18
***
翼「とにかく普通に戦ってください。」
翼が言ったのはそれだけだった。
作戦とは?と思わざるを得ないその一言だが、恐らく相手の出方を見たいんだろう。
……超良い様に捉えれば、の話だが。
今回の様に魔物が相手でもなく、初めて出会う相手なら、尚更観察が必要だろうしな。
その為、布陣的に見れば今、翼は後衛でスタンバイしてもらっている。
何も考えていないわけではない……、多分。
龍「ったく、アイツ偉そうにしといて、なーにが普通に戦ってくださいだよ。最初から殴っちまったほうが早かったじゃねェか」
理「お前の尻拭いメンバーが決まんなかったんだから仕方ないだろ。」
龍斗は翼の言葉をストレートに受け取ったらしく、やや不満を言う。
右手で大鎌を振り抜いて肩に担いだ理美火が、呆れた調子で額に手を当てた。
尻拭いメンバー……まあ言い方は悪いが、突進気味なきらいがある龍斗一人に任せたら、あんまりいい結果は産まなそうだからな……。
「お、作戦会議終わった〜?」
長く待たされて退屈していたらしい少年がこちらを見て微笑む。
龍「おう、待たせたな。」
「それじゃあ始めよっかー。
Blason Noir 第三帝団所属、機関機工長、ハヅキ。推して参るー、……ってね!!!」
真面目に返事をする龍斗に、少年……ハヅキは棍をくるくると回して遊びながらに返すと、高く跳躍して俺の方へ棍を振り下ろした。
察知して避けた地面に、打撃痕が残る。
雨「あっぶねぇな……」
なんで俺なんだ???普通喧嘩売った龍斗に行くもんじゃないのかこういうのは。
避けなかったら結構くらってたぞこれ。
ハヅキ「だってお兄さんが一番対処が楽そうで一番しぶとそうだからね!」
棍を上げ直し、一文字に薙ぐ。
頭を狙われているらしく、棍の先が鼻を掠めた。
驚いた顔をしたのを見られたらしく、ハヅキが俺の心の声を読んだかのように笑う。
対処が楽で一番しぶとそう……侮られてんのか褒められてんのかわからない一言だ。
雨「チッ……!」
俺は避けざまに牽制で
空溜刃を放ち、後退する。
相手に横から凄まじい速さで突っ込んでくる龍斗が見えた。
龍「オレを無視するたァいい度胸じゃねェか!!」
短剣の刃と、棍のアルミがぶつかり合う。
ハヅキが今受けたのは、龍斗が割と得意としている、短剣による振り下ろし攻撃だ。
ただの振り下ろしではなく、鉄すらも断ち切らんばかりの力を込めている。
ハヅキ「へー、お兄さんはずいぶんと馬鹿力なんだ、ね!!」
そう言ったハヅキの棍がオレンジ色に発光する。
それを確認したと同時に、彼は龍斗の強撃を弾き返し、その腹部を突き、さらに追撃に岩のつぶてを放った。
……地術か?
いや、それにしては詠唱がなかった。
俺が空溜刃で風のフォルトを飛ばすようなものなのかもしれない。
龍「うおっ!?」
理「……!火球よ、落ちろ!!イグニスグローブ!!」
突きをくらった龍斗に迫ったつぶてを、理美火の放った三つの焔のうち一つが相殺し、二つがハヅキを猛追する。
ハヅキ「当たったら熱そうだなぁ、でも弾いちゃえば問題ないよね!」
そう言ってハヅキは縦に棍を振り下ろして火の玉を叩き落すと、地面に少しめり込んだのか、やや強めに引っ張り上げ、よろけた。
龍「隙あり!!」
ハヅキ「おっとっと」
すかさず、龍斗が真正面から突っ込むが、下からの払い上げを躱された。
この瞬間を逃す手はない。
雨「轟け!」
俺は、避けたその隙を狙って、雷のフォルトを纏った袈裟斬りの一閃、
雷閃牙を放った。
武器がアルミで出来ているのなら、雷属性は効くはずだ。
しかし、それを受けた相手の武器はまたもオレンジ色に発光する。
ハヅキ「効かないんだよなぁ〜それが。」
そう笑ったハヅキは、バッドを素振りするような動作で棍を薙ぎ、俺の横っ腹を殴った。
武器が雷を吸収した。
……不味い、この性質は地のフォルトだ。
結構な力だったが、なんとか受け身を取り、地面を無様に転がるのは防げた。
防げたが……くっそいってぇ……。
翼「……なるほど、あの棍には、地のフォルトによる防御力と威力の嵩増しギミックが施されている様子ですね……。となると本人も地属性を使う可能性が高そうです。」
いつの間にか隣に来ていた翼が、俺に回復術を掛けながら、相手に聞こえないような、それでも俺には聞こえる程度の声量で思案する。
雨「……その推論、その攻撃でフッ飛ばされてきた俺の横で言うのやめてもらっていいか?」
翼「そう拗ねたこと言わないでくださいよ、だから回復してあげてるんじゃないですか……。でも時雨の攻撃で相手が地属性だと断定できたので助かりましたよ。」
やれやれとでも言いたげに首を振る翼。
すっ飛ばされた直後だった為、やや捻くれた言葉が出てしまったが、翼は俺の推測とほぼ同じ考えのようだった。
武器に属性が付与されている場合、一番相性が良い物は、適正属性の中で最適とされる属性と同じものとされている。
あいつ等魔王軍は”軍”なので、そこらの冒険者や俺達の様に、適正属性でもない装備を持つことはまあないだろうし、大体は最適を選ぶはずだ。
偶に魔術を使えない人間が魔導具を使用している場合もあるが、大体は粗が出てしまう。
つまり、ハヅキは地属性を扱う可能性があるという仮説が立てられる。
雨「……そうなると少し厄介だな……」
何が厄介かというと、相手が地属性を扱う場合、この”岩と土で出来た洞窟”というフィールド自体と一番相性が良いのである。
地域によって差はあるが、ここの地形はシンプルな洞窟である為、これに該当する。
魔術を扱う者には、それぞれ相性のいい地形が存在していて、たとえば風のエルフである俺は森や野外と相性が良いし、水のエルフであるあいすは水のある場所と相性が良い。
……まあ長ったらしい説明は省くが、それぞれの属性によってその属性のフォルトが濃い場所があり、洞窟は通常、地のフォルトが強めだと理解してくれればいい。
翼「……そうですねぇ……彼が始めに見せたあの跳躍力も、時雨をビビらせた叩き付けも、地形相性込みと考えれば頷けます。まあ地形バフがなくても、初めからそれなりの実力はあったのでしょうが……。」
……ビビっては無い。
そう否定しても、なんかからかわれそうだから言わないが。
龍「ちょこまか避けんじゃねェ!!」
ハヅキ「嫌だよー、お兄さんの一撃受けたら筋肉痛になりそうなんだもん。」
話しているうちに龍斗の怒号が聞こえてきた。
ハヅキに攻撃を避けられてばかりでイライラしているようだ。
まあでも、龍斗の攻撃を正面から受けたくないのはわかる……。
間髪入れずに理美火が、火焔を纏った大鎌を振りかぶって斬りかかる。
それと同時に龍斗も相手へ走る。
ハヅキ「二人いっぺんに来られたら困っちゃうなー……よーいーしょ!!」
ハヅキが大振りに棍を振りかぶり、大きく地面に叩き付ける。
衝撃で二人が跳ね飛ばされた。
翼「……なるほど。」
それを見て何かに気が付いたかのように、翼が呟く。
どうやら今の技に何かヒントが隠されていたらしい。
翼「……時雨。今から貴方に速度上昇の魔術を使います。相手を攪乱して、先ほどの技を上手く誘ってください。」
雨「……勝算は?」
翼「……八割弱といった所でしょうか。さて、僕はそろそろお二人を回復しないと怒られてしまいますね。
……では、お願いしますよ。」
翼はそう言うと、俺に向かってフェズリィライトという羽属性の魔術を使った。
身体がかなり軽くなった気がする。
これなら確かに攪乱できそうだ。
ハヅキ「うわっと!?」
真っ直ぐハヅキに突進し、刀を振り下ろす。
受け止められ、弾き返される。
ハヅキ「やっぱりしぶといね!!お兄さん!!」
突きを放って来るがそれを避け、さらに棍を振り回すのを避ける。
理「焔よ芽吹け!フレアブラスト!!」
龍「おらァ!!!!!」
回復した理美火の初級焔術で、相手の足元に焔の花が咲いた。
続いて龍斗が飛んでナイフを振り下ろすが、ハヅキはそれを後退して回避する。
龍「チッ、避けられたぜ……。」
理「翼から話は聞いた。どうする?」
俺と龍斗が理美火に近い位置に着地すると、理美火が相手の動きを見ながら問う。
翼は例の叩き付け攻撃を誘えとか言ってたな……。
先ほど二人が攻撃を受けた時のことを思い返してみると、確か二人で突っ込んで行ってただろうか。
ならほぼ三人同時に斬りかかってみるか。
叩き付けを起こすなら多分これだろう。
雨「……俺は上、お前は横。龍斗は前から突っ込め」
理「了解。」
龍「おう、任しとけ!」
短めに言葉を交わすが速いか遅いかで走り出す俺達。
指示通り、理美火は左から回り込んで斬り掛かる態勢に入っている。
俺は跳躍し、ハヅキに向かって刀を叩き付けの準備を整え、龍斗が猛スピードで走ってきた。
ハヅキ「三人で突っ込んでくるなんて、もしかして学習能力無しなの?じゃあこれでまとめてふっとば……」
棍がオレンジの光を帯び、ハヅキがそれを振り上げる。
その瞬間、ハヅキの足元に白い術式が広がり、ハヅキの体が白い羽根のような光と共に、ふわりと浮き上がった。
ハヅキ「へ!?うわうわうわ!!!」
振り上げ体勢のまま、後ろに体重をかけた状態だったハヅキは、呆気なく態勢を崩し、後ろへすっ転んだ。
空中で手を放してしまったらしく、がらんがらんと音を立てて棍が後から地面に転がり落ちる。
急に目の前の相手がすっ転んだ俺達は目標を失くし、急停止せざるを得なくなった。
俺の叩き付け攻撃は空振りに終わり、龍斗は俺に激突する寸前で止まる。
理美火も困惑を隠しきれない様子で鎌を構えたまま固まっていた。
龍「な、なんだ!?何が起きた!?」
「いてて……」と強打した腰の辺りを擦るハヅキを他所に、龍斗が辺りをきょろきょろし出す中、俺は術式の主に少し心当たりがあって後ろを振り返る。
そこにいた翼は、ただ静かに、にこにこと笑っていた。
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