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-銀髪紫眼の大剣士-
理美火が合流して次の朝。
早朝、剣の素振りをし終えた俺は、取り敢えず一息を付くために紅茶を飲んでいる。
……朝はやっぱ、静かで平和だ…。
理「うわああああああああっ!?」
唐突に理美火の叫び声が聞こえてきた。
……前言撤回。
どうやら静かでも平和でもないらしい。
直後、ドタドタと物凄い音を立てて階段を降りてきた何かが、"ドスン"とかなり強い勢いで俺に飛び付いた。
雨「う゛っ!?」
口に含んでいた紅茶が気管に入りかけたがなんとか防いだ。
理「し、時雨ぇ……あ、あたしの部屋に、蜂、蜂があああ」
そう言った理美火の声は震えている。
…が、それどころじゃない。
こっちは椅子と理美火に圧迫されて息が出来ない。
……正直死にそうだ。
雨「り、理美火、わかった、から、放して、くれないか……そして、落ち着け」
というか放してくれねぇと死ぬ。
理「……はっ!! わ、悪ぃ……。」
雨「……げほっ、ごほっ……」
理美火は割とすんなりと放してくれた。
急激に酸素を取り込んだ所為か噎せた。
理美火の顔が赤くなった。
…ったく……つか何だって? ……蜂?
…あぁ、そういや理美火、蜂苦手だとか前言ってたような…。
雪「リミィどーしたの? 大きな声だして……。」
小雪もこの騒ぎを耳にしてか、階段を目を擦りながら降りてきた。
其処にズカズカと理美火が歩いていく。
理「小雪…!! テメェ、あたしの部屋に蜂入れたろ!!」
雪「はぁ!? 今起きたばっかりのユキがどうやってリミィの部屋に蜂を入れるって言うのよ!! ていうかユキだって虫だいっきらいなの知ってるでしょ!?」
理美火の金切り声に、小雪が応酬する。
……まぁ、虫嫌いの小雪が蜂を捕まえてきて入れるなんてことは無いか。
実行犯が別に居なけりゃの話だが。
理「あ。そっか……、すまん。」
それを聞いて気が付いた理美火はしゅんとした。
……しゅんとする理美火、珍しいな。
雪「わかってくれたなら別にいーけど? あ、時雨さぁん、龍斗見掛けませんでしたぁ?」
しれっと小雪は言い、いつもの猫なで声で俺に問うた。
正直やめてほしいと同時に、この声に慣れてきている自分も恐ろしい。
雨「…見てないが……今朝早く中庭で会ったな。そういえば。」
雪「あ、そうなんですかぁ? じゃあまだ中庭だなあのやろ。 あはっ、貴重な情報ありがとうございまぁす♪ ちょっと龍斗をぼこ…懲らしめにいってきますね〜♪」
小雪はそう言うと、中庭へ駆けていった。
一瞬見えた小雪の表情が黒かった。
ついでに言えば最後の一文は全く隠しきれていなかった。
…一体龍斗は何をしたんだ……。
炎「みんなおっはよー♪」
小雪と入れ違いで、ひーとが階段上から駆け降りてきた。
…朝っぱらからテンション高ぇなおい。
昨日までの落ち込みは何処へ行ったのやら…。
炎「えへへ、朝からいいことあったからね! いつまでも落ち込んでたら、やっぱりダメだもん♪」
彼は以前と変わらない笑顔でそう言った。
……吹っ切れたのか、それとも……。
理「いいこと? 何があったんだ?」
炎「ふふふ〜、じゃじゃーん!」
そう理美火が首をかしげると、ひーとは懐から小型の液晶カメラを取り出し、得意気に前へつきだした。
理「ん……? あぁっ!?」
液晶を覗き込んだ理美火は、驚いたような、何かに気が付いたような声をあげた。
炎「あー面白かった、お姉ちゃんの反応。」
理「炎…テメェか!! あたしの部屋に蜂入れたのは……!!」
炎「ん? 入れた訳じゃないよ? 起こそうと思って窓開けたら入ってきちゃっただけ。 でもそれだけで起きるなんて凄いねぇ、流石お姉ちゃん!」
顔を真っ赤にして怒る理美火に、ひーとが笑顔でそう返した。
……
煽てつきで。
いくら理美火でもこれに引っ掛かるほど馬鹿では…
理「え、そ、そうか? ……ってそういうことじゃねぇし!? お前何その状況下で、しかもご丁寧にデジカメで写真撮ってんだよ!! テメェそのデジカメ貸せ!! おいコラひーとっ!!」
…良かった、騙されなかったようだ。
だがお前ら室内で追い掛けっこを始めんじゃねぇ。
つかひーと、液晶カメラを振り回すな危ない。
というか、だ。
普段はひーとに甘い理美火が彼処まで怒るというのはどういう写真なんだ?
其処になら純粋に興味がある。
…丁度良くひーとが目の前に来たので、ひーとが振り回していた液晶カメラをヒョイと取り上げて立ち上がる。
炎「あ、ちょ、時雨、返してよ!」
そんな声を聞きながら、とりあえずカメラをひーとの届かない位置まで掲げて彼を宥めつつ、その写真を目の端で閲覧する。
……其処には普段の理美火からは全く想像できない顔をした彼女が写っていた。
こう……、目の端で確認してもわかるくらいの。
…あぁ、これは怒るわ。
理美火は俺に見られたと思ったのか、その場にしゃがみ込んで、"もうお嫁にいけない……"と嘆いている。
…これぐらいの写真で嫁にいけなくなることはないと思うがな。
…それにしても……。
雨「……お前よくこのアングルから撮ったな。」
余程理美火が驚いていたのか、アングルは理美火の正面だった。
よく蜂にも気づかれなかったな、と不思議に思う。
ひーとが隣で得意気にしているから、これは彼が撮ったと言うことに間違いはないだろう。
彼はその撮影をした経緯を嬉しそうに話し始めた。
一方理美火は、此方を拝むような目で見詰めている。
…何だこの状況。
俺にこの写真を消せと……?
いや、言葉に出されずとも消してくれと訴えかけられている気がする。
というよりこの目は確実にそういう目だ。
幸いひーとは話をするのに夢中でこちらの動作を全く見ていないが……ただ楽しそうに話すこいつを見ていると消すのをためらってしまう。
…だが、後腐れしない結果となると……、やはり消すしかない。
俺はメニュー画面を開き、その写真を消去した。
ピッ、と効果音がし、削除しましたと画面に表示が出た。
雨「あ。悪い、消しちまった。」
炎「えっ!? 何で消しちゃうのさ!!」
とりあえずいつも通りの声色で、何事もないような感じにそう呟くと、ひーとは即座に反応した。
雨「…手が滑った。」
炎「何それ!? もう! 酷いよ!! ひどい!!」
ひーとが頬を膨らませて、俺をポカポカと殴り付けようと腕を振り上げた……その時。
ズドオオオン……
そう何かが上空から降ってきたかのような轟音が、中庭で鳴り響いた。
理「な、何だ?」
炎「何今の音!?」
雨「(中庭に何か落ちたのか……?)」
そう考えつつ、駆け出す二人を追って中庭へ向かった。
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