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-時刻・午後七時三十分-
俺とあいすが地下室に入ったのは、そんな時間だった気がする。
地下室は思ったより荒らされてはいなかった。
強いて言えば、壁際にあった本棚が倒れている程度。
……だが、それより驚いたことがあった。
家に地下通路があったことだ。
倒れた本棚の奥にあった辺り、本棚に隠れていたのだろう。
親父からは何も聞かされてねぇし、そもそも其処に扉があること自体さっき気が付いた。
とりあえず、魔物が入ってきた原因は其処ではないかという憶測で、俺達はその地下通路を探索し始めた。
(あいすが調べたいと言い出した所為というのもあるが)
暗い路地の中、掛かってくる魔物を捌きつつ進んでいくと、縦長半円の馬鹿でかい、凝った銀の装飾が施された扉に行き着いた。
鉄で出来ているのか、結構な重さがありそうだ。
そして、その扉へ近付いた瞬間に、物凄い馬鹿力な機械…鉄の人形のような何かが、いきなり上から落下してくる。
ここから先は、そいつを倒した後からの話。
* * *
雨「……。」
少し息を切らして、俺は先程まで戦っていた、相手である鉄人形を見る。
どうやら何とか仕留めることが出来たようで、そいつは地面に這いつくばったまま、動く事はなかった。
……これまで生きてきて、今程剣を習っていてよかったと思ったことはない。
氷「ナイスよ時雨、流石は私の弟ね♪」
満面の笑みで嬉しそうに言ったこいつは、双子の姉であるあいす。
言い忘れたが、この鉄人形と戦ったのは俺一人だ。
寧ろ、道中も大体は俺が戦っていた。
学園で、戦闘実技は必修であるため、あいすが戦えないということはない。
確かに剣を振る速度は遅いが、それを術で補うということも出来る。
……ここまで何も言わずに来たが、一言、言ってやらなければ気が済まない。
雨「……何でお前は戦わないんだよ。」
氷「あら、特に理由はないわ。良かったわね、経験が積めて。」
……この皮肉めいた言い方は……、どこか怒っているようだ。
……正直怒りたいのはこっちなんだが。
何か彼女にとっての地雷……怒らせるような事でもしただろうかとも考えたが、考える限り思い当たることはなかった。
つーか、そもそも一人で倒せたからよかったものの、俺が死んでたらどうする気だったのか。
雨「……お前……何 氷「この奥に何かあるのかしら。」
……怒ってんだよ、と言い掛けたところで、発言を遮られた。
あいすの興味は、もう鉄人形の奥にあった扉の方に向いてしまったらしく、その足は扉の方に向かっており、目の前まで着くと、彼女は扉を繁々と見つめ始めた。
……はぁ……これは何を言っても無駄、か……。
雨「……開けてみりゃわかるだろ。」
俺は、扉に手を当てあいすの問に答えた。
それに対して彼女はまたも満面の笑みだ。
どうやら"開けろ"と言うことらしい。
……まぁ、これだけは女の力じゃ開かないだろうし、仕方無いか。
雨「……はぁ……。……ふっ……!」
一つ溜め息を吐き、力一杯扉を押した。
ギィィィィィ……と音を立てて扉は開く。
部屋の中には特に何も置かれておらず、ただ単にだだっ広いだけだった。
しかし、あの扉は随分と錆びていたのか、かなり音が大きかった。
間近であの音を聞いていたからか耳が痛い。
雨「……ん?」
何気なく扉の先を見た俺は、視界の端に何かを捉えた。
奥に人のようなものが倒れている。
赤い髪に、薄緑の上衣。
それを着た人物には見覚えがあった。
……あれは……。
雨「……ひーと……?」
どうしてこんなところにという驚きから声が漏れた。
俺達が住んでいる街、ゴールドグレードに住んでいる、年下の下級生にして部活の後輩。
そう、察しの通り、知り合いだ。
その呟きに反応して、後から入ってきたあいすも声を上げる。
氷「……本当だわ……。大丈夫?生きてる?」
そう言いながらひーとを揺する。
……つか……、生きてるかってお前……。
そこは普通、大丈夫か問うだけで留めるだろ……。
まぁ正直若干生きてるかどうかは俺も不安にはなったが。
炎「ん……、うぅ……。」
心の中でそんなツッコミを入れていると、ひーとがノロノロと上体を起こした。
目を擦り、少しぼんやりとする。
……これは……大丈夫か?
氷「大丈夫?」
炎「……はっ!!ここ何処!?ボクは誰!?」
顔を除き込んだあいすに驚き、座った体勢のまま後退りした後、そんなことをいうひーと。
……よくある……反応だな……。
いや、まぁ、とりあえず落ち着け……。
炎「というか、二人ともなんでここに!?」
雨「その前に、お前が何故ここに居るのか、それを先に説明してくれ。」
驚きを隠しきれない様子で聞いてくるひーとに、冷静を装って返した。
こっちだって、状況把握が出来ちゃいねぇしな。
というより、ここは俺の家の地下室から繋がっていた場所なわけだから、どちらかといえば俺がひーとに問いたい。
彼は、"えっ……"と一言漏らすと、しばらく困った表情を浮かべ、うーんと唸った。
炎「んー……、いったっ!?」
一頻り唸った後、彼は後頭部を抑える。
いきなりそんな行動を取られて驚かない訳はなく、俺とあいすは二人して彼を心配した。
氷「大丈夫?」
そう言いつつ初級回復術の詠唱に入るあいす。
ひーとが抑えている辺りを注視すると、少し腫れている。
どこにぶつけたのか、所謂打撲痕的なそれは、かなり痛そうだ。
雨「お前、頭、どっかに打ったんじゃ……。」
炎「うーん……。」
それを問えば、彼はまた考え込んでしまった。
そして、何か思い出したのか、あっ!と声を上げて言った。
炎「打ったんじゃなくて、殴られたんだよ!」
殴られた……?
一体誰にだ……?
炎「うーん、分かんない。」
雨「分かんないって……お前……。」
普通覚えてるもんじゃねぇのか?
そういう事は…。
いや、状況にもよるか?
その一言を聞いた俺が呆れ顔をすると、ひーとは慌てた。
炎「うー……だ、だって、後ろから殴られたんだもん……でも、覚えてる事って言ったら、魔物がいたのと……変な言葉の使い方してたってくらいだよ?」
雨+氷「「変な言葉の使い方?」」
おっと……ハモっちまった。
しかしひーとはそれを気にせず頷く。
変な言葉使い……思い当たる奴は一人しか居ないが……。
まさかあいつがこの街にいるのか……?
雨「(……まあ……家に帰ってじっくり考えよう。)とりあえず、一回家に戻ろう。」
氷「そうね……。」
ここにはもう何もない様だし、一先ずは安全な場所に行くことが先決だろう。
このままここでそのひーとを殴った犯人に考えを巡らせて、魔物に襲われでもしたら嫌だしな。
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