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‐聖來の事情‐
とりあえず捕まってる連中を牢から出し、聖來の話を聞く。
聖來が言うには、俺達から逃げたのは特に俺達が怖かったというわけでもなく、ただ「怒られる」という気持ちが先行してのことだったらしい。
……別にその程度で怒るようなことはしないんだが……。
……いや、友人が悪事に加担してるんだったら、怒って然るべきではあるかもしれない。
そこに関しては確かに、必要があれば言おうとは思っていた。
聖「皆がゴールドグレードにいるなんて思いもしなかったのにゃ……。暫く前に見たときはいなかったから尚更……。」
いなかった、か。
…俺達がイラファートに出発する前に彼はいなかったから、恐らくその暫く前≠ニは、俺達が流氷島に行ったり、イラファートに行ったりしてたあたりだろうか。
流氷島までは六日、イラファートに飛ばされて、馬車で帰って来るまで五日かかっていて、その間のイラファートでの滞在期間は大体四日ほどだったはず。
その日数にして十五日間。
恐らくこの間に彼は覗きに来たのだろう。
……しかしここの洞窟の魔王軍の設備はその日数でそろえられる代物じゃなさそうだった。
鎧の出てきたギミックといい、あのゴーレムだって、外から運び入れたら目立つはずだし、時間もかかる。
そうなると、この洞窟が魔王軍の手に落ちたのは、もっと前という推測になるだろうか。
聖「時雨が魔王軍嫌いっていうのはわかってたのにゃ、でも、こうするしか方法がなかったんだ」
こうするしかなかった……?
何かあったのか?
そもそも魔王軍の手を借りないといけないって時点で何かあったことは確定なんだろうが…。
聖「そ、それは……」
聖來は言い澱んだ。
言えない事情でもあるのだろうか…、視線が左右に揺れている。
?「それは僕から教えてあげるよ。」
…後ろから声がした。
それは道中さんざん聞いた少年の声。
その主は、俺達が今し方入って来た入口辺りの壁際に、いつの間にか立っていた。
薄茶色の髪に、山吹色の目で、頭に付けた四角いゴーグルが特徴らしい彼は、此方を見てにこにこと笑っている。
龍「やっと顔出しやがったな……!!」
?「だから言ったじゃないか、もうすぐ会えるって。」
龍斗が少年をにらみつける。
少年はそれを見て怯む様子もなく、笑みを崩さない。
?「で?彼に協力してもらってる理由だよね?
これについては話せば長くなるけど、端的に言えば彼がお母さんの病気を治す特効薬を求めていて、丁度それを持っていて戦力も欲しかった僕達が取引をしたってとこかな?」
病気の特効薬……?
ってか聖來のお袋さんってご病気だったのか……?
聖「……」
聖來は俯いた様子で黙った。
……どうやら本当にそうらしい。
聖「……しかたなかったのにゃ……オレの稼ぎじゃ買えるような代物じゃなかったから。それに下手したら冥界にくらいしかないかもしれないって……。」
……なるほど、つまりは手伝いをしてくれれば、薬をあげようとでも言われて手伝ってたってことか。
確かに、冥界との交流が何らかの因果で閉ざされて久しい今、手に入らない薬とかもあるのかもしれない。
けどひとつ疑問が残る。
それは……、
翼「…ちょっと待ってください。どうしてその冥界にしかないかもしれない薬≠、出処もほとんど不明な貴方達が持っているんですか?
まさか冥界に取引先があるわけでもないでしょうに。」
そう問うた翼も、同じような疑問を持ったようだった。
実のところ、魔王軍の出処については、未だに調査中であり、新聞社やマスコミもつかめていない。
イラファートの方にもその辺りは全く収穫が無いらしく、イルデブランド陛下も手を焼いていると言っていた。
それどころか、軍そのものを名乗る者や集団(少し前にゴールドグレードへ来たような奴等…おそらくは下っ端に等しい連中)は居ても、統括者の名前すら出て来ることはなく、それこそ、イラファートで話を聞いて、エレミールとか言う奴が出てくるまで、軍内でも上層部かつ将官クラスであると思われる七帝刄の三文字すら話題に上がって来ることはなかった。
情報統制でも行われているのか、それとも本当に誰もつかめていないのかはわからないが。
さっきも言った通り、そもそも冥界との交流は現代では既に絶たれている。
だからこそ、彼らの拠点が地上ないし、地上に来られる場所にあると過程すると、尚更その薬を彼らが持っているのはおかしいということになる。
本来冥界の品物は、地上には流通しない。
他の世界もそれは同じだし、そうなれば入手は、現状困難なのだから。
それこそ、冥界にでも住んでいない限りは、手に入れることなど出来はしない。
?「そりゃあ僕らが……って……え?もしかして…知らない?」
少年は何か言いかけた後、少々面食らった様子でこちらを左右交互に見回した。
どうやらこちらはその理由を把握済みだと思っていたらしい。
?「んー……そっかー。じゃあまあ、極秘入手ってことにしておこうかな。」
何だよそれ。
煮え切らない発言だな。
そんな反応をされると、此方としては腑に落ちない。
……まあ敵対しているような輩にむざむざ自分たちの本拠地をバラすはずもないか。
龍「んだよ極秘入手って!!んな薬信用できるわけねェだろ!!なぁ聖來!」
聖「……」
即座に声を荒げる龍斗。
しかし聖來は黙ったまま目を逸らした。
……そういう物でもすがりたいと思うほど、容体が危ないんだろうか。
?「まあ、信用できないんなら、ちゃんとしたところで成分調べて貰ったらいいんじゃないかな?」
頭の後ろに片手をやり、首を右に傾ける少年。
?「たぶん大丈夫だと思うけどねー。なんせ僕らのとことは別口の薬師に作ってもらったものだから。……うちのあの人は信用ならないからねー……」
炎「……信用ならない……?」
今度はひーとが首をかしげる。
何やらわだかまりでもありそうな言い方だ。
……もしかして、魔王軍も一枚岩じゃないのか……?
?「ああ、なんでもない、こっちの話さ。……さて、長々とお話しちゃったけど……。」
彼はそう言って壁際から一歩、二歩と歩きながら、何か筒のような物を取り出した。
……何かの起動装置か……?
そう思いつつ身構えていると、彼はそれを胸元で構えた。
──ジャキン
とその瞬間冷たい音がし、彼が手に持っていた筒のような物が、棒状の何かに変形する。
?「僕も仕事で来てるからねー、通してあげてもいいけど、僕を倒してから行ってくれるかな。」
そして彼は入り口の前に道を塞ぐように立ち、鉄の棒のような何かを持った手を、横に薙いだ。
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