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      ***

あのにっこにこな笑顔を見てわかった。
術式は、翼が仕込んだものだと。

まず、このトリックを解くには、さっき翼が俺に掛けた、フェズリィライトという速度上昇の術。
そして羽属性という属性の解説をしなければならない。
白い羽根のような光が舞う事から、光属性の下位属性という扱いになっているこの属性だが、その性質は殆ど磁属性の重力操作に近く、その操作の中でも“兎に角モノを軽くする”という部分に特化している。
フェズリィライトは恐らく、“人の動作や重力を軽くし、速度を上げる”という作用だから、俺の体は軽くなったし、動きも速くなり、回避率も上がったのだろう。
そこに合わせて翼は、“指定した何かの物体(武器とか体とか)に触れた対象を浮かせる術式”を忍ばせた。
起動時に詠唱が無かったのは、俺にフェズリィライトを掛けた際に一緒に済ませていたからか、離れている間に詠唱を済ませたか。
詰まるところ、発動条件を限定的にし、的確なタイミングで発動するように調整したと見える。
正確には“時限式トラップ”といったほうがいいだろうか。

あいつは仕掛けたんだ。
俺がハヅキの棍と刃を交えた時、秘密裏にそれを付与し、そして、相手が得物を振り上げた瞬間に作動するという“トラップ”を。
この手の“トラップ”はあいつの十八番だ。

ハヅキ「── あっはっはっはっは!!これは一本取られちゃったなぁ」

爆笑し、服に付いた砂を払ってハヅキが立ち上がる。
警戒して武器を構え直す俺達。
第二回戦があっても不思議じゃない状況だしな。

ハヅキ「はははは……ふう……あー面白かった。もう武器降ろしてよー、こっちは戦う気ないからさ。」

ハヅキは地面に転がった棍を回収すると、バトンサイズまで縮小させて、それを収納した。
それを確認して、俺達も武器を収める。
とはいえ不意打ちがないとは言えないので、警戒は解けないが。

ハヅキ「さて、これが約束の物だよ。……お母さん治るといいね。」

聖「あ、ありがとにゃ」

すたすたとハヅキが聖來の元に歩き、薬が手渡される。
まあ母親に飲ます前に、まずは成分調べてからの方がいいと思うけどな……。

ハヅキ「負けちゃったし楽しかったから、約束通り帰っていいよー。あぁ、軍も撤収するし、もう商人にも手出ししないから、安心してね。……僕もそろそろ帰るし。」

そう言って背を向けるハヅキ。
俺達がここに来た理由も解決するとのことだった。
……まあ、すんなり信用とは行かないが。

聖「ま、待つにゃ!!」

それを聖來が止めた。
誰もが止めるとは思っていなかった。
ただ、聖來の目には、少しの心配の色があった。

聖「お前、なんで魔王軍なんてやってるんだ?」

ピタリ、とハヅキが止まる。
まあ確かに、ひーと達くらいの歳の子供が軍にいるのは、あまつさえ何かの施設を任されるような地位にいるのは、中々無いことだし、気になるのもわかる。
主に地上にある大半の軍や騎士団は、基本的に15歳前後から正式軍属が可能になるはずだ。
士官学校とかもあるって聞いたことがあるし。
まあ、そうじゃない国もあるのかもしれないが。
軍の事情はあまり知らないしな。
ハヅキは“機関機工長”と名乗った。
響きからして人を束ねているとしか思えない称号だ。
彼はどう見ても14歳にしか見えない。
……そういえばイラファートで見たエレミールなんかも、おおよそ成人はしてなさそうな外見だった。
……まあ、悪逆と報道される魔王軍なら、子供を使っててもおかしくはないが……。
……頭痛がしてきた、さっき吹っ飛んだ時に何所かぶつけたか?

ハヅキ「……クライアントは知らなくていいことだよ。聖來さん。
……じゃ、さようなら。」

首だけでこちらを振り返り、にっこりとした笑顔でそう告げると、ハヅキは去っていった。
こちらに二の句を告げさせない、圧のある、「これ以上踏み込むな」という笑み。
だがあの笑みが、肯定していた、何もないわけではないということを。

聖「……」

桃「……まあまあ、きっとまた会う機会もあるわよ、そんな気落ちしないの。」

やや悄気る様に項垂れる聖來。
それを桃花が優しげに宥めているが、相手が魔王軍である以上、また会う機会なんてのも良くないものな気がしてならないが……。

龍「ったく、ちっと消化不良だぜ。罠仕掛けるんなら言えよな翼!」

翼「言っちゃったら罠の意味がないでしょう?それに龍斗さん、あなた敵に覚られずに動けますか?」

翼が罠を張ったというのは理解したらしく、龍斗が悪態をつく。
それに翼は呆れたように返すが……まあ、俺にぐらいは言っておいてくれても良かったのでは?とは思うな……。
ただ、翼は割とそういう、自分がやる場合は言わないみたいなのがあるから、俺の心労解消のためにも、若干治して欲しい所ではある。

理「偶にビビるんだよな……翼の作戦。」

翼「……あーーはいはい、言わなかった僕が悪かったですから、もうさっさと出ましょう。帰ってから聞きますから」

戦闘参加者からの非難の目を浴びて居心地が悪くなったのか、翼が帰還を促し始めた。
……まあ、さっさと帰るのがいいか。

炎「ここにあるケーキ、持って帰っちゃダメかなぁ」

翼「ダメに決まってるでしょう、何が入ってるかわかったもんじゃないんですから!」

理「待てひーと!!お姉ちゃんが後でメロンのケーキ買ってやるから!!持って帰らないでこっち来なさい!!」

気が抜けて腹が減ったのか、ひーとがそんなことを言い始めた。
慌てた翼と理美火が止めに入る。
……ほっといたらまじでひーとがケーキ食い始めそうだ。
さっさと撤収しよう。

      ***

─── ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

ケーキを名残惜しそうに見るひーとをソーサーから引っぺがして部屋から出ると、途端にけたたましい警報音が耳を劈いた。

「この洞窟はこれより爆破されます。速やかに撤退されたし!!繰り返す!この洞窟はこれより爆破されます。速やかに撤退されたし!!」

無線から爆音で流れるアナウンスに、俺達は驚愕する。

龍「おいおいおいおい、何か今爆破とか聞こえなかったか!?」

雪「な、なんか揺れてない!?」

音「い、いいいい岩降ってきましたよ!?」

狐「あいつ!!オレらのこと生き埋めにする気やん!!!!!!!」

龍斗、小雪、音波、狐が狼狽える。
俺も例外じゃなく狼狽えているが、狼狽えている場合ではない。

雨「走れ!!」

とにかく入り口を目指して走るしかない。
この洞窟は一本道だ、とにかく灯りの見える方へ走れば間違いないはずだ。

真「たぁ!!!!」

落下してきた岩を真が粉砕してくれた。
ありがとう、助かる、超グッジョブ。
真の蹴りには理事長の辺りから助けられっぱなしだ。

氷「で、出口が見えてきたわ!!」

中腹の分かれ道まで戻ってきた辺りであいすが言う。
確かに外の灯りが遠くに見えていた。
しかし……。

─── ガラガラガラガラガラ!!!!

岩が落ちてきて道が塞がった。
すぐさま真が蹴りを入れる。

真「……分厚い……」

先ほどの岩とはえらい違いらしく、びくともしなかった。

雪「ちょっと!?龍斗!!あんたの馬鹿力で何とかしなさいよ!!!」

龍「無茶言うなって!!」

小雪が龍斗に詰め寄る。
やめろ小雪、恐らくだが龍斗にやらせたら俺達ごとここも崩れて埋まる。
龍斗のパワーでも真の蹴りでもダメとなると、万事休すかもしれない。

冷「……待って。思いついたことがあるんだけど、試してもいい?」

冷音が冷静に手を挙げた。
ひーとが振動でやや震えながら問う。

炎「な、ななな何、思いついたことって」

冷「……転移の術式を思い出したんだ。移動距離が短くて遠くには行けないけど、これなら出られるかも……。」

転移の術式……さっきあいつらが使っていた瞬間転送術式と似たようなものだろうか?
使ってるのも見たことがない上、術式なら失敗の可能性もあるが、この状況を打破できる可能性があるなら、賭けてみてもいいかもしれない。

雪「ここから出られるなら何でもいい!!早く試してみてよ!!」

冷「……わかった。」

崩落の恐怖でどうにかなりそうな小雪がややヒステリックに叫ぶ。
対称的に、冷音は静かに頷くと、赤紫色の術式を展開した。

冷「……我らを運べ、箱の外へ。エントラーダフーガ!」

白い光が、俺達を包んだ。





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