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   * * *

戦闘に入り、すさまじい斬り込みの後、まず飛んできたのは小型ナイフだ。
何処から出したかすらわからないそれは、真っ直ぐ後方にいる冷音の方へと飛んで行った。
しかし、側にいたひーとによって、それは弾かれた。

シュ「おや、弾かれちゃったねぇ。」

ケラケラと戯けたような笑い方をするシュペリ。

炎「見くびんないでよね!!」

それを誉め言葉と受け取ったのか、ひーとは得意気に笑いながら、トンファーを構え直し、青年へと飛び掛かった。

炎「さっきの挽回に、いいとこ見せなきゃいけないんだ!!爆焔拳バクエンケン!!」

いつものように、得物に焔を纏わせ、三発相手を殴り付ける。
そして、間髪入れずに動いたのは狐。
彼女はシュペリの側までサッと駆け寄り、

狐「流星掌リュウセイショウ!!」

回し蹴りからのアッパーを決めた。

しかし、それらは安易に剣で受け止められ、彼女達は撥ね飛ばされる。
笑みを浮かべながら、左手に持った剣をくるりと器用に回し、肩に置く青年。

シュ「成る程ねぇ。」

彼は、まるでこちらの実力を測るかのように吹き飛ばした二人を見やる。
二人から攻撃を受けても全く効いた様子がない。
……余裕ってか……。

狐「……こいつ……強いで……。」

ひーとがよろけながら立ち上がり、狐は膝をついて呻く。
物理が効かないなら…。

雨「受けろ、乱気の剛刃。ウィンドブロウ!」

とりあえず初級風術を仕掛けてみる。
圧縮した風のフォルトが青年を薙いだ。
しかしそれも容易く剣で弾かれてしまう。

シュ「おや、この程度かい?」

どうやらこれもダメらしい。
……初級呪文が通用すると思った俺が馬鹿だったよ。
威力の問題なら……。

雨「……風巻かざまけ!!」

直ぐ様、刀に風のフォルトを纏わせ、彼に間合いを詰め、上段から下へ一閃する。
それを追尾するように小さな旋風を起こした。
旋風一刀センプウイットウという技で、これも商人である親父から……あれ?そうだったか……?

シュ「おっとー、なかなかやるじゃん。」

ちっ……すんでで避けられて深くは入らなかったか……。
だが少しはダメージを与えられたらしい。

シュ「じゃあこっちからもいかせてもらうよ。……踊れ氷塊!!グラツィエーロ!!」

言って、シュペリは詠唱を始め、氷術を放つ。
直径60cmはあろうかというこおりの塊が、こちらに向けて飛んでくる。
それを避け、反撃しようと体勢を整える。
が、こおりの塊に身を隠すようにして接近してきたシュペリの剣の切っ先が、目の前に迫っていた。

──キィン!!

俺はとっさの判断でその剣撃を受け止めた。
ぎちぎちと刃が咬み合う音がする。
くっ……相手は片手のはずなのに、なんて力の強さだ……

シュ「んー……おっかしいなぁ、殺す気で斬りかかったつもりだったんだけど」

シュペリの顔は未だ余裕だ。
自分の剣を受けられるのがそんなに珍しいのか?

シュ「いやぁ、剣には自信があるんでね。それにしてもオレの剣を二回も見切って受け止めるなんて、キミどこで剣習ってるの?」

雨「あんたに教える義理なんて……」

そう言った途端に、何か違う風景が脳裏をよぎる。
咄嗟に渾身の力でシュペリを跳ね飛ばした。
何だこれは……夜の森……いや、どっかの中庭?
そこに、目の前に、誰か立っている……?
……誰だ……?

シュ「おやおや、戦闘中に考え事かい?そりゃあずいぶん余裕があるみたいだねぇ?」

奴の声で我に返る。
奴は既に詠唱を始めている。狙いはどうやらこちらのようだ。
そうだ、今は考え事をしている場合じゃない。

炎「させないよ!!」

ひーとがそう言いながら、シュペリへ向かっているのを目の端でとらえる。
詠唱を妨害しようという算段のようだ。

シュ「へぇ、突っ込んでくるなんて思わなかったよ。いいねぇ少年、相手してあげよう。」

シュペリが詠唱を中断した。
詠唱で順手にしていた剣を逆手にくるりと持ち直し、シュペリがひーと目掛けて突っ込んでいく……かに思えた。

炎「え……?」

ひーとが失速した。
何故なら目標を見失ったからだ。
……向かってくるようにみせかけて消えた……?
いや、違う。
あのときあいつは、笑いながら剣を逆手に構え、ひーとの方へ走った。
恐らく斬る目的で。
でもあれが前から斬りかかる為じゃないとしたら……。
……まさか……!!

狐「ひーと!!後ろや!!」

炎「えっ?」

シュ「気付くの遅いよ。」

シュペリが現れたのは、ひーとの背後だった。
彼はひーとを下段から切り上げ、順手に持ち替えて横で払い、撥ね飛ばした。

炎「ゔっ……!?」

驚きと攻撃についていけず、受け身もとれず、こおりの大地に叩き付けられるひーと。

狐「ワレェ……!!」

狐が怒りを露にしてシュペリに技を仕掛ける。
俺もそれに続くように駆けた。

雪「打っち抜け!!」

小雪の放った三本の弓矢が、加速して飛んでいく。

シュ「おやおや、猛攻だねぇ。痛い痛い。
出でよ、慈悲なき氷柱、アイシクルショット!!」

攻撃を受け、よろめいた相手から放たれたのは、氷柱。
三発からなるそれは、俺達へ猛スピードで突進してきた。
が。

冷「闇よ、刃となれ……フォンセクリンゲ」

冷音がその術を闇術で砕いた。
彼は珍しく怒りに表情を染めている。
流石に親友が危ないのは頂けないらしい。
……ナイスだ冷音。

氷「大いなる癒し、ここへ集え。ナースクラシオン!!」

あいすの詠唱が整い、回復術による青い光が波紋のように広がり、傷を癒していく。

シュ「ほほう、回復役は君だったんだねぇ。……厄介だから斬らせてもらおうか。」

ニヤリとしたままそう言い、彼はあいすに向かって走っていく。
……流れ的にあいすを斬るつもりのようだがそうはさせない。

あいすに向けられた攻撃を妨害するように、俺は斬りかかった。
それは、相手の脇腹の辺りに命中する。

シュ「ぐっ!?」

呻くシュペリ。

シュ「……へぇ、結構やるねぇ、オレに傷を負わせるなんて。」

"今の攻撃、見えなかったよ"と言いつつ嫌な笑みを浮かべ、一歩、二歩と、青年が下がる。
刀を構え直し、いつでも攻撃に対処できるように、俺は相手を睨み付ける。

シュ「さっきの一撃を防いだ時といい、どうやらキミはなかなかデキる子らしい。でも……これは防げるかな。」

相手は、一度剣を前で一閃素振りしたあと、上にそれを投げ、器用にも柄の部分掴み、普通の持ち方へと変える。
そして、青年がニヤリと微笑う。
……なんだ?

そう警戒していると、彼は胸の辺りで剣を構えた。

シュ「確と聞け、紡ぐは暗黒の調べ……」

……詠唱が聴こえると同時に、地面を蹴る。
奴を中心に深緑と赤紫に発光するフォルトの渦のようなものが現れた。
……何の術だ?
いや、考えてる暇があるなら妨害した方がいい、何か……何かヤバいものが来る気がする……。

シュ「響け、重力の闇!!ティーフ・ダークネス!!」

だが…詠唱阻止は間に合わなかった。

気付けば辺りも薄暗く、押し潰されるような圧迫感が襲い掛かってくる。
……これは重力……磁術か……!!
苦しい……息が出来ない……!!
どうやら全体に掛かっているらしい。
その証拠に、後衛のあいすや冷音、小雪までもが地に伏していた。

数十秒後、その圧迫感は消えたが、俺達は立っていることすら儘ならなかった。

シュ「あー、やっぱり耐えきれなかったかー……。もしかしたらなんて思ったけど、でも……楽しかったよ♪
特に金髪の……水森 時雨君だっけ?キミはなんか、昔の知り合いを思い出したよ。今回は楽しませてくれたお礼に、君たちを見逃してあげる。
もっと強くなったらまた手合わせしよう。楽しみにしてるからさ。」

そう青年は言い、青い粒子と共に消えた…………。
うつ伏せだったから、顔は見ていない。
ただ声の調子からして、ほとんど全く攻撃のダメージが残っていないような、そんな感じだった。
その青い粒子が完全に姿を消した後、俺達はやっとのことで立ち上がった。
全員ボロボロだ。

雨「……何だったんだ……あいつ……。」

氷「厄介なひとに目を付けられたことには、変わり無いわ。けれど変ね…敵なのに悪い人な気がしないの。」

雨「……そうだな。」

あいすの意見に、なんとなく賛同した。
確かに、武器を出して構えたときのラザフォードの時のような、変な感じもしなかったし……高圧的な態度や傲慢さと言ったものも感じられなかった。
根っからの悪人というわけでもないのかもしれない。
まぁ、善人って感じでもない気がしたが……。

……けど……変なやつに目を付けられたことには……変わりないな。

……取り敢えず、傷を回復術やヒールウォーター等で癒し、俺達は奥へと進むことにした。




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