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* * *
理「しっかし……"黒猫"かー……」
火鳴邸に戻る道すがら、理美火が呟いた。
彼女は考え込むように顔を伏せて腕を前で組んで歩いている。
理「…なぁ、なーんか心当たり無いか?時雨。」
雨「…無いこともないな。」
理美火の問いにそう答えた理由は一応ある。
…俺達の同級生に、黒猫の亜獣人がいるからだ。
聖來というその亜獣人は、学園で気が付くと一緒にいる。
少々いたずら好きな少年だ。
尤も…レクライアが休みに入る前辺りに姿が見えなくなっていたから、その辺りも少し不安な要素ではある。
…とりあえず今現在はそいつという確証はないが、この辺りで黒猫と言うと彼しか俺は知らない。
理「…やっぱり……聖來か?」
どうやら理美火も同じ考えだったらしい。
そうだよな…やっぱりそいつしか思い浮かばないよな……。
雨「…そうでないことを祈るばかりだな。」
…彼奴が、魔王軍かもしれない集団にいる何て言うのは、あまり考えたくない。
出来れば友人とは戦いたくない。
……かといって捕まる気もないんだが……。
理「…おい、時雨。」
火鳴邸がもう本当に目の前という地点に差し掛かった辺りで、理美火が足を止め、俺を呼び止めた。
雨「…何だよ。」
理「あれ……。」
止まって返答してみると、彼女は真っ直ぐと火鳴邸の目の前の道……正確には火鳴邸を囲む柵の前に佇む人影を指差していた。
黒い髪に黒い猫の耳。
見慣れた体躯の同級生、先程話していた聖來が、何か伝えたそうに火鳴邸を覗き込んでいる。
しかしその身に付けた服は黒を基調としており、少しだけこの前の黒騎士を彷彿とさせた。
…何であれ、とりあえず近付いて事情を聞いてみないことには始まらない。
雨「…おい。」
少々速足で近付き、声を掛ける。
すると彼は肩を跳ねさせて、即座にこちらを向いた。
そして何か迷うような、困ったような様子で視線を泳がせる。
…おかしい。
いつもならばこんな反応はしてこない。
雨「…どうした?」
一本踏み出して聞いてみると、彼は一歩、また一歩と退いた。
理「……どうしたんだよ?」
見かねた理美火が後ろから顔を出して聞くが、聖來は更に一歩下がって、パクパクと何か言いたげに口を動かした。
聖「…まさか……本当に……」
彼の口から洩れたのはそんな二言だった。
…明らかに動揺している……これはおかしいどころの騒ぎじゃない。
理「お前もしかして……」
理美火が何かに気が付いたような声を漏らした刹那、聖來は走り去って行った。
一つ、辛そうな顔をして。
理「あっ、おい!!」
すぐに理美火は呼び止めたが彼が止まる様子は無く、その背中はすぐに見えなくなってしまった。
その走り去った方角は東。
噂に聞いた、洞窟がある方角だった。
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