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?「えーっと、こういう時の作法ってどうするんだっけ。まずはとりあえず自己紹介?」
慣れなさ気に苦笑いする少年。
しかしなんだあれは。
…鉄パイプ?
……にしては細いな。
翼「あれは……棍?」
翼が呟いた。
棍……そういえば昔、そういう棒を使った武術があると本で読んだような気がする。
……どこで読んだんだったかは忘れてしまったが。
?「そうそうー、これは棍だよ。機械仕掛けの棍、僕の得物で、僕が自分で組み立てた特注品さ。
砂漠のオリジンサンって国から手に入れたボーキサイトで作ってあるんだよ。
あ、ボーキサイトじゃわからないか、一般的にはアルミに使われる金属でね、柔らかくて加工しやすくて、軽くて伸びも良くて、すっごくいいよね!」
少年は肩に得物のアルミの部分と思わしきものを乗せると、やや自慢げにし、急に材料にした鉱物の事を語り始めた。
話し方が、自分の興味のあるものを語る時のひーとや冷音達同年のそれで、やや戦意が削がれる。
……武器といえば一般的には鉄や銅で出来ているもんで、アルミはあまり聞いたことがなかった。
鍋とか包丁なら何度か聞いた気もするが……まさか本人の言う通り、本当に自分で一から組んだのか……?
夏休みの工作でアルミからナイフ作るとか言って挫折してた知り合いがいたが、本当なら奴とはえらい違いだ。
?「あ、その顔は信じてないな?キミ達がさっき向こう側で倒したゴレリィだって僕が作ったんだよ!?」
あのゴーレム、ゴレリィとか言う名前だったらしい。
製作者お前だったのか。
ここの管理者なら作っててもおかしくはない……のか?
?「……おっと、いけないいけない。つい熱くなっちゃった。」
独り反省したかのように息を吐いて仕切り直し、少年は笑みを作り直した。
そしてそのいけ好かない笑顔のままに宣う。
?「僕に勝ったら、薬もあげるしここも通してあげる。」
どうやら、俺達の実力を試すつもりらしかった。
人を下に見るような言い方で、どうにもナメられているような気がする。
龍「へっ、上等じゃねぇか。」
龍斗が得物である短剣を一振り取り出し、前へと歩み出る。
彼はかなり頭に来ているのか、それともただ喧嘩屋の血が騒いだのか、大体学園で同級生や上級生相手に喧嘩を買った時と同じような顔をしていた。
相手の言動に青筋を立てながらも、何処か楽しそうな顔だ。
……龍斗の悪い癖が出てる。
翼「待ってください龍斗さん、ここは狭いし、暴れまわったら大変なことになりますよ。」
龍「あ?大丈夫だって、ちょっと痛い目見せるだけだからな。」
翼が止めたが、龍斗はそれを軽く流した。
こうなるともう止めるのは無理だ、俺が言ったとしても絶対に訊かない。
荒風 龍斗は、売られた喧嘩は絶対に買い逃さない。
翼「……はぁ……全く本当にあの人は……!!相手は魔王軍ですし、甘く見たら怪我をするのはこちらかもしれないって言うのに……。」
翼の心配もごもっともだ。
これまでに俺達が当たってきた魔王軍は、結構な手練れが多かった。
シュペリは言わずもがな、ラザフォードだって、どうやって倒したか俺も覚えてないし……。
それに、さっき翼が言った通り、今いるエリアは狭すぎる。
牢屋が後ろにあるお陰で、さっきのゴーレムがいた所の半分しか使えそうな場所がない。
それに、俺達の人数は旅を始めた頃よりも大幅に増え、12人だ。
確かに全員で戦ったら、洞窟が崩れる可能性がありそうだな……。
?「何々〜?作戦会議?待つよ待つよ〜?」
龍斗の後ろで考える俺達に、少年が愉快そうに笑う。
まるで遊び友達でも待ってるかのような言い方だ。
……マジでバカにされてそうな気がしてきた。
翼「……そうですね……お相手は待っててくれるそうですし、龍斗さんは引きそうにないので、あと二人ほど戦闘メンバーを決めましょう、じゃんけんで」
……おい待て、魔王軍を前にしてマジで緊張感のない単語が聞こえた気がしたんだが。
じゃんけん……??じゃんけんって言ったか??
理「翼??流石に作戦は練った方がいいんじゃないか??」
翼「作戦は練りますよ、ただあの状態の龍斗さんは作戦立てても作戦通りに動かないで突っ込んでいくので、選ばれし二名で作戦を立てましょうって言ってるんです。」
まあ確かに、喧嘩モードの龍斗は作戦ガン無視で突っ込んでいくから、俺もとにかく殴れとか押さえろとかしか言ったことは無いが……。
龍「おいおい、聞き捨てならねェな……作戦聞かねェほど頭には来てねェよ」
流石に気になったのか、龍斗がこちら振り向いて抗議した。
おい、敵に背を向けるんじゃねぇ。
真「えっと……僕はその……洞窟の壁を破壊して崩す可能性があるから辞退していいかな……。」
真がおずおずと手を上げる。
あぁ、確かに真の脚力だと、洞窟の壁に陥没痕どころじゃないかもしれない。
運が悪ければ一撃で洞窟が崩落する可能性がある。
……それも、彼の不運に掛かれば、その確率は九割強だろう。
洞窟崩落の危険があるといえば、技のコントロールが偶に疎かになるひーと、地属性を扱う桃花、地盤を緩くしそうな水属性を使うあいす辺りは駄目だろう。
ゴーレム……ゴレリィとの戦いでは、あいすが水術をかなり使っていたが、やや水捌けが悪かった覚えがあるしな。
聖「じゃ、じゃあオレが」
?「えー?お客様ぶん殴ったら僕が怒られちゃうよ〜。それに、これは侵入者退治でもあるんだから依頼人は邪魔しないでほしいよね〜?」
聖來の立候補に被せるように、少年が文句を言う。
心底怒られるのが嫌という事らしかった。よほど面倒くさい上司でもいるんだろう。
相手がどう怒られようが知った事じゃないが、聖來の参戦は認めてもらえないらしい。
それと恐らく、聖來は龍斗の力圧し戦法には合わせられないだろう。
どちらかといえばサポートに回れて、普段から合わせ慣れてる奴が好ましい。
そうなると必然的に、何度か一緒に戦闘をしたことがある俺か、回復面で小雪、戦闘方面に明るい理美火か狐になる。
ただ狐は先ほどからあまり喋っていない所を見るに、何か考えている様子だし、この狭い部屋で小雪が弓を放つ余裕があるかどうかは少し疑問だ。
……回復に専念してもらえば行けるか……?
翼「……」
翼がにこにこの笑顔でこちらを見ている。
一切言葉を発していなくても、何か言いたげなのがはっきりと分かった。
恐らく、さっきのじゃんけんはブラフで、こっち……主に俺が立候補するのを待ってるんだろう。
?「僕としては〜、そこの水色髪の子の魔術とか見てみたいけどね〜?」
……しっかしうるっせえな相手。
いや、こっちが長いこと作戦会議に入ってるから暇なんだろうとは思うんだが。
確かに冷音なら魔術のコントロールも可能だろうが、出したら出したで言われたとおりにしたみたいでなんだか癪だ。
冷音の方を見てみると、こっちもこっちで何か考え事をしている様子だ。
名指しされたことに気が付いていない。
炎「れ、冷音が出るくらいなら、ボクがやるよ!!」
冷音の隣でひーとが吠えてトンファーを構える。
だがそれを、理美火が首を横に振って遮った。
理「……わかった、じゃああたしがやる。」
相手は魔王軍ということで、随分と警戒しているようだ。
普段よりも一つ声のトーンが低い。
それに、ひーとに相手をさせて、自分は下がっているというのは彼女の性に合わなかったらしい。
理「あたしなら何度か龍斗と合わせたことがあるし、丁度いいだろ。」
そういえば理美火は、レクライア学園で龍斗と同じクラスBに所属しているのを忘れていた。
授業かなんかで合わせた事でもあるのかもしれない。
翼「そうですねぇ、確かに、できれば龍斗さんと合わせられる人がいいかもしれません。例えば時雨とか」
遂に名指しされてしまった。
……正直こう何度も魔王軍所属者と鍔競り合うのも、顔を覚えられる可能性があってだいぶ嫌なんだが……。
翼はおそらく俺の心情も込みで読んで名指ししてるんだろう。
多分今、翼はこう思っている。
”相性考えたら貴方しかいないんですから、早く立候補しろ”と。
雨「……はぁ……わかったよ、やればいいんだろやれば。」
翼「時雨ならそう言ってくれると思ってました!」
渋々頷けば、翼は圧のある笑みを解いて、ぱあっと、それでいて白々しく笑った。
なら初めから名指ししてくれたらよかったのでは……?
作戦参謀やるならそれくらい……。
……いや、よく思い返したら、翼は一度も”自分が”作戦を立てるとは言っていない。
多分理由は、作戦を立てる人間……指揮官だとバレたら面倒くさいから。
まさか翼は、最初から俺と理美火が参戦するように、態と”じゃんけんで決めよう”なんて言ったのか?
いや、理美火が立候補したのは相手側の指図があっての物だった。
流石に……そこまでは読んでない……よな?
俺は考えるのをやめて、翼の次の一言を待った。
腹黒そうな笑みを浮かべている辺り、まあ、何か考えてはいるんだろうしな。
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