5



中庭へ出ると、砂煙が立ち上っていた。
その中には二つ影があり、砂煙が晴れると同時に姿が見えた。
片方は腰を抜かした小雪。
もう片方は…銀髪紫眼の少年。

「あいたたたた…腰が…あぁ、小雪、大丈夫ですか?」

そう言って腰をさすりながら立ち上がり、小雪に手を差し伸べた彼は……神宮 翼、俺とあいすの幼馴染みだった。

******

雪「あ、ありがとう……じゃなくて! つーくん!?」

小雪が翼の手を取って立ち上がり、ハッとしてから、驚きと怒りの混じった声を上げる。

翼「いやぁすみません。 前見えなかったんでいたの気づきませんでした。 怪我がなさそうで何よりです。」

そうにこやかに笑う翼の足元には、直径二メートル程のクレーターと、何やら白地に銀色の装飾が施された、タイヤが一つしかないスクーターのような何かが転がっていた。
……よく見るとタイヤのように見える部分には、何やら石のようなものが内包されている。
が……どうやら機能してないようだ。
というか……

雨「なんでお前空から落ちてきたんだよ。」

……まぁ大方その機関……らしきものが原因なんだろうが……。

翼「いやぁ、インパクト求めてみた。 インパクトは大事かなって。」

雨「いや、インパクト求めんなよ。」

翼「やだなー……ちょっとした冗談ですよ。 実は其処に転がってる風乗りの羽根のエネルギーが切れちゃって。 やー、火鳴邸の庭が広くて良かった。」

そう言った翼の顔は満足気だが、ひーと達にとっては迷惑な話だろう。
現にひーとは地面に空いたクレーターをみて唖然としているし、理美火は理美火で翼を直視したまま固まっている。

…神宮 翼。
前記したように俺とあいすの幼馴染みにして、レクライア学園で風紀委員長と学級委員を掛け持つ男。
割と前、聖教会の話をしたときにチラッと言った風紀委員長の幼馴染とはこいつのことだ。
頭がよくて毒舌、そして俺やあいす以外には敬語だったりもするが、悪いやつではない。
俺とそんなに変わらない背格好である彼だが、その体格に似合わず大剣を使用する。
ただ最近はトラップを仕掛ける事が多く、大体仕掛けられる相手は龍斗だ。
…ヘビーなものは魔物や敵にも使用するらしい。
…ちなみにゴールドグレードをG2と略したのもこいつだったりする。

理「てかお前どうしてここに?」

理美火が尤もな問いを投げた。

翼「あぁ、ちょっとある人にあることを頼まれましてね。 多分その辺に……」

そう言って彼は大剣を空中から出して横に構えると、側にあった生け垣を水平に薙ぎ払った。
ギュン、と風を切る音がする。

龍「うおっ!? テメェあぶねぇ」

…何と其処から龍斗が転がり出てきた。
隠れていたらしく草だらけだが。
そして翼は大剣の先端を龍斗の首筋に突き付けて黙らせる。

翼「……さて。 …来て早々ですが……、チェックメイトですよ、龍斗さん。 お父君も心配しておられます。 家に戻ってください。」

脅すように冷ややかな声で翼が言った。
…まさか斬るようなことはないと思うが……。

龍「おいおいおいおい! 待てよ! 一回落ち着け!」

慌てながらも立ち上がり、両手を前へとつきだす龍斗。
…つか龍斗……喉元に剣突き付けられた状態で立てるお前って……いや、今の翼には殺気がないから出来なくはないのか?

龍「とりあえず危ないから大剣仕舞えよ!」

龍斗は大剣を何とか引っ込ませようとするが、翼の剣先は龍斗をとらえたままだ。

翼「何を言ってるんですか龍斗さーん。 僕は貴方が戻ると言うまで下ろしませんよ。」

にっこりと笑って翼は言うが、目が笑っていない。

炎「ちょ、危ないよ翼!! 龍斗が何したの!?」

炎がわたわたと慌てつつ止めようとする。
それでも翼は剣を下げない。

翼「……いえね、この人お家の方に、家でじっとしとけって言われたにも関わらず、自室の壁破壊して脱走したんですよ。」

あー脱走か…って、は?
壁破壊して?
壁壊すとか普通常識的にはしないだろお前……。

龍「いやーだってよぉ、家ん中って暇なんだぜ?体も鈍っちまうし。聞いた話だとレクライア倒壊したらしいじゃねぇか。それも気になってたしなー。」

そう言って頭の後ろに両手を回して笑う龍斗。
……何だろう、理由から野次馬臭しかしてこない。
寧ろ龍斗の場合、野次馬しかあり得ない。

翼「やはりそれが理由ですか。本当に仕方ない人ですねあなたは。」

龍「へへっ、それほどでもあるぜ」

翼は呆れたと言いたげな目を龍斗に向け、龍斗は何を勘違いしたのか照れ臭そうに笑った。

翼「褒めてませんよ。 ……とにかく、帰るんですか? 帰らないんですか?」

翼がワントーン声を下げて凄む。
それに怯む様子も見せず、龍斗が口を開く。

龍「……帰らねぇ、っつったら?」

龍斗はニヤつきつつそう問い、翼を見た。
それに対する翼は、にっこりとしながら、少し怖い声色でこう返す。

翼「そうおっしゃるなら僕にも考えがありますよ、とだけ。」

龍「……ぷっ……はははははっ!」

龍斗は、その返答に一瞬面食らい、笑った。
……此方には何がおかしいのかはわからなかったが、翼にも驚いた様子はなく、にこやかにしているのを見る辺り多分予定通りなんだろう。

龍「わーかったわーかった、帰ってやるよ。だからこれしまえや。」

尚も半分笑いつつ龍斗は折れ、突き付けられたままの大剣の刃の部分をペシペシと叩いた。

翼「…漸く決心しましたか。全く、手を煩わせないでくださいよ。」

ふう……と息を付いて大剣を仕舞い、翼は龍斗を咎めるように睨み付ける。

龍「あぁ! 但し時雨の旅が終わったらな!」

当の睨み付けられた彼は、溌剌とした様子で言う。
……おい。
……なぜそこで俺の名前出したし。
確かに旅を続ける気ではいるけれども。

翼「……は?」

ほら翼が眉ひそめた……。
これは此方に矛先来るパターンだ……。

翼「……何の為の旅ですかそれ」

龍「んー、確か魔王を倒すんじゃなかったか?な、時雨。」

……此方に振るな。
……というか俺そんな大それた目標掲げた覚えないんだが…。

翼「……時雨ー? なんって面倒な旅してるんですか貴方は…!!」

笑顔のままに翼が詰め寄ってきて、俺の両肩に手を置いた。
矛先が完全に此方に向いたな、これ。
翼越しに龍斗を睨むと、あれ、違ったか? みたいな顔をしている彼奴が見えた。
…話してなかったことが災いしたか……。

翼「……物凄く長旅じゃんそれ、いつも面倒臭がりな時雨がいったいどういう風の吹き回しなんですか、風のエルフだけに」

雨「……いや、倒しにいこうってつもりは俺には全く無いんだが…何故か龍斗の中ではそういう勢いに……。」

どちらかと言うと逆で、街にいて街が狙われるのが嫌だから逃げる、って名目だったからな……。

翼「…何が歪曲してそうなったんですか……。」

翼が困ったように項垂れた。
彼がこうなるのは珍しいが、物凄く申し訳ない。
……でも……。

雨「…冷静に考えてみると……逃げるのは性に合わない。」

どちらかって言えば、来た奴を片っ端から斬り倒していく方が俺には合ってる。
…実際に斬り倒せるかは別として。

翼「……確かに、時雨らしくは無い、か。」

俺の肩から手を下ろして、翼は"はぁ……"と溜め息をついた。

翼「まぁいいです、いいですよ、わかりました。 だったら僕もその旅とやらにご一緒します。 いい? いいだろ時雨。」

真顔で詰め寄るな怖い。
そんな翼の後ろでは龍斗が嬉しそうににまにましている。
…奴は完全に連れていく気だ……。

雨「…はぁ……勝手にしろ。」

最早何人増えても同じ気がするし…って、これイラファートでも言ったな……。

雨「…けど、これだけは言っておく。命の保証は……」

翼「しないんでしょう?」

……翼に言葉を先回りされた。
なぜわかったし……解せぬ……。

翼「これでも付き合い長いし? 危ないときは大体そういうんだから、嫌でも覚える。」

…そんなに使ってたか、この言葉。
無意識って怖ぇな。

理「…えっと、翼? とりあえず一緒に来るってのは把握したんだけどさ……」

翼との話の切れ目に、今まで黙っていた理美火が入ってきた。
翼は首をかしげている。

理「このクレーター……、どうしてくれんだよ?」

翼「……あ。」

そう言われて、翼は足元に広がったクレーターを見、今気づいたと言った風な一言を漏らした。

……このあとこのクレーターについて知り合いに相談する羽目になるのだが、それはまた別のはなし。
とにもかくにも、翼が少々苦労することになったのは、言うまでもない。


[神宮 翼が一行に加わりました]




- 52 -

*前次#



ページ:



[表紙へ]
[Ancient sage topへ]
[別館topへ]