴ったインターホンに、あいすが応答した。

氷「はーい……あら。」

開かれた扉の向こうには、桃花が立っていた。

桃「おはよう。」

……いや、おはようじゃねぇし。こんな早くに何の用だよ。

桃「あーら、時雨君が旅立つ気配がして、お供しに来たのよ。冷音君と一緒にね。」

氷「凄いわね、今まさに旅立とうとしていたところよ。」

旅立つ気配って……お前らな……つか冷音だと?

桃「あら……?あ、ほら、そこの塀の上にいるでしょ。」

……あー……、いちゃったよ…。……こいつら絶対一人で行かせる気無かったな……。

炎「行くなら早く行こうよ!!」

はぁ……うっせぇ。
今出るから黙れ、ひーと。

……とりあえず、大方の準備をしてから街を出よう……。





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