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-分断-

音「う、薄暗いね……。」

突入して始めに声を発したのは音波だ。
どうやら彼女はこの手の場所は苦手らしく、声は震え、常にひーとに引っ付きっぱなしである。
余談だが、邸での震えは武者震いだったらしい。
まぁ、端から見たらそうは見えなかったが…彼女本人がそういうのだからそういうことにしておこう。

龍「それにしてもなんもいねェなー…。 やっぱ噂は噂で、お前らの見た聖來は幻なんじゃねェのか?」

龍斗は伸びをしながら端とこちらを見る。

雨「幻なら二人同時に同じ人物を見るとか見間違うのは少し難しいと思うんだが。 複数人で幻見るんなら、それこそ何かの薬を大量に服用した副作用とか、幻術とかくらいしかあり得ねぇだろ。」

つかあんな鮮明な幻があってたまるか。

雨「俺は確かに頭痛薬と胃痛薬は常備しているが、今日は服用してねぇし、そんな症状出たこともなければ薬の説明に書いてもいないし聞いたこともない。 ってか幻覚だと仮定して、何で俺達は聖來が俺達から怯えて逃げるような幻覚を見るんだよ。 幻術だった場合にしても、見せるとしたらもっと敵意のある…こっちのトラウマになり得るような幻覚を見せるだろうが。」

そう、例えば…戻ったら全員死んでたとか。
実際あったら洒落にならないし、それを見た時の俺の精神は尋常じゃないダメージを受けるだろう。
怯えて逃げられたことに関してだけ言えば、確かに多少傷付いた感じはあるが……まぁ其処までのダメージはない。
あくまでも俺は、"その展開を想定していた"し、"慣れていたから"、だが。
…身内からは、あんまり怖がられたくはないけど。

龍斗は"そうかぁ…"と納得したようなしてないような返答をして、目線をこちらから正面へ戻した。
そうそう、この唐突な乗り込みに関して理由を言えば、彼のノリと勢いというのが大きい。

"よし、魔物も居ねェし突入だ!"
とかパッと見ただけで大した確認もせずに言い(それでも確かに魔物はいなかったが)、乗り気の何人かがその龍斗の勢いに乗り、止める暇なく乗り込むこととなってしまった。
翼が後ろで頭を抱えている。
…俺も勿論呆れた訳だが。

理「あたしも時雨に同感だな。 つーか幻術だとした場合、まずターゲットが間違ってる。
幻術の術者が、交遊関係とか全く調べずに、あんな意味のわかんない幻影見せるはずがねぇんだよ。
あとあたしも傷薬とか絆創膏とかレメディくらいしか持ってないから、薬とかによる幻覚はノーカンだな。」

理美火は俺の意見に賛同すると、詳しい解説をしてくれた。
ちなみにレメディとは、体力を全快させてくれる割とお高い代物である。
他に、ヒールウォーター、ハーフレメディなども存在する。
ちなみに現在の所持金だと、100βのハーフレメディを……15個くらいが限界だな。
イラファートであれだけ報酬もらったのにすっからかんなのは、これだけの大所帯の食費から武器防具まで買い揃えたからなんだが…まぁ…言わないでおこう。
そういえば余談だが、守銭奴の小雪的に10000βは大金だが、国王様のポケットマネーにしては安いらしい。
"あの国王……多分嫁の尻に敷かれてるタイプですよ"
と、彼女は言っていた。
……話がずれた。
理美火の話の続きを聞こう。

理「大体、相手があたしら狙ってるんなら、仲間割れなり何なりを狙って来るはずだし、そうなれば聖來の幻影を見せるのは別の人物の方が効果的だ。
それにそういう小細工をしたいんなら、複数人に、さらにもっと酷い幻影……まぁ有り体に言えば、誰か関わりが深い人物にその関わりが深い人物の幻影を見せて、その幻影に仲間割れを誘うような小癪な真似をさせるとか、そういうことしてくるに決まってる。
しかもこの中で詳しく聖來を知ってるのは桃花だ。 でもその桃花は聖來を見てない。
んでもってあたしら以外に聖來に会ったとか、別人物に酷いことされたなんて奴も居ない。 ってことは幻じゃないってこと。」

とても長い説明を少々早口でありがとう。
しかし聞き手である龍斗は全くもってちんぷんかんぷんだったようだ。
…そりゃあ……まぁ……長かったからな。

龍「あー……三行で纏めてくれねェ?」

理「…。

・幻術にしては意味がわからない
・そもそもあの聖來が幻影だとしたら見せる相手間違ってる
・その他、幻影にしては小規模な上に実害がほとんどない。

以上の三点により幻の可能性は無さげ。

わかったか? 馬鹿ドラ。
というかあたしだけならともかく、時雨みたいな風属性持ちは幻覚とかあんまり効かないって知ってんだろ? お前も風属性持ちなんだから。」

龍「馬鹿ドラって何だよ。 あー…そういやそうだった……か?」

龍斗が首をかしげる。
……まぁ確かに、俺の種族や龍斗の種族のような風術を扱える人種全般は、幻覚や言霊等の暗示が利きにくい。
掛かるとすれば相当な実力の術者によるものだろう。
けど、今回の件がそんな強い術者による物なら、もっと被害が出る……と俺は思う。

雪「ちょっとぉ、自分の特性くらいしっかり覚えときなさいよぉ。
そんな重要なこと忘れるとか、おつむがどうかしちゃったの? 馬鹿龍斗。」

そんなことを考えていると、小雪が半笑いしながら龍斗に絡んでいた。

龍「あん? オマエホントよく突っ掛かってくんな?
暗示とか幻術とか、掛けられる機会ねェんだからしゃーねェだろ。」

…いや、その辺は覚えとくべきだと思うんだが……。
確かに、暗示とかに掛けられる機会が頻繁にあっても問題だけどな……。

しかし小雪も小雪で、少々龍斗に絡みすぎのような気もする。
俺からは度が過ぎなければ何も言う気はないし、あれが彼女なりのスキンシップな訳だから、咎める理由は特にないが。
…五月蝿いけどな。

雪「それにしたって忘れんぼ過ぎでしょー? それとも龍斗は龍じゃなくて鶏だったのかなぁ?
龍斗じゃなくて鶏斗(けいと)に改名したらぁ〜?」

龍「どういう意味だよ」

氷「鶏は三歩歩いたら物を忘れる鳥。つまりは鳥頭ってことよ」

龍「鳥頭ァ…!?なんだとてめぇ!」

雪「説明されなきゃわからないなんて、やっぱりお馬鹿ね! バカ龍斗ー!」

やいのやいのと騒ぎつつ、俺達は洞窟を進んでいく。
しかしあいす…今のは意味教えなくてよかっただろ……。
ぜってぇ楽しんでやがるな……。




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