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-あいすの部屋-

地下室から戻り、俺達は一番近そうなあいすの部屋へ向かった。
幸いにも、おふくろはもう出かけていた。
大方、親父にこの件を報告に行ったんだろうが……あの状態から普通すぐに動けるだろうか?
まさか……あの怯え様は演技…?
……いや、今は考えていても仕方ないか。
本題へ……

氷「……やっぱり貴方の部屋でも良かったんじゃないかしら。」

場所を彼女の部屋にしたことに、まだ納得していないらしく、あいすがしかめっ面をしながら呻いた。

雨「いつまで呻いてんだよ。仕方がないだろ、お前の部屋が一番近いんだから。」

氷「貴方の部屋、私の部屋の隣じゃ無かったかしら?それほどの距離ではないと思うのだけれど。」

真顔で答えると、あいすはしかめっ面のまま、不服そうに目を細めた。
……まあ確かに、俺の部屋とこいつの部屋は隣だし、ドアで繋がってもいる。だが……。

雨「俺の部屋で話をした場合、ひーとが話を聞かずにゲーム機とかいじり出して、話が全く進まなくなるが。」

現在目の前でキョロキョロとあちこちを見回している、赤い髪のこいつは、目的を忘れて他の事に走り出す傾向がある。
それ故に、ゲーム機やら何やらがある俺の部屋では、こいつが話を聞かない。
だから、特にひーとがハマる物の無さそうなあいすの部屋を選んだ。
……近かったからって理由も、少なからずはあるんだがな。
額に手を当て、あいすが"はぁ……"と溜息を付く。
どうやら渋々ではあるものの、了承してくれたらしい。なら、話を本題に写そう。

雨「しかし、変な言葉遣い……か。声はどんなだったかとか、覚えてないか?」

炎「うーん……、高めの声だったよ。男の人じゃ無かったと思う。あと、言葉遣いっていうか、口調が変だった。」

口調が変……?
どの程度おかしいんだろうか。
……一応、知り合いで思い当たる奴が一人引っ掛かったが……。

氷「……ロージー先生かしら。」

どうやらあいすも同じ人物を思い浮かべたらしい。
……そいつの勤め先の都合上、ロージーなら、この街に現れてもおかしくないかもしれない。
……けどそうなると……、あいつがうちの地下室(から繋がる地下通路)の場所を知っているって事になる。
つまりは、うちの場所まで知っているって事で……。
……何か悪寒がしてきた。

炎「ねえねえ。」

首を捻っていると、ひーとが突発的に聞いてきた。

雨「なんだ?」
氷「なに?」

炎「ロージー先生って……誰?」

彼の問い掛けの後、数秒ほど沈黙が流れた。
そして、驚いて声を上げる。

雨「お前、知らないのか!?」
氷「貴方、知らないの?」

またも同時に同じような反応をしてしまった。
念のため説明するとロージーとは、レクライア学園でも、古代魔道語をきちんと教えない、キモい、キショいで有名な、岡本・ロージー・カブルストーンという教員で、学園内で知らない奴はもぐりと言われている。
(個人的にはかわいそうだなとも思わなくもないが、古代魔道語をきちんと教えないのは本当だ)
ちなみに、俺達が中等部一年の時、Bクラスの担任をしていた。今は確か、Dクラスの担当教官だったか……?
もっとはっきりと言ってしまうと、俺もあまり好きではない。
授業の度に赤い糸がどうとか言ってくるしな……。

氷「あの人結構キャラが濃いから、知らないことは無いと思うのだけれど……。」

少し考え込むような動作をしながら、"デースとかマースとか言うのよ?"と、割と真剣にあいすがいう。

炎「うん、知らない。……?」

元気いっぱいに答えるが、ひーとはすぐに首をかしげる。

雨「……どうした?」

炎「あの人、確か、"こいつを連れていくデース"って言ってた気がする。」

彼にしては珍しい真面目な顔で、自分を殴った人物の言葉を呟いた。
憶測が、確信に近付いたな……。
しかし何故あいつがひーとを殴って……どこかに連れて行こうとなんてしてたんだ……?
そしてどうしてうちの地下に?

氷「……ロージー先生で、間違いなさそうね。」

あいすの声も、真剣身を帯びている。
だが……ロージーは本当に、一体何のために……

ブルルルブルルル

思考を巡らせようとした矢先に、あいすの携帯が机の上でバイブ音を立てた。
どうやら、同級生である伊集院 桃花からの電話のようだ。

氷「はい。もしもし?」

桃「もしもし?あいすちゃん、悪いんだけど、今から家に来られないかな?」

氷「別に構わないけれど、どうかしたの?」

桃「家が大変なの!!小雪も繋がらないし…とにかく速く…!?」

──ブチッ……ツー……ツー……ツー……

氷「……桃花ちゃん?桃花!?……切れたわ……。」

雨「どうした?」

氷「何かあったみたい……。桃花ちゃんの家に行くわ。」

雨「……そうか。」

氷「あら、貴方も行くのよ?」

……我関せずで居ようとしたことがバレたらしい……。
毎度のことだが、何故俺を巻き込む。

氷「だって貴方、暇でしょう?それに夜に女の子一人で出歩くのは危ないし。」

心細そうな顔を作るあいす。
しかしそうは言うが、あいすは一人で痴漢を倒したことがある。
俺なんぞがいなくても、大抵の事は対処できるだろう。
つか、俺もそこまで暇人じゃ…。

氷「それに……、桃花ちゃん、何だか怯えていたもの……。」

あいすは心配そうに眉を下げると、何処か考えるような仕草をする。
……珍しく本当に深刻そうだ。
まぁ、あの普段しっかりした桃花が怯えてるなら、相当だろう。

雨「……仕方ねぇな……。」

俺が溜息をつきながら言うと、あいすの顔がパッと明るくなった。
間髪入れず、ひーとが首を突っ込んでくる。

炎「ねえねえ、ボクもついていっていい?」

雨「……」

炎「……」

雨「………いいんじゃないか? 別に。」

ひーとの顔を見ながらに少し考えたが、事もあろうことか、ひーとの好奇心満々な目に負けてしまった。
……あのキラキラした目には勝てねぇわ……、あっちの状況も解らねぇから、あんまり連れて行きたくはないんだがな…。
……だがそれよりも、このワクワク状態のひーとを置いていくと……下手をすれば、一人でこっそりついてくるなんてことにもなりかねない。
そうなるよりは、一緒にいたほうがマシだ。
……さて、とりあえずは、桃花の家に向かうか。

〔火鳴 ひーとがパーティーに加わりました。〕




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