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時刻は夕暮れ時。
俺達はゴールドグレードを出発し、そこから南のイラファートに向かっている…はず。
なぜ曖昧なのか、という疑問にあえて答えるならば、"どこいく〜?" "イラファートで良くね?近いし。"という軽いノリで街を後にし、随分離れたところまで来たところで、地図を持っていないことに気が付き、ここ数日間、本当に勘任せで歩いているからで……
炎「時雨ぇ……。まだ着かないの〜?歩くの疲れたよー……。」
スタミナが切れたらしく、ひーとが弱音とも言える声を上げた。
炎「ふかふかのお布団で寝たいーーーーーー!」
ひーと、うるさい。
……というか、だ。
近いと言っても徒歩じゃそうすぐに辿り着く筈はない。
昔やった計算があっていたなら、休みなく歩き続けても九日から十日は掛かる筈だ。
そこに野営という名の休みを入れて、早く着いても十一日半弱。
まぁ、馬車や車なら、もっと速く着くんだろうが…いかんせん、馬車は大体個人的に持ち出せるような代物じゃないし、車なんてこの年齢で持ってるわけがない。
……それも俺の頭にある世間体が合っていればの話だが……。
ついでに言うと、各地の首都に向けてなら、一応ゴールドグレードから馬車が通ってはいる。
……が、本日は定休日らしく、普段馬車が止まっている場所は無人だった。
俺としたことが……、とも思ったが、正直一人で行くつもりだった手前、その辺りの情報はほとんど調べていなかった。
それなら仕方ない、ということで徒歩になったのだが。
ともかく、現に六日間ここまで歩いて、野営をしても目的地が見えてこないわけだから、距離は計算通りかそれ以上なんだろうな……。多分。
氷「……何だか、肌寒くなってきたわね……。」
あいすが呟いた。
……確かに、明らかに体感温度が下がっている。
南に向かってるはずなのに……、……もしや……。
桃「あ、あのね……。」
桃花がおずおずと手を上げた。
雨「どうした。」
桃「私、地図、持ってるの……。」
何かと思えば、衝撃のカミングアウトだった。
全員が黙る。
雨「……何でそれを早く言わなかったんだ……。」
呆れながら言うと、桃花は少し肩を落としながら返してきた。
桃「言うタイミング……逃しちゃって。」
……はぁ。
まぁ、言う暇なかったもんな……。
雪「時雨さーん!!なんか、看板ありましたよ!!」
小雪が少し離れた場所から、大きく手を振りながら叫んでいる。
隣には、看板があった。
全員でその場所に移動し、看板を見る。
"↑レグルス
↑ノースロリエ
↓レイブルース"
看板にはそう書いてあった。
……一同、二度目の沈黙。
他の二つの街名にこそ見覚えはないが、看板の中央に書いてある、ノースロリエは、北の大国、ソフトライムの首都だ。
それに今気が付いたが、前方の山がうっすら白い。
南にあるイラファート近郊の山々は、いくら標高が高かろうと雪は降らないはずだ。
現在も、イラファートのシンボルである火山が活動中だからというのもある。
……俺達の視界にはその火山すら無いんだがな。
もしきちんと南に向かっているなら、火山位は顔を見せるはずだ。
狐「えっとー、オレ等南に向かっとったよな……?」
引き吊った表情を浮かべるのは狐。
まぁ、そりゃ顔も引き吊るな……。
氷「……つまり、南に向かっていたはずが、北に向かって歩いていた……ってことかしら?」
……そういうことになるな……。
暗い空気が流れる。
炎「もーやだ!!もう歩けないっ!!」
そう一度吠えて、ひーとがうずくまった。
雨「……棒切れ倒して進めばなんとかなるって言ったの、誰だったっけなぁ。」
この提案は確かひーとの発言だ。
地図を取りに帰るのを誰かさんが面倒臭がり、話を聞かなかった為に、仕方無くこの方法を取ったのだ。
何となく棘が立ってしまった気がするが、まぁいいか。
炎「うぅ……、それは……ボクだけどさ……。」
ひーとが肩を落とす。
……反省の色が無いわけでも無さそうだな。
反省してなきゃ困るが……、強くは言わなかった俺にも否がある。
だからこれ以上いう気はない。
桃「……どうするの?目的地……。」
桃花が深刻そうに眉を下げて訊いてくる。
雨「ここまで来た以上は、北へ目的地を移すしか……」
冷「…っ……ぐ……!!」
そこまで言った辺りで、冷音が視界から消えた。
彼は、胸の辺りを苦しそうに押さえ、踞っている。
雨「どうした…!?」
咄嗟に駆け寄って、容態を確認する。
押さえてる辺りからして…心臓か…。
最近は落ち着いていたので油断していたが、冷音は割と頻繁に心臓の辺りが痛む。
心臓病の類なのかと疑って、一度医師免許持ちの先生に診てもらったこともあるくらいだが、その原因はわからなかった。
決まって顔色が悪く、ぼんやり光ってるようにも見える。
いや、これは俺の目がおかしいのかも……。
しかし今回も症状は同じだ。
……とか冷静に考察してる場合じゃない、どこかで休ませないと。
…やっぱり暫くの野宿で負担を掛け過ぎたんだろうか…、身体が弱いのを知っていたのに、連れてきた俺はやはり馬鹿だったかもしれない…。
本当は、無理にでも置いていくべきだったのでは…?
炎「冷音!!しっかり…!!」
ひーとが駆け寄り、冷音の側でしゃがむ。
冷音はゆっくりと顔をあげ、安心させるように笑顔を作るが、すぐに表情を歪め、俯いてしまう。
桃「近くの町に運んで休ませましょう!!」
桃花が焦った声で言う。
そうだ、狼狽えてる場合じゃない。
俺がしっかりしなくてどうする。
とりあえず冷音を運ぶ為に、抱き替えるか考えたところで、側で様子を見ていた小雪はハッとした様子で叫んだ。
雪「まって!!離れちゃ駄目!!」
直後、冷音の足元を中心として青白い術式が広がり、目の前が真っ白に光を帯びて、全員の姿が見えなくなった。
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